009:喘息児の母親は本当に過保護?(平成9年8月27日)

以前、小児喘息は母親が子供を甘やかすことが原因と考えられ、母原病という病名をつけられた時代があることは、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?いや、現在でもそう考えている医療従事者や一般の方々が結構いるようです。

少なくとも最近は、精神的因子で喘息発作が誘発されることはあっても、喘息の根本的原因ではない、と認識されています。精神的因子で発作が誘発されるのは、気道炎症が不完全であるからに他ならないのです。

すべてに当てはまるとは思いませんが、私は最近、母親が過保護だから子供が喘息になるのではなく、子供が喘息になったから母親が過保護になるのではないか、と考えるようになりました。子供が発作で苦しくて度々病院を訪れている時は、確かに「このお母さん、少し過保護だなぁ。」と感じる場合があるのですが、すっかり良くなってみると、おばあちゃんに子供を預けて診察に来させる場合もあったりするのです。子供が苦しんでいるのに過保護にならない母親なんてどこにもいないのではないでしょうか?

寄稿集」の(02)の患者さんですが、彼女は24歳の頃、喘息で1度死に目にあっているのです。彼女の父親はそれを目の当たりにしたのです。彼女の喘息の調子が良くなかった頃、「診てもらえないでしょうか?」と時間外に私に電話をかけてくるのは、いつもそのお父さんでした。また、定期受診時でも、彼女の調子が悪くて私が、「点滴しましょう」と話をすると、いつもどこからかそのお父さんが出てきて、「入院させていただけませんか?」とお願いされたのです。

正直なところ「娘さんももういい年なのに、随分と過保護なお父さんだなぁ。だから彼女の喘息も良くならないのかなぁ?」と考えた時期があったことは事実です。

しかし、彼女もすっかり元気になって、どこでもかけずり廻っている最近では、とんとそのお父さんの顔を見ることはなくなってしまったのです。

最近そのことを彼女に正直に聞いてみましたら、「そりゃ、親だったら誰だって過保護になりますよ」と言われました。

喘息児の母親は本当に過保護なのでしょうか?すべての喘息児がすっかり良くなったら、もう一度統計をとってみたいものです。