012:思春期の喘息治療は難しい。(平成9年8月29日)

今日、高校1年生の喘息の患者さんが来院しました。

「薬だけ下さい」とカルテだけ廻ってきたのですが、カルテを見ると4、5日前に時間外で発作で点滴を受けているのです。私は、「これはいけない」と思って、彼を呼びだし、「発作が起きるほど具合が悪いのに薬だけなんて駄目じゃない。どうして発作が起きたの?」と聞くと、「発作止めのメプチンエアーがなくなったので、発作が起きました」というのです。「今はもう大丈夫なの?」と聞くと、「はい」と言うのですが、診察すると肺に音が入り、発作が起きているのです。「駄目だね、これじゃ。ぜんぜん治療になっていない」とぼやいてしまいました。

彼は、中学3年までは小児科で治療され、内服薬の他にメプチンエアーの屯用でコントロールされていました。高校進学に際し私が診るようになりました。

極端にメプチンエアーに依存性があり、それがなくなると発作が抑えられなくてしばしば時間外や夜間救急受診になってしまいます。以前、そこの病院では、もう危険だからメプチンは出せないと言われた時、他の病院を無断で受診し、メプチンエアーを常用していることを偽り、処方してもらっていたというエピソードがありました。

吸入ステロイドやピークフローはつけさせているのですが、ほとんどのようにメプチンを吸っているので、ピークフロー値が信頼できないのです。吸入ステロイドも吸っているのかいないのか本当のところはわかりません。部屋には山のようにベコタイドが余っているという話も聞きます。

先日、その病院の看護婦さんが、街角で彼がタバコを吸っているのを見かけたそうなのです。

この年頃は、喘息がなくても色々な問題があります。若いから無茶もしたくなる年頃で、健康への配慮という点では、最も欠落する時期です。喘息死がこの年代に多いというのは、とてもうなずけると思いました。

私は、彼(○○君)にこう言いました。
1年間で約6,000人、1日で約16人もの人が喘息で死んでいるんだ。そして、○○君のような年代の人が、一番喘息で死んでいるんだよ。今は高校生だから発作が起きて学校を休んでも誰にも迷惑は掛けないが、社会人になったら喘息だからとの理由で簡単には休めなくなるんだよ。皆に迷惑がかかるし、それを繰り返しているうちにだんだんと会社などに居づらくなってしまうことだってある。先生は、喘息のために会社をやめなくてはならなくなった人や結婚できない人をたくさん知っているんだよ。喘息で死んでしまえばそれで終わりだけど、喘息のために死ぬより辛い目に遭っている人だっているんだ。確かにそういう社会であってはならないと思うけど、それが現実なんだ。もしかしたら十年先に新しい治療法が発見され、○○君が大人になる頃には喘息は完治しうる病気になっているかもしれないけど、少なくとも今はその望みはないんだ。先生は、○○君には絶対こうなって欲しくないから、うるさく言っているんだよ。自分の病気は自分で治さなくてはいけないね」

彼は、黙ってうつむいて聞いていましたが、どう感じたでしょうか?前途揚々とした彼に喘息のもつ厳しい側面を教えたくはありませんでした。しかし、そうでも言わないと、健康に気をつけてくれないと判断したのです。私は間違っていたでしょうか? こうすれば良かったという考えのある方、是非教えて下さい。

小学校低学年のうちから、健康の尊さを教えられるような授業があればよいのかな?とも考えています。

今日の外来の先頭に彼が来たので、予約受診が大幅にずれてしまいました。