026:ベロテックの吸いすぎが喘息を悪化させる。(平成9年9月29日)

先日、毎日新聞にベロテック(フェノテロール)の吸いすぎが喘息を悪化させるとの記事が掲載されていました。これは、昭和大学医学部の小児科の飯倉教授らが行った動物実験結果で、先週仙台で開かれた国際エアロゾル医学会で発表されたものでした。以下にその全文を紹介します。


『吸入薬でぜんそく悪化〜連続使用で発作起きやすく』

 ぜんそくの発作を抑える薬がかえってぜんそくを起こしやすくしていることが昭和大医学部の飯倉洋治教授(小児科)の研究で明らかになった。仙台市で開かれているで26日発表した。今年5月、7年間で7人が死亡したとして厚生省が過剰投与防止を呼びかけた気管支拡張剤「フェノテロール製剤」(商品名・ベロテックエロゾル)などの吸入薬で、薬の作用そのものが患者に過剰投与をさせていたことになる。
 飯倉教授はこの種の吸入薬の単独使用をやめ、ほかの薬との併用を呼び掛けている。フェノテロール製剤などはぜんそくの発作で気管支が収縮した時に使用する気管支拡張剤。気管支にある「βレセプター」に薬剤が働き、気管支の筋肉を広げることからβ刺激薬と呼ばれる。しかし心臓のβレセプターにも働いて、不整脈や心停止などの副作用も起こすことが知られていた。
 飯倉教授はこの種の薬を習慣的に使用した患者は発作が起きるまでの期間が短くなることに気付き、作用を調べた。
 人工的に喘息アレルギー状態にしたモルモットを対象に、フェノテロール製剤を少量使う群と同製剤を大量に使う群、炎症を抑えるステロイド剤の単独投与群、生理食塩水を単独投与する群に分け、気管支を刺激するアセチルコリンを与えて気管支の過敏性を比較した。
 2週間実験した結果、フェノテロールを与えたグループは与えなかったグループの4分の1の濃度のアセチルコリンで発作を起こすようになることが分かった。また、フェノテロールと同じβ刺激作用を持つほかの薬を連日使うと気管支のβレセプターの数が減少していた。
 飯倉教授は「厚生省は使い過ぎが心臓への負担を大きくするという理由で過剰使用しない要注意を呼びかけているが、使用量の問題ではない。アレルギーによる炎症を治すステロイド剤を併用すべきだ」と話している。


実は、この実験内容は、櫻井よしこさんの文芸春秋6月号の「喘息患者がつぎつぎと死んでゆく」の中でも紹介されています。恐らく、毎日新聞は、一連のベロテック問題を背景にこの記事を取り上げたのかもしれません。

私は、この点に関し3つのことをコメントしたくて、この記事を取り上げました。

1つは、この点は我々専門家の間では、4、5年前程から周知の事実であって、特に注目に値しない結果である点です。「そんな大切なことを何故もっと取り上げないのか?」とお叱りを受けるかもしれませんが、ここで強調したいのは、やはりこの事実はベロテックだけに限ったことではない点であります。やはり、喘息が気道炎症に由来するという概念変化があまり深く浸透していない頃、作用時間の長いβ刺激噴霧剤を発作が起きる起きないに関わらず定時で投与された時期があったのです。しかし、すでにその頃から、この投与方法は喘息の本態である気道の過敏性を亢進させるらしいということがわかり、次第に下火になって行ったという経緯があるのです。決して新しい事実ではない点をまず強調しておきたいと思います。

2つは、それと関連することですが、この実験には他のβ刺激薬が対照薬に設定されていない点であります。メプチンやサルタノールはどうだったのでしょうか? 対照薬がなければ、フェノテロール自体が悪いか、吸入させたこと自体が悪いのかまったくわからないことになります。私たちは、β刺激噴霧薬の媒体であるフロンガスを吸入させただけで発作を起こした症例を「呼吸」という専門誌に発表しています。繰り返されるフロンガスの吸入刺激が気道過敏性増悪の原因になっている可能性もあります。従って、この実験は、マスコミで取り上げられたベロテック問題に何らかの形で応える意味で、特別に計画されたという気がしないでもありません。それはそれで構わないとは思いますが…。

3つは、櫻井さんや薬害オンブズパースンの「ベロテック販売中止要求」との関連です。この記事でもはっきり述べられていますが、ベロテックの使い過ぎが心臓への負担を大きくすることが危険なのではないのです。先日、日本小児アレルギー学会の松井先生(この先生はこの度のベロテック問題の発端となった小児喘息死調査委員会の委員長でもあります)が、やはり「呼吸」という専門誌の9月号に「小児喘息で死亡した患者を解剖したところ約80%は発作による窒息死」と述べております。薬害オンブズパースンの浜先生とはもうかれこれ3カ月間論議していませんが、ベロテック乱用の危険性が心臓死を引き起こすのでないことが判明したのであれば、ベロテック自体は喘息死増加の犯人ではないことは明白です。一刻も早く、薬害オンブズパースンは「販売中止要求」の取り下げを公表し、他の重要な問題に着手すべきです。また、櫻井さんは信頼性が少しでも残っている今のうちにこのベロテック問題から身を引くべきです。見事な引き際はしばしば日本人には感動を与えるものだと思います。もちろんしかるべき責任はとるべきとは思いますが…。