082:ベコタイドからフルタイドへ。(平成10年12月1日)

平成10年11月27日、フルタイドがついに販売開始されました。

さっそく、何人かの読者から質問を受けています。近日中に「特集・フルタイド」を公開しますが、とりあえず必要な情報をここで列挙しますので、参照下さい。

あらかじめお断りしますが、フルタイドの日本での使用はまだ臨床治験段階でしかありませんので、使用経験のない医師がほとんどです。また、フルタイドはこれから臨床の場で実績を積んで行く若い薬なので、まだわからないこともたくさんあります。しばらくは多少の混乱が予想されますが、以下の情報を踏まえて冷静に対処して下さることをお願いいたします。

(1)フルタイドの種類と薬価。

種類

フルタイド

ベコタイド

1回量(ug)

50

100

200

100

薬価(\)

34.50

46.20

62.80

22.12

1日最大処方(ug)=1 disk

200

400

800

(400)

1日最大薬価(\)

138.00

184.80

251.20

(88.48)

1回の最大処方量(7 disk)

1400

2800

5600

2缶(120回)

1回の最大薬価(\)

966.00

1,293.60

1,758.4

2缶=2,654

※( )は比較のための参考値。
※量によって薬価が単純に半分や倍にならないのは他の薬剤でも同じ。
※フルタイドには、1つのブリスター(薬の入っている薬糟)に50、100、200マイクロの薬剤が入っている3種類の剤形が販売されている。これが4ブリスター1組で
1ディスク(枚)となっている。1日最大1ディスクの使用が原則で、1回に最大7枚まで処方可能
※実際に支払われる金額は、上記価格の国保で3割、社保(本人)で2割となります。

(2)フルタイドはベコタイドの2倍の薬理学的効果、4倍の臨床効果。

ベコタイド100を1缶(¥1,327)を60噴射で計算しますと、ベコタイド1噴射すなわち100マイクロは、¥22.12になります。単純に100マイクロで比較すると、フルタイドはベコタイドの46.20/22.12=2.09倍になります。

しかし、例えばベコタイド100で1日400マイクロ吸入を行っている方は、フルタイド200で1日2回ですから、ベコタイド¥88.48に対し、フルタイド¥125.6(62.80*2)で1.42倍となります。

さらに薬理学的にフルタイドはベコタイドの2倍の抗炎症作用を有すると言われていますので、ベコタイド1日400の方は、フルタイド1日200で済みますから、ベコタイド¥88.48に対し、フルタイド¥62.80で0.71倍むしろ安くなります。ただし、これをフルタイド100で1日2回行いますと、ベコタイド¥88.48に対し、¥46.20*2=¥92.40とやや高くなります。フルタイド100と200が両方揃っているかどうかは、その医療機関の事情に左右されますので、多少価格は変動します。

フルタイドの臨床効果はベコタイドの4倍という数字もあります。これは、吸入効率がベコタイドより優れているからなのでしょう。例えば、同じ100マイクロを吸っても、ベコタイドは10%しか気管支に到達しないのに対し、フルタイドがもし20%到達すると仮定するとこうなります。しかし、吸入の効率はある程度ヒトによって異なるので、一概には言えない数字です。もしこれで単純に計算するとベコタイド1日400で十分コントロールできている方は、フルタイド1日100(\46.2あるいは\34.5*2=\69.0)で維持可能なのではないかと思います。従って、経済的にもフルタイドの方が安く上がると考えられます。

ただし、これはまだ私の印象ですが、状態の悪い喘息を良くする段階ではある程度大量に必要になるのではないかと思います。炎症を鎮める効果と悪化を防止する効果では量が違ってくるような気がします。この辺はこれからの課題です。

(3)処方上の問題点。

ベコタイド100は1缶60噴射が原則ですが、薬剤はかなり余分に入っています。フルタイドは1度そのブリスター(薬の入っている約糟)を破いて使ってしまいますと、その後は吸えませんので、回数はより厳格になります。

もう一つの問題は、新発売でしかも外用薬なので発売後2年間は1週間分7ディスクしか処方できないという縛りです。どの新薬も発売後2年間はこの縛りがあるのがきまりです。しかし、2年後には2週間分すなわち14枚まで処方できるようになります。

残量を計算に入れないと、ベコタイド1日400の方は約2週間で1缶なくなります。2缶処方すれば1カ月もちます。フルタイドは最大1日800マイクロ(200の薬槽ので1日1ブリスター)ですので、1週間分すなわち7ブリスターしか処方できません。ただし、本当はフルタイド1日400で十分な方に1日800として倍量処方し、2週間もたせることは可能です。もし本当にフルタイド1日800を必要とする方は、毎週受診して処方してもらう必要があるわけです。しかし、この量はベコタイドでは薬理学的に1日1,600、あるいは臨床的に3,200に相当しますので、特殊な方を除いてこのような方はあまりいないのではないかと思います。

例えば、ベコタイド100で1日12吸入の方は、薬理学的にはフルタイド1日600、臨床的にはフルタイド1日300で、維持可能かも知れません。1回にフルタイド200を7枚(¥251.2*7=¥1758.4、これの3割負担で¥527.5)処方してもらえば、200*4*7=5,600マイクロになりますから、単純計算で5,600/600=9.3、5,600/300=18.6と、薬理学的には約10日、臨床効果的には約20日もたせることができるでしょう。しかし、あくまでピークフロー値を目安にその変換量で現状維持が可能かどうかモニターする必要があるでしょう。

(4)吸入方法。

機器の細々した使い方はすぐになれると思いますが、これまでのベクロメタゾンの吸入方法とは180度変わります。これまではゆっくり吸わないとのが、できるだけ一気に吸うことが重要です。ゆっくり吸うと途中で粉が沈着してしまい、気管支に到達しないばかりか、逆に副作用の原因になるでしょう。むせるのではないかと心配の方がいるかと思いますが、私も吸ってみましたが、この心配はないようです。ベクロメタゾンのような長い息こらえは不要です。うがいは同じで必ずして下さい。

(5)経口ステロイドの減量効果。

フルタイドで、それまで経口ステロイド(5〜20mg/日)を長期に渡って使用してきた方の約90%の方が、減量あるいは中止できたという報告があります。

(6)副作用。

これまで副作用が少ないと言われていたベクロメタゾンよりもさらに、副腎皮質抑制など全身副作用が少ないと言われています。これはすなわち、ベクロメタゾン同様に経口吸収の効果が期待できないと言うことです。

(7)環境への配慮。

フロンガスを使用していませんので、オゾン層を破壊する心配はありません。

(8)小児への適応。

海外では、小児(4歳以上)に対してはすでに広く適応されており、臨床効果と安全性は確かめられていますが、日本での使用経験例はまったくありません。しかし、小児への適応がないとうことはありません。しばらくは主治医の判断と言うことになるでしょう。小児には50の製剤のみが適応のようです。

すでにフルタイドが普及しているフィンランド(人口約500万)では、喘息死が年間でも2桁、小児喘息死に至っては年間ゼロという脅威的な数字が出されているそうです。これは、小児科領域でもインタールを通り越してフルタイドを優先的に使用するようになってからとのことです。潜在的な副作用を心配するあまり、その使用をためらう方は今後も存在するとは思います。しかし、副作用を恐れて喘息死してしまっては何にもならないと思います。変な言い方かも知れませんが、生きていてこその副作用ではないでしょうか?

(9)今後のおこりうる問題点。

小児を含めて、高齢者や低肺機能患者など吸引力の弱い方への適応が今後の課題でしょう。

(10)その他。

タバコによる肺疾患(慢性肺気腫や慢性気管支炎など)の症状を和らげ、呼吸機能を改善するという報告があります。しかし、タバコを吸い続けても良いかというとそれは別問題です。

以上、差し当たっての情報のみをお伝えしました。