086:新・医者にかかる10箇条<再掲載>。(平成11年1月11日)

このコーナーで以前「055:厚生省が提案した医師と患者の良好な関係を維持するための10箇条。(平成10年4月9日)」を掲載しました。私は、その10番目の「治療方針は患者が決定すること」の項目を強調したくて紹介したのですが、10項目すべては、その後色々調べたのですが、詳しい情報が得られなくて空白にしておきました。

本日、日経メディカルに詳細が載っていたのを発見しましたので、お知らせします。これは、「ささえあい医療人権センターCOML」が、以前私が紹介した厚生省の10箇条を患者の立場で昨年10月に見直したものです。

(1)伝えたいことはメモして準備

(2)対話の始まりはあいさつから

(3)よりよい関係づくりはあなたにも責任が

(4)自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報

(5)これからの見通しを聞きましょう

(6)その後の変化も伝える努力を

(7)大事なことはメモを取って確認

(8)納得できないときは何度でも質問を

(9)医療にも不確実なことや限界がある

(10)治療方針を決めるのはあなたです

このうち、問題の(10)は厚生省の10箇条では「(10)よく相談して治療方針を決めましょう」となっていたので、この新10箇条はより患者主体の立場を取っていることが分かります。私はこの立場は大いに支持します。

そもそも持病があって長く病院通いが続いている方は、医者を始めとする医療機関に関わっていますから、最近の医療事情にある程度はついて行けるはずです。しかし、健康な方は、普段は病院の世話になることはほとんどないので、こういう方が初めて病気、特に喘息のような慢性の病気にかかったときに、この10箇条をよく読んで欲しいと思います。

また、この10箇条には、診察室で効率よい医師と患者のコミュニケーションを作るという基本理念があるように思います。「3時間待ちの3分診療」などと大きい病院の悪口を叩かれますが、これは医療従事者の責任もさることながら、その何割かは患者側の努力でも解決できるのだということを伝えていると思います。


この10箇条について、いくつかコメントさせて下さい。

(1)伝えたいことはメモして準備

 物忘れのひどいお年寄りや診察室で緊張しやすい方などには何を聞いたらいいか忘れてしまう方がいます。そんなときはぜひメモしておくといいと思います。逆に、我々も診察室で患者さんがメモを持ってくるのを見ると、「ははーん、これはかなり重要なことなのだな…」、「よほど困っていて聞きたいことなのだな…」とこちらも真剣に対処するようになるものです。
 これと関連して余分な薬や必要な薬(臨時の風邪薬や塗り薬など)をメモして行くのも同様に大切ですね。診察室で、「あの赤い玉の薬をください」とか、「白い粉の薬を下さい」と言われても我々はすぐには把握できません。同じ薬が余分にあればそれを持参してみせるのも良いアイデアですね。

(4)自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報

 ここで注意していただきたいのは、自分の症状を事細かく羅列する方が多いことです。診察する側は、色々な疾患を想定しながら最も重要な症状を時間経過で把握しようと努めます。まずは誘導尋問される気持ちで、診察医の質問に必要最低限、要領よく答えて下さい。しかし、それでも自分で訴えたい病状があれば最後につけ加えるようにしていただきたいものです。

(5)これからの見通しを聞きましょう

 これはとても重要なことです。風邪で受診し、風邪薬を3日分もらったら、その後どうしたらいいのか(良くなったらもう来なくて良いのか、何日ぐらい飲んで症状が良くならなかったらまた来るべきなのかなど)を必ず聞いて下さい。喘息など慢性の病気はなおさらですね。

(6)その後の変化も伝える努力を

 これは、慢性疾患でかかっている患者さんなら当たり前のことです。風邪などでたまたま出張先の医院などにかかった場合は例外として、かかりつけの医師がいる場合は、できるだけその後どうなったかを報告することは、次にかかったときに重要な情報となります。例えば、あまり良くならず大きな病院でレントゲンを撮って肺炎と診断された、など。(もちろんこの場合、良くならないからとすぐ他の病院を受診することは賢明ではなく、最初の医者へ良くならない旨を報告することが重要です。そして大きな病院を紹介しいてもらうことが理想ですが…)
 患者さんの重症感にもよりますが、医師は、最初から大きな病気を想定することは少なく、まずありふれた病気を考えて対処します。しかし、その通常の治療で良くならないときはもっと重篤な病気を想定して検査や治療、あるいは専門医への紹介を行います。例えば頭痛がするから、「すぐCTを撮りましょう」と検査をするのは、最先端医療を行っているように見えますが、その前にもっともっと行うべきこと(経過を聞く、診察をする、対症的に処置をするなど)があるのです。
 あの医者にかかったけど全然良くならない、とすぐ薮医者呼ばわりするのは如何かと思います。((5)とも関係しますが、医師は今後の見通しについて詳しく話しをしてくれるのが理想です。また(8)とも関係しますが、良くならないときはしつこく病院へ通って何度も訴えてみることですね)

(8)納得できないときは何度でも質問を

 医者は患者を良くしてなんぼの商売です。納得できないこと、ちっとも良くならないこと、などがあればできるだけ訴えるべきです。訴えることは患者の責任です。良くならないのに、「いくらか良いようです」などと曖昧な医者を気遣った表現は慎むべきです。医者の機嫌をとるために病院へ行くのではありません。あなたの症状が良くなるために病院へ行くのです。

(9)医療にも不確実なことや限界がある

 これは我々には実にありがたい一項目です。医療あるいは医学は不確実なことばかりで、本質のところは何も分かっていないことが多いのだということは大いに理解していただきたいと思います。妙に断定的な言い方をしたり、検査や治療を押しつけたりする医者は要注意かもしれませんね。
 また、この項目は医療を過信しないで頂きたいとも言い換えられます。医師によっても専門性や個人能力には大きな開きがあることが現実なのだということです。もちろんこれは今後改善されなければならない点ではありますが、もう少し現実も見ていただきたいものです。学問の進歩は目覚ましく、しかもその情報伝達のばらつきは避けることができません。医師によって言うことが違うからとすぐ戸惑わないで下さい。
 ここにセカンド・オピニョンの重要性・必要性が出てくるのだと思います。できるだけ多くの医師の意見が聞けるような医療制度になって欲しいものです。

(10)治療方針を決めるのはあなたです

これは、以前に述べましたので省略します。


最後に、効率良い診察を行うための私なりのささやかな3箇条を提案します。

(1)診察しやすい服装で受診する

内科受診なのにワンピースやきっちりしたボディー・スーツを着込んで来院する方がいます。またお年寄りでは、寒いからと肌着を十二ひとえのように着込んでくる方がおります。これでは診察に時間がかかるのは当たり前です。また、こういう患者さんは診察してもらう意志があるのかな?と疑問にさえ思ってしまいます。

(2)診察室に入ったらすぐ診察できるようにする

特に冬場は厚着になります。病院は暖房が効いていますから、診察室に入る前にコートを脱ぐとか、上着のボタンを少しはずしておく、とか準備をしていただきたいと思います。これは私をよく診察して下さいという意志表示にもなります。

(3)診察が終わったら速やかに着衣をする

待合い室がガラガラなら何も言いません。しかし、何十人も何時間も待っている患者さんのことを思いやれば診察が終わって、診察室で一枚一枚ゆっくり服をゆっくり着て、ボタン一つ一つをゆっくりしめる、このような行為は自ずとできなくなるはずです。

でも、(3)はチト急(せ)かし過ぎかな? でも「3時間待ちの3分診療」を解消するために、皆さんもできるだけご協力下さい。