093:良くなってみて初めて分かること(自己体験記)(平成11年6月22日)

私は、数多くの患者さんから、吸入ステロイドを使い始めて、「こんなことができるようになった」、「これまでこんなことができると思っていなかった」など、良くなって初めて分かることの数々を教えていただきました。

大体の内容は、頭の中で理解できることでしたが、最近私自身も同じような体験をしましたので、ご報告させていただきたいと思いました。と申しましてもそれは喘息のことではありません。

恥を忍んで書きますが、アルコールの話しです。私はアルコール類(ビール、日本酒、ウイスキー)が大好きです。子供の頃から、親父が夕食では必ず晩酌する姿を見ていましたので、「日本男児たるもの酒が飲めなくてどうする」みたいに育ってきました。

私も成人し、結婚してからも毎晩晩酌をしていました。大体、350mlの缶ビールを2缶(夏は500ml缶)と寝酒がわりに日本酒一合かウイスキーのロック(水割りだと薄すぎて飲めない)を毎日のように飲んでいました。

まぁ、これぐらいなら大したことはないですが、宴会になるとこの量では済まされません。特に、正月、送別会シーズン、花見、暑気払い、芋煮会シーズン(山形だけ)、忘年会、…、酒を飲む機会は絶えることがありません。我々の職場では、例えば花見や忘年会でも1回で済むことは少なく、ほとんどは3、4回くらいは続いてしまいます。断らなければ、毎日飲むことだって可能な時期もあります。

元々、酒は強い方でしたので、これら宴会ではいつも二日酔いになるくらい飲んでいたものです。いつもどのくらい飲んだか覚えてないくらいです。これだけ頻繁に飲み会があるのだから、家にいるときくらい晩酌しなくてもいいのに、根が好きなものでしたから、止める理由がありませんでした。

しかし、2ヶ月くらい前から、身体に蕁麻疹が出るようになり、全身が痒くて痒くて仕方がなくなりました。酒を飲むと特に痒くなるのです。すぐ肝機能検査をしましたところ、酒飲みの指標であるガンマGTPがやや高い値を示したのです。でも、これくらいなら普通の酒飲みにはときどき見られる異常値で、特に酒を止めなくても良かったのですが、とにかくアルコールを飲むと痒くなるので、酒を止めることにしました

約1カ月半が過ぎますが、成人して二十数年間、こんなに長く酒を止めたことはありませんでした。最初は、飲みたくなったりしましたが、飲んだ後の痒みが恐いので、その気持ちを抑えることができましたが、その時「あぁ、自分は軽いアルコール中毒だったのだ」とつくづく思いました。考えてみれば、酒は好きでしたが、特に飲みたいと思わないときでも、つい手が出てしまうことが度々ありました。毎晩、帰宅すると女房がビールの栓を抜いてしまうので、特に飲みたくないときでも飲んでいました。

さて、私の蕁麻疹はどうなったかと申しますと、酒を止めてもすぐには良くなりませんでしたが、皮膚科の先生に見てもらい、飲み薬と塗り薬(ステロイド軟膏)を頂いてから、段々と良くなって行きました(このことは後で詳しく述べます)。

ここで本題ですが、酒を止めて2週間くらいした頃、朝起きたとき何となく身体が軽い自分に気がついたのです。とても不思議な感じでした。これまで経験したことのない壮快感でした。思えば、ここ2、3年間、朝はいつも頭がぼーっとしていましたが、毎日のことなのでまったく気がつきませんでした。酒を止めたことですっきりした自分に気がついて初めて分かったそれまでの異常な自分でした。これが、喘息の方が体験する良くなって初めて分かる症状なんだと身を持って納得することができました。

また、ゴルフした後、私は最近すごく疲れるようになっていました。一緒に廻った50歳くらいの方が、ラウンド翌日でも普通に仕事をしているのに、私は前日のプレーの疲れがやけに残っていて、特に月曜日はだるくて辛い日が多かったので、
「もう年なのかなぁ?」
これが偽らざる心境でした。しかし、酒を止めてから、ゴルフをしてもあまり疲れが残らなくなっていたのです。これも驚きでした。最近、恥ずかしながら自分の体調に自信が蘇ってきたのです。

この他にも書ききれない細かな身体の変化はたくさんありますが、省略します。

蕁麻疹は、慢性飲酒による肝障害と多忙なストレスによる危険信号だったのだと考えています。しかし、そのことがきっかけでこんなにさわやかに過ごせる自分を見いだすことができて、とてもありがたいと思っています。

酒はストレス発散には最高かも知れませんが、今の自分は酒を飲まないことがストレス発散になります。しかし、つきあいですすめられた酒は飲まないわけには行きませんので、口を付けるくらいはしますが、それだけで酔ってしまい頭痛を起こす自分にこれまた再発見。すっかり下戸になってしまいました。でも、これで経済的に酔えるので酒代が節約できそうです。冷蔵庫の中にはいつ買ったか覚えていないビール缶が周囲のジュースや牛乳など他の飲み物から邪魔者扱いされています。


さて、今回の騒動に関しもう一つ印象的なことがありました。それは、ステロイド軟膏の話しです。私は、今回の蕁麻疹で、皮膚科の先生に診察していただきました。診断は、「成人型アトピーの初期」か、「肝機能障害による何らかの中毒疹」ということでした。

私は、痒みに対して、Aというステロイド軟膏を使っていましたが、あまり良くなっていませんでした。その皮膚科の先生にそのことを話したら、「A軟膏じゃなくてB軟膏の方が良いですよ」とアドバイスされ、そちらを一生懸命塗りました。そしたらやはり効くんです。
「やはり専門家は違うな」
と感激したものです。私の場合、診断はアトピーとは確定していませんが、アトピー性皮膚炎とステロイド軟膏の話題はこのホームページでも取り上げていましたように、私は「アトピーにもステロイドを使うときには使わなくてはいけない」という話しを聞いていましたから、私はてっきりA軟膏よりB軟膏の方が作用の強いステロイドだとばかり思い込んでいました。

しかし、私は薬の本で調べてみてびっくりしました。ステロイド軟膏は、作用の強さで4段階に分けられるのですが、A軟膏は強い方から2番目なのに、B軟膏はそれより弱い3番目の強さなのです。これは驚きでした。また、皮膚科の先生の味付けの妙にうならされました。
強いステロイドが必ずしも効くわけではないんだ
と感激してしまいました。

良くなってからその先生にお礼のメールを送りながら、その点をさりげなく聞いてみたのですが、その答えにまたびっくりしてしまったのです。そのメールの一部をご紹介します。

『ステロイド外用薬の強さはなんで決めているかというと、動物の皮膚を使った抗炎症作用や血管への影響など数値化出来るものでやっています。この値は当然、ヒトに使った有効性と異なったものになります。また、製薬会社の政治的圧力や、試験した先生とのコネなどで一段階ぐらいは動くこともあったという噂さもあります。多分先生がみた表はそういうもろもろの結果です。同じ段階のなかに入っていても実際にはかなりの違いがあります。また、感受性の問題も無視出来ないと思います。ステロイドのレセプターの研究から、遺伝的な親和性の違いが明らかになってきております。従って、あの表は初めて使う人のためにはある程度の指標にはなるにしても、皮膚科医はあまり信用していません』

なるほど…、私は思わずうなってしまいました。どこかのガイドラインとまったく同じではないかと…。

本当に色々なことが体験できた私の蕁麻疹体験記でした。