101:全身性ステロイドの副作用。(平成11年10月10日)

これまで、経口ステロイドの副作用について、断片的に色々な話しをしてきました。しかし、考えてみますと、系統的にまとめたことはありませんでした。

そこで、内科学の代表的な教科書から、「ステロイド剤と治療」を抜粋して紹介します。かなり専門的な記載がありますが、難しいところは読み飛ばして下さい。


◆ステロイド剤と治療

(1)ステロイド剤の薬理作用と生理作用

ステロイド剤は、抗炎症作用のほかに、抗体産生抑制作用、リンパ球障害作用、血管収縮作用、気管支拡張作用などがある。しかしステロイド剤のこれらの作用は投与量とも関係する。

たとえば、抗体産生抑制作用は、抗炎症作用に比べれば多量のステロイド剤が必要である。

通常、prednisoloneとして1日30mg以下ではその作用はみられない。一方、自己抗体に対する産生抑制作用は強く、5〜10mgでも認められる。

最近の知見として、ステロイドに強力なプロスタグランジン産生抑制作用が見出された。その作用点は、リン脂質よりアラキドン酸に変化するphospholipase A2であって、マクロコルチン、またはリポデュリンがこれを抑制すると考える。

したがって、非ステロイド抗炎症薬と異なりcyclooxygenase系の抑制のみでなく、lipoxygenase系の抑制を伴っている。

すなわち、この点でも非常に強力な抗炎症作用を説明することは可能である。

(2)種類と剤型

経口投与以外にも種々の投与法がありそれぞれの特徴を生かして使い分けると有用である。

最近の一つの進歩は、局所投与用のステロイド剤についてである。beclomethasone dipropienate (Becotide, Aldecine)などは吸入剤として気管支喘息および鼻アレルギーに有用であり、全身作用はほとんどない。外皮用としても有用である。

(3)適応症と使い方

ステロイド剤の使用にあたっては適応を十分考慮する必要がある。これはステロイド剤は副作用の多い薬剤であるからである。

(4)投与方法

やむなく使用する場合は十分量ないし適当量をまず与え、症状の改善に伴い減量する

長期投与(1〜2週間以上)後の減量は反跳現象離脱症状があるので、少量ずつ、かつゆっくり行う。

とくにprednisoloneとして10〜20mg以下は注意深く行い、減量は1週間に1/2〜1錠もしくはそれ以下とする。

ステロイド療法中は、症状がおさまっていても必要に応じた安静を守ることが大切である。

また、ステロイド剤により重篤な感染症などの症状が隠されていることがあるので注意する。非活動の結核にも十分注意する。

ステロイド剤使用中の事故、急性合併症、手術のさいにはステロイド剤を増量する。

生体の副腎機能のリズムは、朝方に血中濃度が最高を示し、その後漸減し、夕方から夜間にかけて最低値を示す。

したがって、ステロイド剤を投与するさいには副腎機能をなるべく抑制しないため、リズムにあわせて朝多く、夕方に少なく投与する。

たとえば1日4錠投与する場合には朝2錠、昼、夕方は1錠ずつにする。少量投与の場合には、生体のリズムを変えないため、朝1回の投与がよい。

しかし、臨床的には症状の増悪、時刻を参考にして就眠前に与えることが多い。

さらに、副作用軽減のためには、隔日投与、間欠投与がある。

副腎萎縮予防のためには、predonineのように半減期の長くないステロイド剤を使用する。

このほか、筋注、持続療法、パルス療法、ターゲット療法、点滴静注があるが、それぞれの長所をいかして使用する。

ステロイドを大量一時に注射し、それにより効果を十分に発現させようとする方法をパルス療法(pulse therapy)とよぶ。ミサイル療法(missile therapy)ともいう。方法としては、methylprednisoloneを成人では1日1,000mg、小児では15mg/kg、5%ブドウ糖などに溶解し、1時間以上かけて点滴注射し、これを3日間連続して1クールとする。必要に応じ1〜2週間隔で行い、最高3クールに及ぶ。最近はその他の種類のステロイド製剤の相当量を用いて行われている。難治のSLE、ネフローゼ、慢性関節リウマチ、再生不良性貧血などに用いることがある。

(5)ステロイド依存症

ステロイドを長く投与していて急に中止すると食欲不振、筋肉痛、関節痛、悪心・嘔吐、傾眠、頭痛、発熱、体重減少、起立性低血圧などがおこる。

これは急性副腎皮質機能不全によるもので、離脱症候群(withdrawal syndrome)とよぶ。

同時に抑制されていた臨床症状が再び出現し、ときに投与前より強く出現することがある。

これを反跳現象(rebound phenomenon)とよんでいる。

これを防止するために副腎皮質ステロイドの投与はなるべく少量かつ短期間に止めるべきである。

副腎機能低下よりの回復は、それまでの投与量と投与機関に関係しているが、これにも個人差がある。たとえば、小児では成人より回復しやすい。

(6)副作用と対策

ステロイド剤の副作用は、投与量によっても、また製剤によっても異なる。ステロイド剤の副作用は、通常、重症副作用(major side effect)と軽症副作用(minor side effect)に分けられる。

重症副作用が出現した場合は、ただちに注意深くステロイド剤を減量ないし中止する。

軽症副作用が出現したさいには、他のステロイド剤に切り替えたり、対症療法を行うことで、ステロイド療法の続行が可能なことが多い。

対症療法薬剤としては、利尿薬、止血薬、鎮静薬、降圧薬などが使われている。

ステロイド剤の副作用は、投与量と密接な関係があるので、投与量、とくに維持量はできるだけ少量ですませるべきである。

健常人が24時間で分泌する内因性のコルチゾール量は15〜20mgある。これはPredonine 5 mgに相当する

したがって、長期にわたって投与せざるをえない場合には、Predonine相当1日投与量5mg以下に抑えるように心がける。

この量だと重圧な副作用は普通発症しないとともに、副作用の発現頻度は著しく減ずる。

パルス療法の副作用としては、施行中、顔面紅潮、心悸亢進、脱力感、頭重、めまいなどを生ずる。これらは副腎皮質機能不全が一過性におこるためと考えられる。すなわち、パルス療法後、血清コルチゾール量は低下し、48〜72時間後回復することが知られている。高血糖やときに高血圧をみることがある。なお下表にステロイド療法のさいの留意点をまとめてみた。

◆ステロイド剤の副作用

◎感染増悪、誘発
○消化性潰瘍
◎糖尿病、過血糖
○血栓、動脈硬化、血管炎
○精神変調
○骨折
△副腎不全
△座瘡様発疹
△多毛症
△骨粗鬆症
△興奮
△満月様顔貌
△体重増加
△多尿
△白血球増加
△月経異常

皮下溢血、紫斑
色素沈着
脱毛
血圧上昇
心悸亢進、心電図異常
食欲不振
食欲異常亢進
便秘、鼓腸
下痢
咽喉の渇き
多汗
白内障
緑内障
頭痛、多幸症
憂うつ症、悪心
不眠

むねやけ
筋肉痛
関節痛
筋脱力、筋萎縮
易疲労性、条件条溝
エリテマトーデス様皮疹
腹痛
吐血、下血
胸肉苦悶、白血球減少
低カリウム血症
発熱
四肢温感、歯痛
浮腫
性器出血
性欲減退
甲状腺機能低下

◎しばしばみられる重篤な副作用
○重篤な副作用(major side effects)
△しばしばみられる副作用

◆ステロイド療法のさいの留意事項

1.多くの自覚症状の改善には1/2日〜3かかる
2.検査所見の改善には2〜4週間かかることがある
3.短期使用ですむ場合は多量投与も可
4.慢性に投与する場合にはPredonine換算1日5 mg以下に抑えるべく努める
5.減量には必ず適当な指標を参考にする
6.あるステロイドで効果が弱いときに、他のステロイドに変えると効果が明らかなことがある
7.少量でも慢性に投与すると骨粗鬆症や血管障害がみられることがある