107:現代はタバコがあまりにも入手しやすい!(平成12年3月3日)

喫煙は、肺癌のみならず、慢性肺気腫や慢性気管支炎の発症原因として重要であるばかりでなく、気管支喘息患者さんにとっては、発作の誘因となり、また気管支炎症からの脱却に大きな阻害因子となります。

日本の喫煙率は一向に低下傾向を示さず、最近では若い女性の喫煙率が増加しているといわれています。また、未成年者の喫煙も大きな社会問題です。

最近、税収が減ってくると、ガソリンやタバコに安易に課税しすぎるという批判もありますが、私は別の見地からタバコはもっと高くして然るべきだという考えでいます。

ここに紹介するのは、京大胸部疾患研究所の元教授・泉孝英教授の書かれた「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」(医薬ジャーナル)の中の資料で、現代日本では、いかにタバコが入手しやすくなっているか、について触れたものです。私もよく学生講義に使うのでここに紹介させていただきます。

物価の推移(単位:円)
 

日本酒
(1級酒1升)

たばこ
(ピース1箱)

娼妓
(1時間)

日雇労働
(1日賃金)

昭和11年
(1936)

2.48
(175%)

0.11
(10%)

3
(200%)

1.43

昭和29年
(1954)

835
(200%)

45
(10%)

500
(120%)

407
(300倍)

平成3年
(1991)

1,850
(15%)

220
(2%)

35,000
(300%)

11,350
(8,000倍)

まず、最右欄には、日雇労働者の1日平均の賃金を円で示しています。物価も当然上がってきていますから、昭和11年当時1.43円だったのが、昭和29年407円、平成3年11,350円となっています。

これに対し、日本酒1級酒1升を購入するのに、労働者は、昭和11年では給料の1.75倍、昭和29年では2倍も払わなければならなかったのに、平成3年ではさすがに酒も安くなってきて15%で購入することができるようになっています。

タバコはというと、ピース1箱を買うのに、昭和11年も昭和29年も給料の10%を払わなければ買えなかったのに、平成3年では給料のたった2%で購入できるようになったのです。昔は、1日40本も吸うヘビースモーカーは飯代や酒代を惜しんで吸わなければならなかったのです。ところが、最近では1日2箱吸ったって3箱吸ったって“ヘのカッパ”というものです。勉学にいそしむべき学生にしたってタバコを買うのはたやすいことです。これが、日本の喫煙人口の増加(あるいは非減少)や喫煙の低年齢化に結びついていると考えられます。

ここで面白いのは「娼妓」です。当時日雇い労働者が吉原あたりで1時間遊ぼうものなら、丸2日飯抜きで我慢しなければならなかったのです。しかし、これは現在でも同じ。新宿歌舞伎町や札幌ススキノあたりで1時間遊ぼうとしたら、やはり3日も飯を抜かなければならないのです。つまり物価に占める娼妓の割合は同じなのに、タバコがいかに安くなっているかが如実に現わされています。(これはいかにも泉教授らしい物の見方で、私は気に入っています)

給料の10%までタバコを上げろとは言いませんが、せめて「タバコは高いなぁ」と感じるくらいにまで値上げしても良いのではないかというのが私の考えです。そして当然その収益はタバコによる病気の治療に廻すべきだと思います。それがいやなら禁煙すべきです。なぜ非喫煙者が、喫煙者の病気の医療費を賄わなければならないのでしょうか? 実におかしな話しです。

ついでに、タバコ自動販売機も廃止して欲しい。アメリカではタバコは主にスーパーやコンビニでしか購入できず、その際身分証明書の提示を求められます(州にもよりますが…)。それでも未成年者の禁煙は減らないのです。日本はどうでしょうか? 最近は夜間は自動販売機が使えなくなる機種もあるようですが、日中は子供だってタバコは簡単に買えるのです。しかも小遣いの範囲内で…。「タバコは20歳になってから…」をザル法にしないためにはこうしたシステムをぜひ見直して欲しいものです。