(2)ピークフローメーターのすすめ
◆ピークフローメーターとは?
ピークフローメーターとは気管支喘息管理のいわば“血圧計”です。高血圧の患者さんが、市販の血圧計で毎日自分の血圧を測定するのは、血圧が高くなって血管が破裂するのを防いだり、高血圧にともなう様々な合併症を防止したりするためです。このピークフローメーターは気管支喘息管理のいわば“血圧計”のようなもので、毎日計測することで、気管支喘息の“発作”を未然に防止することができます。
◆次のような患者さんにおすすめします。
<1>調子がいいと思っていても突然の発作を繰り返すような患者さん:
“調子がいい”と思っていても皆さんの気管支には慢性の炎症が存在し、気付かぬうちに炎症が悪化していることがしばしばあります。しかし、ピークフローメーターを毎日記録していれば、自分が今どのような状態にあるかを教えてくるので、先手を打って発作を未然に防止することができます。
<2>現在服用あるいは吸入している薬を少しでも減らしたいと考えている患者さん:
よく“喘息の薬は一生服用しなければならないのか”と聞かれますが、ある程度いい状態を保持することができるようになれば、段階的に内服薬を減量したり、時には薬を一時的に休んでみたりできる場合があります。しかし、このためには、ピークフローメーターを継続的に記録することが前提になります。つまり、薬を服用していなくても、ピークフローメーターの値が減少すれば一時的に薬(主に吸入ステロイド)を再開し、元の状態に戻れば再度休薬するという“自己管理”ができるからです。
◆ピークフローメーターの特徴。
<1>毎日起床時と就寝時の2回だけの記録でよい。
<2>自分が今どの状態にあるかを客観的に判断できる。
→自覚症状によらない正確な判断。
<3>最高値は人によって異なる。
→その値に応じて、各々青信号(正常)、黄色信号(前発作)、赤信号(発作)に分類できる。
<4>青信号の状態では“ある程度の生活レベル”が保証される。
<5>黄色信号の状態では青信号に戻すための努力が必要。
→安静、吸入増加、感染予防、早目の来院など。
<6>赤信号の状態では測定すると苦しくなるので計測は控える。
→状態のいい時にこそ計測する。
◆気管支喘息とピークフローメーター
気管支喘息とは、発作的に気管支が細くなって呼吸が苦しくなる病気です。しかし、毎日のように発作を起こす重症な患者さんでは、気管支に慢性の炎症が存在し、吸入ステロイド療法を主体とした慢性管理が必要になります。この際にピークフローメーターがあれば、より客観的で正確な自己管理が可能となります。
ピークフロー値の低下は、自覚症状の出現よりも早く喘息病態の悪化を正直に反映します。早目の処置が早目の回復をもたらし、早く通常の生活に戻ることを可能にします。逆に、後手後手に回るほど喘息症状が悪化し、最悪の場合入院となってしまい、また我慢の程度が大きければ大きいほど入院期間が長くなります。以下の約束事をしっかり守って快適な日常生活が送れるように頑張りましょう。
◆ピークフローが下がったら以下の点に留意して下さい。
<1>元に戻るまで無理な生活を送らない。
→忙しい場合でも休息を多くとる、早く寝るなど極力体力を休める。
→ピークフロー値が下がっているのに無理をしたり、我慢したりしてはいけません。
<2>風邪を引いている場合は早目に予備の風邪薬を服用する。
→市販薬でも早目に服用すると効果があります。
→手持ちの風邪薬がなくなったら早目に補充しておきましょう。
<3>吸入ステロイドの回数を増やす。
→普段2パフ×2回なら4パフ×2回あるいは3パフ×3回などへ。
→吸入ステロイドは元に戻るまでの期間なら自己判断で増やしても構いません。
→値が元に戻ったら元の回数に戻しましょう。
<4>発作が起きそうな場合は早目にベロテックなどの発作止めを使用する。
→苦しくなってからの吸入は効き目が悪くなります。
<5>以上の努力を行ってもピークフロー値が回復しない場合は早目に来院する。
→これは重症化の現われですから点滴や投薬など医師の指導を仰いで下さい。
◆あなたのピークフロー値はもっともっと上がります!
ピークフロー値は、その人の気道の太さと呼吸筋力によって決まります。健常人の年齢、性別、身長に応じて“基準値”が設定されています。喘息患者さんは、気道が細くなっているので、呼吸筋力はあってもピークフロー値は健常人より低値を示します。さらにこの状態が慢性に経過すると、細い気道で呼吸をしなくてはならないので、次第に呼吸筋力が増強して行きます。治療によって気道の狭窄が改善してくると、次第にピークフロー値が上昇し正常に近づいてきます。しかし、長く喘息を患った方は完全に気道炎症が取れてなくても、強い筋力で“見かけ上正常”なピークフロー値を出すことができます。このような場合、ピークフロー値は人並みでも、走ると息が切れたり、風邪をひくとすぐピークフロー値が下がったりなど、いわゆる“黄色信号”状態を示すことがあります。これは、気道に炎症が残っている訳ですから、吸入ステロイドの回数を増やしたり、経口ステロイドを一定期間内服したりすることによって完全に気道の炎症を取ってあげると、健常人以上のピークフロー値を記録することがしばしば認められます。従って、喘息患者さんは体力がなくて肺活量が少ないのではなく、むしろ健常人より体力があることが多いのです。