(09)45歳、男性(木工所勤務)

ピークフロー値に応じて吸入ステロイド回数を決めている。


本人からコメント

本人から

<1>どんな時に発作があるか

・過労:今はこれが一番の原因、これが無い場合は他の原因があっても、たいてい発作は起きない。
・空気:タバコの煙(部屋にこもった場合)。車の排気(交通量の多い道路、大型車の後をしばらく走った時)。
・過食:胃が肺を圧迫、副交感神経の興奮。
・これらが重なると夕食後に発作が始まることがある。あるいは翌朝息苦しくて目覚める。

<2>日常の対策

・過労を避ける(とは言っても難しい)。
・部屋の換気に注意する。夏の冷房はなるべく避ける。
・水分を十分に取る(すぐに排泄することになるが)、たいていはお茶(カフェインがいくらか効くようだ)を飲む。発作の兆候の段階なら、これで静かにしていると30分(長くても1時間)以内に治まる。
・1日1回(夜)ピークフローを計る(どのくらいの調子か、大体自分でわかるので夜1回だけで間に合わせている)。これと翌日の予定、天候などを考え合わせ吸入ステロイドの量を決めて吸入(1日でこの時1回のみ0〜4パフ)。
・たまに気が向くと1日数回ピークフローメーターを使う、これで自分の自覚値の修正をしておく。
・その他、発作にいたらない兆候の段階で早目に対策を取っているつもりでも、つい無理をしたり油断をして発作を起こすこともある。そんな時には上に述べたように水分を十分に取り安静を保つ。それでもだめなら(今ならたいてい、その前に予測がつくので初めから)速攻性の吸入剤(ストメリンD)を使う、これなら5分〜10分で効果が現われる(いざとなればこれで間に合うことによる安心感は相当大きいので、外出時にも持ち歩く)。1回で不足ならもう1回。しかしここまで重いのは最近では月に1回あるかないか。記録を見ると、今年はまだ1回も無し。

<3>発作が重かった頃

・発作は夕方から夜にかけて重くなる、これでぐっすり眠れなくなる、疲れが取れない、ますます発作が重くなるという悪循環。夜中に息苦しくて目覚め、吸入し(当時はネブライザーも使用)また寝るまで1時間くらいかかった。寒い季節には特につらかった。
・そんな状態から脱し、朝まで眠れるようになると、たとえ朝息苦しくても目覚めるのでも、だいぶ楽になったように感じた。
・どのように発作が起きるのか、薬はどう効くのか、そういったことがある程度わかってきて自分でコントロールできるようになると、それとともに快方に向かった。
・初期の頃からこれらのことがもっと簡単に分かっていると、あれほど重くもならず、長引きもしなかったかもしれない。患者の立場からすると、自己管理できるかどうかが最も重要で、これは発症要因のひとつであると言われている心理的要因の面からしても大事な事ではないか。どんな病気でも、患者が自分で治る気にならないとなかなか治らない。
・そんなわけで、喘息の症状、原因、経過、薬、肺の解剖学など一般的なこと(患者ひとりひとりに固有のことは経験の中で見つけていくとして)について、患者の側から知ることができる本なりシステムなりが有ると良い。現在の日本の医学書は、あまりにもはっきりと医者向けと患者向けに分かれ過ぎているように感じられる。

<4>ステロイドの副作用

・特に感じたことはないが、吸入ステロイドの使いはじめノドに刺激感が有って、かえって発作のきっかけになったことがある。舌苔。ステロイドに限定したことではなく吸入全体のことかもしれないし、薬のせいでは無いかもしれないが。
・医師の間でステロイドに対してさまざまな意見がある(大勢はほぼ傾いたようだが)ことは分かるが、上に述べたように患者の立場からは、それがどういうことなのか簡単には分かりにくい。

<5>その他

・完全にでは無いにしても、ある程度コントロールできるようになったのは、吸入ステロイド剤の効用なのは確か。
・コントロールできるようになってからは、自己管理できる病気を1つ持っていることの利点(これを理由にして無理を避けたり、断わったりできる事もある)さえ感じられるようになった。

冬に入ってから仕事の方が忙しくなり、現在疲れがたまりぎみで、なかなか時間が取れず遅くなりましたが、とりあえず思い付いたところを書いてみました。

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主治医のコメント

この方は小児喘息の既往がある方でしたが、平成3年よりやはり風邪が原因で発作がひどくなり、2回の入院歴がありました。私が診るようになった時点では、吸入ステロイドの他に、テオドール(100mg)8錠、メプチン2錠、ロメット2錠、プレドニン(5mg)1錠を服用していました。しかし、症状が安定していたので、まずプレドニンを止めテオドールを段階的に減らし、平成6年中頃より本人と十分話し合った結果、すべての内服を中止し、吸入ステロイドのみで喘息をコントロールすることにしたのです。

その後の経過は順調で、吸入ステロイドも1日12吸入から8吸入→6吸入→4吸入と減量に成功しました。さらに、平成8年からはピークフロー記録を開始し、ピークフローが低下したら適宜吸入ステロイドを増減する完全な“自己管理体制”に移行したのです。毎日その夜のピークフロー値を参考に吸入ステロイドの量を決定するという方法は非常にユニークであり、是非他の方も参考にして欲しいと思いました。以下にその一部を紹介しておきます。

日付

天候

吸入回数

12月1日

   

576

4吸入

2日

 

588

 

4吸入

3日

519

 

540

4吸入

4日

曇/雨

 

605

 

2吸入

5日

   

測定せず

吸入せず

6日

曇/雨

   

620

2吸入

7日

   

測定せず

吸入せず

8日

曇/雨

 

607

 

2吸入

9日

521

 

581

4吸入

600を超えたら2吸入、600を下回ったら4吸入と自分なりに目安を作っているのがわかると思います。また色々な事情で、時々は測定や吸入をしない時がありますが、これは人間ですから仕方ない事だと思います。しかし、Dの女子高生も述べていたように、テオドールなどの気管支拡張剤と違って、病状が安定してくるようになると吸入ステロイドの場合は1回ぐらい忘れたからといってすぐ発作が起きる訳ではありません。大切なことは、2、3日休んでしまったからもういいやとあきらめずに、少しぐらい忘れることはあっても長い目で続けることです。

よく、吸入ステロイドをしなくても、発作が起きないからもうすっかり良くなったと自己判断してしまう方がいます。しかし、ピークフローをつけていないと、苦しくはないけれども次第に気道炎症が再燃し、風邪を引いたりした際にまた病院受診が必要となるような発作が起きてしまうのです。

ピークフローをつけていないとよく、「良くなったと思って薬を止めていたのに風邪を引いたら急に発作が起きた」というようなことをおっしゃる患者さんがいます。しかし、これは決して急に悪くなったのではなく、次第に悪くなっているのです。ピークフローを記録していればこの過程が良くわかるのです。こうなると、治療はまた最初からやり直しになってしまいます。さらには、こうしたひどい発作を何度か繰り返すことで喘息は次第にしかも確実に悪化し治りにくくなる(難治化)ものなのです。できれば薬を一切中止したとしても、ピークフローだけは一生つけ続けることをお勧めします。これが喘息とうまくつきあう方法だと思います。

以前、喘息の研究会で、私が、
「たとえ吸入や投薬を中止しても、できれば一生ピークフロー記録を続けるべきだ」
と発言した際、ある小児科の先生から、
「それでは、子供の場合、一生喘息という病気から逃れられず、精神衛生上も良くないのではないか?」
との主旨の質問を受けたことがあります。この先生が言いたかったことは恐らく、
「“喘息=発作”であるから、苦しい病気のことが頭からいつもはなれないのは、子供の発育上も精神衛生上も問題なのではないか? 子供の場合、毎日ピークフローをつけると言っても遊びに夢中になって記録を忘れることも多いし、そんな時あたかも宿題を忘れたように親や先生から叱られたのではたまらない。子供の場合、薬さえきちんと飲んでいて発作が起きなければ、ピークフロー値の変動に一喜一憂するよりも、喘息のことは忘れて伸び伸びと自由にさせた方が良いのではないか?」
という意味だと思います。しかし、吸入ステロイドを中止してしばらくは安定しているようでも、無理をしたり風邪を引いたりすると結局発作は起きてしまいます。また、いつ発作が起きるかもしれない、だから運動もできないし、遠出もできないという不安な状態が続くのでは、それこそ精神衛生上問題なのではないでしょうか? 私は、喘息で苦しい時こそ喘息の事を忘れるべきであり、逆に調子の良い時ほど自分が喘息である事を忘れるべきではないという考えをもっています。従って、ピークフローを記録し続けることは、決して喘息の暗いイメージとつきあうことではないと思うのです。

(16)で紹介する小学3年生の女の子などは、ピークフローをつけるのが楽しくて仕方がないと言います。毎日記録することで、自分の調子がよくわかり生活に自信がもてるというのです。毎日発作が起きるような状態でピークフロー値を計測し、悪い値を見て毎日気分が暗くなるとしたら、それは精神衛生上大問題でしょうが、そんな状態では記録する意味がありません。その状態から脱却するためにピークフローをつける必要があるのです。ピークフローは良い状態の時にこそ記録すべきものなのです。

喘息とうまくつきあう”―この方が言うように、喘息という理由で嫌なことは拒否できますし、また一つの病気を管理克服することは、他の病気になりにくいとも言えるのではないでしょうか?  よく、今まで1度も病院にかかったことがない人ほど、病気発見が遅れこじれて命取りになったり、あるいは大病が隠れていたりといったことがあります。むしろ、血圧が高いとか、腰が痛いとかでちょくちょく病院にかかっていた方が、早く病気が見つかり適切な処置をとってもらえたりする。「何で自分ばかり喘息でこんなに苦しい思いをしなければならないんだ」と考えるより、「喘息は神様が自分に授けてくれた贈りもの」と前向きに考えて、うまく喘息とつきあって、自分の健康管理をして行くのも一つの生き方であると思うのです。

この方は、自己管理ができるようになって、木工所勤務という喘息にとって最悪ともいえる環境の職場に転職しました。さらに、これは余り歓迎できませんが、発作の為にせっかくやめていた煙草までも少ない本数らしいのですが再開したというのです。しかし、これで大きな発作を起こさずにしかもPF値を600前後に維持できるのですから、その自己管理法には頭が下がります。(しかし、できればたばこは止めたほうがよいと思います。喘息は克服できても肺癌になるかもしれませんよ…)

喘息の本は余りにも医者向けと患者向けに分かれすぎてきて、真の意味で喘息の病態がわからない、との指摘はなるほどと思いました。この方の場合、確かに自分なりに喘息の病態を色々と勉強し、色々な角度から自己分析を一生懸命しているからだとは思いますが、喘息の本質がわかったことではじめて自己管理ができるようになった模範例であると思います。“喘息は知れば怖くない病気”です。もっともっと喘息についてわかるようになれば、病気は克服でき、しかも健康者と何ら変わらない生活が送れるようになるはずです。皆さんも是非この方から喘息管理法のヒントをつかんで欲しいと思いました。

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