吸入ステロイドで以前のような夫らしい生気が甦ってきました。
21年前、体調をこわし咳が止まらなくなりました。間もなく慢性病患者の仲間入りをして、その後人の勧めや自分の得た知識でいろいろな治療法を試しました。しかし、各々それなりの効果はあったように思いますが、完治に至るものには巡り会いませんでした。
現在行っている吸入ステロイドは始めてから1年3ヵ月になりますが画期的な治療であると感じております。これまでの恒常的に痰がからみ咳が出ていたことがまるで別の遠い世界のような気がします。これまで寝る時もそばから離さなかったティッシュペーパー、そしてハンドネブライザーも使用されなくなり、普通の人間に戻りました。
症状が改善したことはもちろん望外の喜びでありますが、それ以上に自分の体に自信を持つことで考え方や行動に積極性がでてきたことです。
病気はどのようなものでもつらいものですが、喘息の苦しさは他人には分からない忍耐を必要とします。吸入ステロイドによる治療法は、いつも半分首を絞められたまま生活しているような患者の症状を改善の方向に導くものであると思います。医師の指示に従って正しく用いれば副作用もなく、忘れていた健康の快適さを取り戻せるでしょう。
これからも先生の指導を受けながら、ピークフローメーターで自己管理をしながら、吸入を続けるつもりです。
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気管支喘息と診断を受けてから15年余り、完治治療を目指し、医師の指示通り気管支拡張剤等の服用をしていたものの、不規則な生活と病気の無知とで94年8月及び12月、大発作で入院2回、うち1回は呼吸が停止し救急車で運ばれ、蘇生術で一命を取り止めたこともありました。入院時に多量に使用されるステロイド剤で一時的に回復するが、ヒューヒュー、ゼイゼイ、ゼロゼロ、血痰の混じった咳は治まる事はなく、季節を問わず1年中風邪引き状態、現代医学の最高の治療法と思い医師を信じ、指示通り内服し続け15年余り、治ることなく深く静かに悪化の一途でした。
先生と出会ってから1年2ヵ月、喘息とはどんな病気なのか、夫の体の中はどうなっているのか、今の状態は何をする事が良いのか、悪いのか等々、わかりやすく納得のできる説明で私達がいかに喘息というものに無知だったことが改めてわかりました。
初めて耳にした吸入ステロイド剤やピークフローメーターの存在。一縷の希望をかけ吸入ステロイド療法に切り替えることになった。
ヒューヒュー、ゼロゼロ、ゼイゼイがなくなり効果が意外と早く現われた。しつこい咳と痰もほとんど出なくなるにはさほど時間がかからなかった。
完治治療に希望が持てたことで規則正しい生活は元より、積極的に体力作り(ストレッチ運動、ジョギング等)、サークル活動のリーダーとして活躍をし、以前のような夫らしい生気が甦ってきました。
この1年余りは夫も私も辛かった日々を忘れて希望ある夢のような日々を送っています。家族が健康であることの大切さをつくづく感じています。“己の病気を知る事”“正しい治療”“信頼できる医師に出会う事”が完治の掟だと思います。
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この方は、他の総合病院での長い入院生活であまり症状が改善せず、しかも主治医の先生から詳しい病状説明がないという状況に耐えられなくなり、私のもとを受診しました。その先生は呼吸器科医として著名でしたが喘息を専門に診察されている方ではなく、吸入ステロイドを積極的には使用されていないようでした。このように呼吸器専門医とは申しましても、専門とする疾患によって喘息に対する考え方やステロイドに対する考え方が大きく異なることがある点は十分認識すべきであると思いまた。
病気全般に言えることですが、症状が一向に改善しないのに、それに対して十分な説明がない場合は、はっきり言って医者を変えて見るべきです。その際ありがちなのは、良くならない病状をその先生に訴えず、単に医者を変えるのみで、同じ検査や同じ治療を次の医者でも受けるといった効率の悪いパターンです。先生から指示された事項を忠実に守ったのに一向に良くならないなら、はっきりその旨を先生に告げるべきです。その医者が良い医者か否かは、その良くならない病状に対して詳しく説明してくれて、次の手段を講じてくれるか否かにあると私は思います。次の手段とは、詳しい検査をしたり、薬を変えてみたり、あるいは専門医を紹介してくれたりすることです。この次の手段をうってくれない場合は早目に見限って、他の医者にかかるべきですが、できれば前医での治療薬を持参することをお勧めします。この方の場合は吸入ステロイドは行われていませんでした。
この方を診察した時の印象は、(01)の喘息児と同じように、顔が青ざめていて苦しいはずなのに苦しくないと言っていた点でした。つまり長引く低酸素状態になれていて、ちょっと無理をすれば、喘息死を起こしかねない状態であったのです。事実、奥様からの手紙に書いてあるように、1度は呼吸停止状態で救急車で運ばれたようでした。“15年余り、治ることなく深く静かに悪化の一途でした”―これは、的確に喘息の病状の進行を表わしていると思いました。つまり、最初から重症の喘息など存在しないのです。初期治療が不的確になされると、この方のように徐々に悪化するのが喘息なのです。
私は、喘息の患者さんを発作の回数や程度で、軽症、中等症、重症、難治性と分ける方法には賛同しかねます。これらはすべて発作という1つの症状によって分類されているにすぎないのです。
この分け方は、広く喘息治療のガイドラインとして採用されていますが、専門でない医者がこれを読むと、喘息患者には軽症から難治性までの何種類かの型が存在していて、それぞれに適したマニュアル通りの治療をしなければならないと考えてしまうからです。しかし、多くの患者さんは、重症化するまでに発作が起きても長い間病院を受診しない場合が多いですし、また喘息専門医がいる大きな病院にたどり着くまでには、かかりつけの医者に風邪として何年も治療されていることがほとんどです。こうして徐々に悪化進行して行くものであって、一人の患者さんの立場で言えば、軽症から中等症へ、中等症から重症へと簡単に移行することが多いのも事実で、喘息は決して固定した病気ではなく日々変動する病気であると思います。この意味でも客観的に信じることができるのはピークフロー値であると思います。
喘息の治療法に関する情報は氾濫しており、患者さんや小さいお子さんをお持ちのお母さんは混乱する一方で、何を信じたら良いかわからなくなるのが現状であると思います。この方も、色々な情報を得、色々試してみたようでした。ここでとても大切だなと思ったのは、“どれもそれなりの効果があったように思いますが、完治に至るものには巡り会いませんでした”との表現でした。結論から申し上げますと、少なくても現時点で学会レベルで世界的に認められている喘息完治の治療法は存在しておりません。もし、ある喘息が“完治”したというような治療法の情報を得たとしても、それは恐らく一部の患者さんがたまたま良くなった場合がほとんどで、実際に同じ治療で良くならない人も多くいるはずです。また、完治といっても、単にたまたましばらく発作が起きないだけかもしれず、走るとゼイゼイする、風邪を引いたらまた発作が起きてしまった、などの結末が多いようです。喘息が“完治”することは、“一切の治療なしで、原因であるハウスダストやダニなどが多い環境で普通に生活しても、発作はおろか一切の生活制限がなく健康人と同じ事ができる状態”であると思います。悲しいことですが、万人がこの状態に至るような治療法は少なくとも、現在の医学レベルでは存在しません。
この意味で、我々専門医は
「喘息は完治しない病気である」
と言います。しかし、その言葉の裏には、
「喘息はきちんと治療し日常生活に気を配ることで、副作用なく快適な生活が送れますよ」
との意味が含まれています。以前、医学雑誌の吸入ステロイド治療に関する紙上座談会で、ある小児科の先生が、
「内科の先生はすぐ、喘息は治らない病気だから一生薬は飲み続ければならないと絶望的な事を言う。しかし、我々小児科医が子供にそんなことを言ったら子供も親も暗くなってしまう。私はいつも、大きくなったらきっと喘息は治るから頑張ろうねと希望を持たせるように話しをしています」
と述べていました。私は、内科の先生も小児科の先生の言うこともどちらも一理あると思いますが、その奥にある喘息治療の“ゴール”の意味に違いがあることはもうおわかりでしょう。
“どれもそれなりの効果があった。”―これも真実だと思います。喘息治療には、薬物療法以外に、脱感作(体質改善)療法、食事療法、運動療法、心理療法、環境改善療法などのたくさんの治療があり試みられてきました。結局、これらはすべてステロイドを始めとする多くの薬剤の副作用を回避して喘息を克服しようという思想が根底にあります。どれもそれなりの効果があるが、ステロイドの効果には到底及ばない。しかし、どれもステロイドのような副作用がなく、発作の回数が減っているのだから満足とすべきであると考えるしかないのでしょう。
小児科領域のある論文に、小児喘息が運動療法にて良くなったと報告する論文を読んだことがありました。その論文は、発作の回数減少という症状による判断の他に、ピークフローメーターという客観的な数値も運動療法によって増加したと報告していました。これを鵜呑みにすれば、“小児喘息は薬を用いなくても運動で治るではないか!”と考える医師や親は多いと思います。しかし、よくデータを見てみますと、ピークフロー値の上昇といっても平均で150から180程度へ有意に増加している程度なのです。ちなみに吸入ステロイドは、150から300あるいは450へ倍増してくれるけた違いの治療法なのです。しかも副作用なく。450も吹ける能力がある子供が、150から180へ上がったからと喜んでいいのでしょうか? 極言してしまいますと、ステロイド療法以外の治療法は、ほとんどこの程度の効果しか得られないのが現状なのです。150から180程度しか上昇しない治療法がよい治療と過剰宣伝される余り、(01)の喘息児のように発作を繰り返すような子供までも巻き込まれて悲惨な結果を引き起こし、かえって病状を悪化させている場合があることも影にはあることも知っておくべきだと思います。これらは、あくまで喘息の補助療法ですから、これで喘息を治すのではなく、ステロイド療法を中心とした薬物療法によって喘息の状態を一度良くしてから悪くならないように行って欲しいと思います。
ステロイドは喘息の病態に根本的に作用する薬剤ではあっても、決して喘息を“根治”に至らしめる治療法ではありません。それは、ステロイドで気道の炎症をほぼ完全に除去しても、薬剤を中止すると数ヵ月の単位で気道炎症は再燃してくる事実があるからです。この意味で、喘息は“根治しない病気”と言えるのです。最近、欧米では臓器移植が盛んに行われるようになって、この喘息の“完治”に関して面白い事実がわかってきました。それは、健康な人に事故でなくなった喘息患者さんの肺を移植するとその人は喘息になってしまい、逆に喘息の人に健康な人の肺を移植したら喘息は起こらなくなった、というのです。この細かな点に関してはまだ議論があるところですが、もしこの話が事実とすると、真の意味で喘息の“完治”とは臓器移植しかないのかもしれません。
喘息の症状は、“いつも半分首を絞められたまま生活しているようなもの”と表現しています。喘息の苦しさがわからない人に私はよく、「指で鼻の穴を挟んで塞ぎ、口笛を吹くように唇をすぼめて呼吸をしてみて下さい。その状態で2階まで一気に階段を登れますか? 恐らく苦しくて、すぼめた唇を緩めるか、塞いだ手を放してしまうでしょう。しかし、喘息の患者さんは、治療しなければその苦しさから逃れられないのです」と説明します。もし、苦しさをわかってもらえない家族や、苦しくて受診したのに何も適切な処置をしてくれない医師がいたら、こう聞き返してみて下さい。きっとわかってくれ適切な処置を施してくれるでしょう。
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