(17)21歳、男性(木工所勤務)

マスクなしでも仕事ができるようになった。


本人からコメント

本人から

私は小さい時から学生時代まで喘息があるとは全然気付きませんでした。ところが、高校を卒業し、ある建築関係の会社に就職してからは、仕事柄木粉などがたくさんでるので、よく咳込んだりしました。「あー、これは喘息持ちなのかなあ」と思うことがありましたが、息もつけないほど苦しくなったりはしなかったので、病院には行きませんでした。ところが、半月、1年と日がたつにつれ、病状が出てきたのです。仕事中木粉が舞うと咳こんで苦しくなったりしました。そのせいで仕事中はほとんどマスク等をしてなければならなくなりました。冬などの寒い期間はよいのですが、夏などの暑い期間は、マスクをしていると気持ち悪くなります。本当に辛いものがありました。

そして作業場でいつもどおり働いていました。その時は材料を片付けていました。長期間なにもしないで置いてあったので、作業場の木粉がたくさん付着していたのです。それを動かした瞬間、ついていた木粉が多量に降ってきたのです。私は多量の木粉を吸ってしまいました。そして息もつけぬほど咳込んでしまったのです。こんなにひどく咳込んだのは今まで初めてのことでした。それからすぐに病院に行きました。そこで喘息と宣告されたのです。

それから、吸入ステロイド剤を毎日吸入するようになりました。先生には吸入してからうがいをするように言われていました。でも副作用のことは全く知らずに吸入していました。そして通院してからしばらくして、ピークフロー日記をつけはじめました。最初はめんどうだと思いましたが、今は習慣になっています。吸入ステロイド剤を使用してからはマスクをつけずに仕事ができるようになりました。本当にやってよかったと思います。副作用がおこると言われていますが、吸入してからうがいをするなど医師の言うことをきちんと実行すれば全くおこらないと思います。少なくとも私の場合はなんともありませんでした。そしてピークフロー日記もたいへん役にたっています。発作等がおこりやすい状態にあるかどうかすぐわかるからです。しかも、晴れている日、雨の日、風邪を引いている時や引いていない時によって発作がおこる時もだいたい把握できるのです。このように、まだ喘息で苦しんでおられる方にはぜひ吸入ステロイド剤やピークフロー日記をお薦めしたいと思います。ステロイド剤は副作用が恐い薬ではないと思います。

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主治医のコメント

この方の喘息は、職業性喘息と言えるでしょう。喘息が発症して病院に至るまでにはやはり“年”という月日が必要のようです。それでも彼は専門医である私のところへ早く来た方でしょう。私は、明らかに職業性喘息であるので、まず防塵マスクを着用するよう指示し、テオドールと最新の抗アレルギー剤を投与しました。症状は一時治まったかに見えたのですが、防塵マスクは涼しい気候の時は良いのですが、夏場の蒸し暑いときは息苦しくてできないものです。知らず知らず彼はマスク着用をしなくなった時期がありました。そして、以前は仕事中に大量の木屑を吸わなければ起きなかった咳発作が、いつしか四六時中起きるようになったのです。

私は彼に吸入ステロイドを勧めました。そして症状が改善するのに1週間を要しませんでした。その後しばらくして症状が安定するようになると、マスクをしなくてもかなり大量の木屑を吸入しない限り咳はでなくなりました。大量の木屑を吸うのはそんなに頻繁にある訳ではなく、また短時間ですからそんな時だけマスクをしているようでした。

症状が安定していたある日、私は彼の若い年齢と罹病期間の短さなどを考慮し、彼にピークフローの記録を条件に、薬剤減量計画を持ちかけました。もちろん(09)の患者さんの例を説明しました。彼は、“吸入ステロイドを含めていつまで投薬を継続したら良いのか?”という疑問を抱いていたらしく、快くピークフロー記録を引き受けてくれました。私は内心、「彼は年齢的にもいわゆる“遊び盛り”であるし、生活も色々と不規則であろうから、規則正しくピークフローをつけてはくれないのではないか」と半信半疑でした。しかし、意に反して彼はきちんとピークフローをつけてくれました。薬剤からの離脱に前向きだったのかもしれません。

彼は、年齢もあってピークフロー値は600を軽く越えて安定していました。私は、まず抗アレルギー剤中止を指示しました。しかし、1ヵ月後ピークフロー値はまったく低下していませんでした。次は、テオドール。しかし、不安があったので一応処方をして手持ちとし、何か不都合があったらすぐ服用するように指示しました。1ヵ月間テオドールを服用しなかった彼のピークフロー値は、またも不変でした。その後、しばらく吸入ステロイドのみで様子をみていましたが、これまで2週間から1ヵ月に1度の定期受診であったのですが、吸入ステロイドのみなので3本ぐらいし処方すると、2、3ヵ月はもちますから、病院受診回数がぐーんと減りました。もう一つは彼が2、3ヵ月のある程度の長い期間でピークフローを記録してくれるかな?という様子見の期間でもあったのです。

またも私の意に反して、彼はきちんと吸入ステロイドのみでもピークフローをつけてくれました。また、ピークフローは依然として600以上でした。そして、ついに、
「今日から吸入ステロイドをしなくてもいいよ」
と指示したのです。その時の条件は2つ。1つはどんなことがあってもピークフロー記録を継続すること。2つは、もしピークフローが低下しいくら頑張っても600を越えなくなったら、なるべく早く吸入ステロイドを再開し600以上に戻ったら休止すること。私はこれを必要に応じて吸入ステロイドを使用するという意味で“オン・デマンド(必要に応じての意味)療法”と名付けています。

吸入ステロイドを休止するとしばらくは何ともないのですが、約3ヵ月で気道の炎症が再燃するという報告があります。吸入ステロイドは非常に有効な薬剤なので、よく“喘息が治った”と思い込み自己判断で中止する患者さんがいます。そんな患者さんは、2、3ヵ月すると必ずと言ってよいほど風邪を引いてまたひどい発作を起こして来院します。そして、“ずっと調子がよかったのに突然発作が起きた”と言うのです。こんな場合、ピークフローを記録してれば、自覚的には症状がなくても、ピークフロー値は徐々に低下しいつしか“黄色信号状態”まで達すると考えられます。こうなる前に吸入ステロイドを早目に必要に応じて投与すれば、ピークフロー値の戻りも早く来院しなくともすむはずです。これは、私の喘息治療の最終到達目標であると考えています。“投薬せずともピークフローは一生続ける”―是非参考にして欲しいと思います。

薬剤投与を中止する最大の条件は、“ピークフロー値がベストに近い状態にあること”です。ベストでない状態(黄色信号状態)で薬剤減量を実行すると、突然発作を起こすことがあり、危険を伴うと考えられます。彼の場合、喘息の比較的初期に吸入ステロイドが投与されたこともあり、気道炎症をほぼ完全に除去することが可能であったと考えられます。しかし、吸入ステロイドを投与してもピークフローのベスト値を得られない患者さんの場合は、ある程度全身性ステロイドの助けを借りなければならないというのが私の考えです。

話しは飛んでしまいましたが、吸入ステロイドを中止し、数ヵ月経過した彼のピークフローはまったく600を下回りませんでした。私は、このまま順調に行くとは考えてはいませんが、彼がピークフローを継続してくれる限り、心配はしておりません。朝起きたら毎日歯を磨くように是非ピークフローを癖にしてもらえたらと願って止みません。

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