(3)私の吸入の仕方は正しいですか?

【002】40歳男性(配達自営業)から

<質問>
ベコタイドの吸入方法ですが、私は蛇腹式のチェスペーサーを取り付けて2回その中に噴霧し、そしてスペーサーに口をつけて吸います。1分ほど間をおいてまた同じように吸入します。これで1回4吸入したことにしています。これまでこんな具合にやってきたので何の疑問も抱かずにいましたが、はたして1度に2回噴霧して吸ってもいいものなのでしょうか? 効果が落ちることはありませんか?それと、10秒くらいかけてゆっくりと吸い込むのが理想的と言われていますが、どうやっても10秒はおろか5秒も無理です。ピークフロー値が回復してきた今でも3秒くらいしか吸い続けられません。私のやり方はどこか間違っているのでしょうか?

<応答>
吸入方法ですが詳しくは私の寄稿集の付録(1):吸入療法についてを参考にして下さい。

「蛇腹式のチェスペーサー」とは、私は見たことがないのですが、もしかしたら黄色の「ボルマチィック・ソフト」ではないでしょうか?あまりスペーサーの種類は関係ないですが、なるべく用量の大きいものがようでしょう。私の患者さんのほとんどは、1個1000円の透明な「ボルマチィック」を使っています。たいていの大きな病院なら売店に売っているはずです。音の出るインスパイア・イースは無料ですが、アルデシンを使う時に限られています。

1度に2噴霧しそれを2回繰り返して1回4吸入としているようですが、それで問題はないと思いますが、私の患者さんには、1度に1噴霧しそれを4回繰り返して1回4吸入と指導しています。吸入ステロイドは、1回の噴霧(100マイクログラム)を100%とするといくら上手に吸っても気管に到達するのは約5%と言われています。そのほとんどは、スペーサーの壁や口腔粘膜に沈着してしまうのです。

これは私の考えですが、1度に2噴霧した場合、総量200マイクログラムの5%にあたる10マイクログラムが気管支に到達するかというと、そうではなくスペーサーの壁にくっついて失われる量も多くなり、気管支に到達するのはたとえば7.5マイクログラム程度に低下するのではないかと考えています。だとすると、1噴霧を2回繰り返せば単純に10マイクログラムは気管に到達するはずです。もともとベコタイド50からベコタイド100に変更になった時点で、吸入回数を減らそうという目的で量が倍になっているのですから、それを1度に2噴霧してさらに回数を減らす必要もないのではないかと思うのです。しかし、これは私のこだわりであって科学的に証明されていませんので、信じなくても良いです。ただ、1回1回大切に吸って欲しいという願いは込められています。

10秒かけて吸入するのは、ボルマチィックなら可能ですが用量の小さい他の種類では無理でしょう。また、発作が頻発していて苦しいときも無理です。要するにゆっくり吸って下さいということですから、あまり時間を気にしないでも良いと思います。もう一つとても大切なのは10秒程度の「息こらえ」です。せっかく吸ったのに鼻から薬を逃がす人がいますがこれでは薬剤が気管支粘膜にしみわたりません。苦しいときの10秒の息こらえは大変ですが、だんだんと時間をのばしていって下さい。

その他小さな注意点ですが、スペーサーをせっかく唇にくわえても上下の歯をかみあわせながら吸う方がいます。これでは薬剤が歯にくっついてしまいます。また、唇に加えても口をすぼめて吸う方がいますが、これでは、薬剤が通る道が細くなり、必然的に流速が早くなってしまいます。また、顎を下に引いて吸うと口と気管支が直角なるので薬剤はのどの奥に当たりやすくなります。私は「山伏がほらがいを吹くように」少し上を向いて喉を広げて吸うように指導しています。単純に吸う動作を繰り返しただけでは無意味で、如何に薬剤を気管支粘膜に到達させ効かせるかが一番大切です。逆に口の中やのどの奥にくっついた薬剤は何の役にも立ちませんし、カンジダ症などのカビがつく原因になりますので、うがいで流し去ります。4回吸入すればまとめてでなく1回毎うがいをした方が副作用は減少します。

吸入速度に関して、こういう例えがあります。朝の冷たい空気を思いきり吸うと冷気でのどの奥がひんやりとしますよね。それは空気が喉に当たっている証拠で、そのくらいの速度で吸入すると薬剤が喉に当たりますから速度としては早すぎることになるのです。空気を吸ったとき空気が喉に当たるか当たらないかわからないくらいが適当な早さなのです。「吸ったのかどうかよくわからない」「吸った感じがしない」位が実は最も効率よく薬剤が末梢の気管支まで到達するのです。ヒューと音がしたり喉に空気が当たるような吸い方(実際はこの方が吸ったという感じがするのです)は効率は良くありません。“いかに効率よく薬剤を気管支粘膜に到達させるか”これが吸入のすべてです。頑張って下さい。

<追加応答>
痰が多い時は痰を除くことに全力を注いで下さい。この痰は吸入療法の最大の敵です。痰自体で気道が細くなっている上に、痰に薬剤がべたべたくっつくので効果が減少します。水分を多く取って去痰をはかって下さい。ベコタイドの前にはよく痰を切ってから行って下さい。それでも切れが悪いときは、気管支拡張剤吸入を惜しまず、1ないし2吸入して気管支を広げてからゆっくり行って下さい。

咳が多く出る時は咳を最低限に納める努力をして下さい。咳はするなとは言えませんので、そのようなときも気管支拡張剤吸入を使って咳を最小限におさめるべきです。何故なら咳を続けると、治りかけた気道粘膜がまた剥がれ落ち、また発作がおきやすくなるからです。こんな時の気管支拡張剤吸入は、発作を止めるためと言うよりも、吸入ステロイドの効果を上げるために行うと考えて下さい。気管支拡張剤吸入の吸いすぎはいけないと考えず、こんな時は惜しまずに使って、絶対に苦しいのを我慢しないで下さい。

早め早めに発作の種をつぶすことが肝要です。