(5)タバコは痰に悪いですか?
【002】40歳男性(配達自営業)から
<質問>
私の痰は相変わらず切れません。実は私はタバコを少し吸います。他人のタバコの煙を吸うと発作が出そうになりますが、自分で吸う分には何ともありません。もちろん、発作の出そうなときに吸えば危なくなりますし、発作が出ているときには吸いたいとは思いません。調子のいいときだけです。だから自分で吸っても何ともないのかもしれません。ともかく、多いときは1日15本くらい吸います。ただしそんなに吸うことはまれで、吸わないときは1日に1本も吸いません。平均すると1日5本前後くらいです。
このタバコが痰の原因になっているとは考えられませんか。そう考えると、タバコの本数が多い日には特に痰が多いような気もするのです。また、タバコが喘息を悪くすることはあるのですか?今まで特に考えもしなかったことですが、よく考えてみればタバコが喘息にいいわけはないようなので、もしかしたらタバコを吸うことで喘息が悪くなることもあるのではないですか?
<応答>
実は私も以前タバコを吸っていました。不思議な話ですが、自分としてはタバコをやめてから喘息の気が出てきたような気がします。「今日も1日タバコがうまい」は、けだし名言だと思います。気管支が丈夫だからタバコが吸えるのだと思います。あなたが、「調子がいいときはタバコが吸えるのに、喘息が悪いときは他人の煙が気になる」のは、まさにそのことと同じで、良くわかる気がします。
タバコと喘息の関係ですが、「タバコを吸って“喘息発作”を起こすことはあっても、タバコを吸って“喘息”になることはない」につきると思います。これは、私が学生講義で慢性気管支炎と気管支喘息の違いを話すときの切り札です。
慢性気管支炎はほとんどがタバコによって引き起こされる慢性の気道炎症です。やはり気管支喘息と同じように気管支粘膜の炎症がその病態であり痰や咳が主な症状です。しかし、大きな違いは
<1>喘息のような発作がないこと(軽いゼイゼイはある)
<2>気道炎症の主体は好中球という白血球が主体(喘息は好酸球という白血球)でこれはステロイドがほとんど効かないこと(従ってタバコを早めにやめて自浄効果で粘膜を回復させることが唯一の治療)
です。喘息の体質がある方は別として、そうでない人がいくらタバコを吸っても慢性気管支炎になることはあっても喘息になることはありません。これとは別に喘息で気道に炎症があり過敏になっている方は、タバコの煙を吸うとそれが刺激になって発作を起こすことが良くあります。気道炎症が比較的安定していれば、走っても何ともないようにタバコを吸っても発作が起きないことがあります。あくまで、喘息にとってタバコは発作の1誘因に過ぎません。
あなたの場合も恐らくタバコを吸ったから喘息になったのではないと思います。やはり遺伝的な原因や環境因子が大きいと思います。やはり“タバコは喘息治療の妨げになっている”こと、これだけは確かであると思います。ピークフローは500を越えて安定しているようですが、少なくともあなたの理想は700ですから、まだまだ黄色信号です。私の経験では、黄色信号というのはそのままで維持されることはむしろ少なく、努力すれば青信号へ向かい放っておけば自然に赤信号に変わることが多いようです。しかし、青信号に達すれば、悪くなっても高々黄色信号までですから、発作など起きませんし、早めに青信号に戻せばいいだけです。少しでも早く700近くに達したいと思うのであれば、その間だけでも禁煙をおすすめします。700に達したら、ピークフロー値と相談しながらタバコを始めては如何かと思います。この寄稿集の(09)の患者さんも実は喘息が良くなってタバコを始めました。
私は今タバコを“辞めている”立場ですので、「タバコは辞めるべきだ」と簡単に言えますが、タバコを辞める辛さは痛いほどわかるつもりです。でもあなたの場合羨ましいと思うのは、1日1本も吸わなくてもいられることができることです。少なくとも私が吸っていた頃はそんなことはできませんでした。ですから、目標を持てば一定期間の禁煙など簡単なのではないですか?あなたが一定期間仕事量を減らして吸入ステロイド量を増やし良くなったのですから、一定期間禁煙してタバコをやめればもっと治療効果は高まるはずです。
喘息治療のゴールは「健康人となんら変わりない生活が送れるようになること」です。その意味では、タバコがおいしく吸えるようになることもその一環であると私は思います。また逆説的表現になってしまいますが、「もっと良くなってタバコをおいしく吸いたい」、そのために禁煙してみては如何ですか?