(1)喘息コントロールがあまりうまく行っていない女子中学生がいます。さらに吸入ステロイドの回数を増やすべきですか?

【1001】小児科の先生から

<質問>
私の専門は呼吸器ではありませんが、吸入ステロイド(50)を1回3吸入を1日2回していてRTC500 mgか600 mgし、メプチンエアーを1日2回くらいしていても,全然コントロールされていない中学生の女の子がいましす。もちろん、ピークフローはしたこともありません。引っ越し前で狭い家に住んでいるせいもあるようだと言ってましたが…。吸入ステロイドの量が少ないのでしょうか?もっと回数を増やすべきでしょうか?ピークフローをしてないので、なかなか薬の加減がわからないですが、DSCG(インタール)+メプチンを併用したらいいのではないかと思うのですが、如何でしょうか?こういうコントロールされていない小児喘息患者がたくさんいると思います。

<応答>
たとえ吸入ステロイドを何吸入かでもしていれば、コントロールがつかない喘息はないというのが私の考えです。吸入ステロイド療法に疑問を抱いていたり良く理解していない医者が良くやる間違いは、吸入ステロイドが効かないとすぐテオドールなどの増量に走ったり、新しい抗喘息薬を増やしたりすることです。これらのほとんどは、医療費の無駄遣いになります。

“吸入ステロイドの効かない喘息など存在しない”とうのが私の考えです。なぜならベクロメタゾンは存在するステロイドの中で最強の抗炎症作用を有するステロイドだからです。プレドニンの数百倍から数千倍の抗炎症作用を有しています。

吸入ステロイドが効かない場合には、“如何に効かせるか”に最大の努力を注ぐことだけです。

<1>1番多いのは、吸入ステロイドを発作止めと勘違いし、発作時に効かないからと途中で止めてしまったり、ステロイドであるとの恐怖心のために吸っていると嘘を言う場合です。これは、主治医の説明に問題があります。

<2>本当に吸っていても効果がない場合には吹い方が悪いのです。スペーサーを使う、ゆっくり吸入する、息をこらえる、これが3原則です。うがいは副作用防止に必須です。

<3>これをきちんと正しくやっているのに効かないのは、発作を起こしていて、気道が細くなっているために、吸入薬剤が患部まで達しないからです。気道が細くなっている原因は、発作の頻発、痰の貯留、高度な気道炎症の存在などが考えられます。これらを除かずして、いくら正しい吸入をしていても、無駄な操作をしていることになり、ほとんど効果は得られません。発作が頻発しているときは、気管支拡張剤を吸入してから吸入ステロイドを吸う。水分補給やネブライザーなどで去痰を行ってから吸入ステロイドを行う。高度な気道炎症が存在しているときは、10日から2週間の一定期間、全身性ステロイドの力を借りなければなりません。気がついて欲しいことは、いずれの処置も“吸入ステロイドを如何に効かせるか”の1点に集中していることです。苦しいから行う気管支拡張剤の吸入、去痰のネブライザー、ステロイドの点滴ではないことです。先手を打つことこそ喘息の発作予防になるのです。

<4>中にはこれをきちんとやっても良くならない喘息患者がいます。しかしこれらの方は、決して吸入ステロイドが効かない体質であるのではなく、気道炎症が鎮静化するまでに最も必要な“気道の安静”が保てないことです。仕事が忙しい人、子どもで言えば部活や勉強で忙しい場合です。我々はこれを“社会的難治”と呼んで治療法の確立していない他の難治性疾患とは区別しています。気道の炎症を取るまでに一定期間、気道安静を保たなくては、喘息は絶対に良くならなのです。逆に、この気道炎症が完全に取れると、無理をしても発作どころか何ともなくなることが多々あるのです。

<5>そしてピークフローメーターはこの一連の治療効果の判断根拠になる唯一の指標ですから、本当に喘息を克服させたいと思えば、不可欠な道具になります。今まで通り“発作がないから落ちついている”などと症状で判断していては、レベルアップした治療は望めません。

これらをすべて正しく行っていない場合の吸入ステロイドの増量はあまり意味がありません。ましてや、DSCG(インタール)+メプチンでは、より完全な気道炎症の鎮静化は期待できないでしょう。DSCGには確かに気道炎症を抑える作用がありますが、ベクロメタゾンの比ではありません。発作回数は減らせても吸入ステロイドほどには気道炎症を取ってくれません。風邪を引くとまた大きな発作を起こしてしまうのが良く見られる結末です。RTCは、言ってみれば“気道炎症はそのままにして気管支平滑筋の攣縮のみを抑える療法”ですから、根本的な喘息治療とは言えません。吸入ステロイドが正しく作用するようになると、他の薬剤は一切不要になります。理想的には、喘息の慢性管理は吸入ステロイドとピークフローメーターだけで十分で非常に安くあがる病気なのです。