(7)気管支以外の喘息もあるのですか?
【002】40歳男性(配達自営業)から
<質問>
「気管支喘息」という病名についてですが、わざわざ「気管支」というからには、気管支以外の喘息もあるのですか?また、「気道」という言葉をよく使いますが、それは気管支と同じ意味なのですか?
<応答>
普通、喘息と言えば、イコール気管支喘息を指しますが、他に心臓喘息というのがあります。しかし、こちらは略して喘息とは呼ばず、心臓喘息と呼びますので、一般に喘息と言えば気管支喘息と考えて差し支えありません。
心臓喘息は、例えば、先天性心疾患、心筋梗塞や慢性高血圧に伴う心臓肥大などが原因で、心臓のポンプ機能が弱くなる心不全がひどくなった状態を指します。このような心不全状態では、肺から心臓に還ってくる血液が全身に押し出されなくなり、肺に血液が淀(よど)んでしまいます。こうなると肺がむくんだ状態になり、気管支喘息と同じようにゼイゼイとなってしまうのです。
臨床的には、気管支喘息と鑑別しなければならない重要な疾患ですが、鑑別は比較的容易です。何故なら、明らかな心疾患の既往がある高齢者に多いこと、レントゲンを撮影すると心臓が大きくなって肺がむくんで白くなっていること、心電図で所見があること、などが明らかであるからです。気管支喘息は肺炎でも合併していない限り、レントゲンを撮っても肺が白くなることはありません。ただ、元々気管支喘息であった方が、心臓を患い心臓喘息になると、鑑別は難しくなりますが、発症前後の様子を細かく聞けばどちらが原因かはわかるものです。実際、両者の合併は滅多にありません。
何故両者を鑑別しなければならないかと申しますと、これも少しベロテック問題と関係するのですが、心臓喘息の場合は心臓の治療が主体になり、例えば心筋梗塞が原因の場合の心臓喘息にベロテックなどをむやみに投与すると、心臓が刺激され心筋梗塞は悪化してしまい、心臓喘息自体が悪化してしまうからです。心筋梗塞は、心臓を栄養する血管が閉塞する結果、心臓の筋肉に血液が行かなくなり、心臓の筋肉の一部が死んでしまうので、心臓をなるべく安静に保たなければなりません。そこに心臓を刺激するベロテックなどは、心臓の筋肉の壊死を促進してしまいます。心筋梗塞というと、激しい胸痛を思い浮かべると思いますが、お年寄りの場合、感覚が鈍っていて高度な心筋梗塞でもまったく痛みを自覚せず、まさに気管支喘息に似た喘息として、救急病院を訪れることは結構あるので注意が必要です。
また、逆の場合もあります。心臓喘息に治療は肺のむくみを取るために利尿剤と言って、腎臓から尿をたくさん出す治療法がよくなされるのですが、よく鑑別せずに本当は気管支喘息である患者さんに、利尿剤を投与すると体から水分が失われ、気管支喘息の痰が硬くなり切れなくなって窒息する場合だってあるのです。また、反対に気管支喘息だから、水分補給と点滴をじゃんじゃん与えると、心臓喘息の場合はむくみが悪化して病気が進んでしまうからです。
このように気管支喘息と心臓喘息は、似たような病状でありながら、治療法の基本は全く逆になってしまうので、鑑別しなければならない重要な疾患なのです。鑑別しても治療法があまり違わない疾患はあまり鑑別しても意味はありません。
先日私がある医師会で講演した際も、ドクターから両者の鑑別点について質問されました。如何に重要な問題であるかおわかりでしょう。
私が気道という言葉を使う場合は、大まかに気管・気管支のことを指します。正確には、気道とは、文字どおり空気の通る道ですから、鼻や口や喉から肺胞に至るまでのすべての経路を指してしまうので、気道の炎症という言い方は正確には正しくありません。
解剖学的には、喉の声帯付近から最初に管が分岐するまでの1本の管を気管と呼び、それ以降管の分岐が十数回繰り返され肺胞に達するのですが、それらをすべて気管支と総称します。ただ、肺胞に近い方の細い末梢の気道は、終末細気管支とか呼吸細気管支など色々な名前がつきますが、ここは気管支喘息の主病変ではありません。気管支喘息の病気の主体は、気管から比較的太い気管支であると考えて下さい。太い気道が細くなればなるほど呼吸困難は強くなります。末梢気道が細くなる病気は、すべての末梢気道が閉塞することはむしろ少なく、従ってこれらの場合は呼吸困難はさほど強くありません。例えば肺癌の手術で、片肺を全部取ってしまっても、肺胞の数が減るので酸素不足になり息切れはしますが、残った肺の気管支は開いているので呼吸が苦しくなることはありません。この辺は家庭の医学など図入りでないと理解しにくいかと思います。
気管支喘息は、正確には気管・気管支喘息と呼ぶべきですが、気管や太い方の気管支は管の周りに軟骨がとりまいていて、気管支平滑筋が痙攣しただけでは気管は潰れないようにできていますので、気管を除いて気管支喘息と呼ぶのだと思います。従って、もっと正確には比較的太い方の気管支でかつ軟骨がないない気管支が痙攣で潰れる病気ということになりますが、何がなんだかわからなくなるので、通称気管支喘息と呼ぶのだと思います。