(1)10歳の子供が喘息です。
【1003】消化器内科の先生から
<質問>
小生は現在、消化器内科の医師をしております。長男(10才) が喘息と診断され、小児科医の指導でオノンを服用中です。無症状でピークフロー値は300〜350
mlなのですが、時々小発作を発症しています。今年の夏は発作回数は少なく調子が良かったのですが、アトピー性皮膚炎が悪化しています。検査値は、鼻汁中の好酸球陽性、抗原はハウスダストとダニなどが陽性です。このような状態での治療法として先生がお考えになる手段をお聞かせいただければ幸いです。ご判断に必要なパラメーターがありましたら再度ご連絡差し上げます。
<応答>
お子さんが喘息で大変ですね。罹病期間はどのくらいになるのでしょうか?私のつたない経験ですが、10歳の男の子でピークフロー値が300〜350を維持しているのに小発作を起こすのは、能力としてはさらに100くらい吹けるのではないかと思います。またこのことから、先生のお子さんは喘息の罹病期間がかなり長いのではないかと推察いたします。
私は、アレルギー学会の提案しているピークフロー値のゾーン管理法には、疑問を抱いております。その管理法が正しくて、ほとんどの喘息児が普通の子と同じように生活ができているなら、私は何もホームページを公開しようとはしませんでした。喘息児はもっともっと高い値がでるはずだし、極力それに近い状態に維持すべきだとの考えを持っております。ピークフローの値によらず、一見安定しているようでも、すぐ発作を起こすようなら、それはあくまで気道炎症の存在しているイエローゾーンであって、吸入ステロイドの適応であると考えております。ただ、この気道炎症の考え方が、小児科の先生にはなかなか受け入れられなくて困っております。「発作がないから安定している」と考えてしまう傾向にあるようです。
私は、先生のお子さまにもぜひ吸入ステロイドをお勧めしますが、色々問題があってそう簡単には行かないと思います。そこで、先生ご自身がお子さんの状態を判断される根拠として、一つ以下のような簡単な実験をなされてみては如何でしょうか?それは、お子さんの調子がよいときに、外へ連れ出し、かけっこをしてみるのです。ちょっとした山登りでも良いと思います。その時、お子さんが発作は起きなくても、すぐ息が切れてしまいついて来れないとしたら、それはイエローゾーンであると判断して良いと思います。健康な子供ならこんなことは絶対ありません。もし、すぐ息が切れてしまうようなら、恐らく普段の学校でも、同じような生活制限が必ずあるはずです。もしそうだとすると、いつのまにかお子さんは何らかの形でハンディをおって生活しているのではないかと考えられるのです。くれぐれも誤解しないで頂きたいのは、もしお子さんがすぐ息が切れるとしたら、「それは体力がなくなっているからだから、体を鍛えなければならない」と判断しないで欲しいという点です。単に気道が炎症のために細くなって動くと酸素不足になっているだけなのです。吸入ステロイドは劇的にこの炎症を除去してくれますが、私はだから吸入ステロイドをすぐ使った方がよいとは申しません。発作がなく一見元気そうに見えるお子さんでも、実はそれほどいい状態ではないのだ、と先生ご自身がそういう温かい目でお子さんを見守って上げて欲しいというのが第1点です。
私は、ほぼ極量のテオドールやインタール、抗喘息薬でも良くならない喘息が、吸入ステロイドを1〜2週間吸っただけで、劇的に良くなった患者さんを何人も経験しております。吸入ステロイドは、他剤とはまさにレベルの違う薬剤なのです。オノンも抗炎症作用を唱っていますが、吸入ステロイドとはレベルが違います。もっともっと取って上げることのできる気道炎症をなぜ中途半端に放置しておくのだろうか?これが、小児アレルギー専門の先生方に申し上げたい点であります。
もう一つ、オノンも喘息の抗炎症薬の一つで、発作を予防する作用は確かにあるとは思いますが、吸入ステロイドのように積極的に気道炎症を除去する作用はないと思います。そう考えますと、いつまでオノンを続けなければならないか?という疑問が残ります。大きくなって運良く、喘息から離脱できればそれは一番良いことなのかもしれません。しかし、その予測は現段階では困難であり、薬剤からの離脱を念頭に置けば、私は早めに吸入ステロイドで気道炎症を取ってあげて、ピークフローモニターをしながら、早めに薬剤から離脱することをお薦めしたいです。
もし、吸入ステロイドに対し安全性や効果にまだ疑問がおありであれば、例えば2週間という期限付きで開始されては如何かと思います。2週間では、ただでさえ副作用のない吸入ステロイドですから、心配なことがあったとしても、2週間なら何も問題は起きないと思います。恐らく、その劇的な効果にお子さん自身が驚くのではないかと、私は確信します。その時点で、やはりステロイドだから不安だと中止するも良し、続けるも良しです。
ただし、もし続ける場合には、必ず正しい吸入方法で行って下さい。誤った方法で2週間吸って効かないからとすぐ止めてしまうのでは実にもったいないからです。こういう例があります。先ほどのようにほぼマキシマムのテオドールやインタール、抗喘息薬に加え、吸入ステロイドを吸っているのに全然良くならないという方に、吸入方法を指導しただけで、ぐーんと良くなる方がいるのです。如何に正しい吸入方法が大切かを物語っていると同時に、如何に他の薬剤が無効であったかをも示してはいますが…。
吸入方法は、ここでは簡単にしか触れませんが、ベコタイド100でしたら1日2吸入(朝・夜1吸入ずつで良い)で開始してみて下さい。方法の3原則は、(1)スペーサーと呼ばれる吸入補助器(ボルマチックやインスパイアイースなど無料で製薬会社が提供してくれます)を使い、(2)ゆっくりと吸入し、(3)十分息をこらえる、ことです。この3原則だけ守って下されば、必ず良い効果を発揮するものと確信しております。吸入後のうがいは副作用の防止のために必ず行って下さい。なお詳しい方法は、このホームページの「付録集」に載っています。また、薬剤師が運営しております「小島君のおうち」(関連リンクからジャンプできます)にも実際的なことが載っていますので、参考にして下さい。
アトピーとアレルギー性鼻炎は、私は専門外になりますので、ここではコメントはできませんが、こうした全身性アレルギー性合併症がある方でも、少なくとも喘息は吸入ステロイドで良くなることだけは確かです。喘息が良くなれば、何らかの形で合併症の方にもいい影響がでればいいのですが…。