(10)吸入ステロイドは何故ゆっくり吸わなくてはならないのですか

【002】40歳男性(配達自営業)から

<質問>
吸入ステロイド療法にとって吸入方法はとても大切だと感じています。私は何年もこの療法を続けてきましたが、正しい方法で吸入していなかったために最近まで効果が出ませんでした。正しい方法をもっと早くに知っていたら、と悔やまれます。
ところで5秒以上かけてゆっくり吸うのがよいとよく言われますが、当時の私は喘息がひどく悪くなっていて、5秒どころか2〜3秒くらいしか吸いつづけることができませんでした。それまで私はスペーサーの吸い口を唇で覆うようにくわえ、口を少しすぼめるようにして勢いよく吸っていました。これであれば5秒は無理でもそれに近いくらい長く吸うことができました。勢いよく吸うので、「吸ったあ」という実感がありました。 しかし、それではだめだというのです。ゆっくり吸わなければならないということはどうにも理解できませんでした。もたもた吸っていては薬剤が気管支に到達してくれないのでは、とも考えました。 しかし専門家のお書きになっていることなので、私は騙されたと思ってゆっくり吸うようになりました。そしたら途端に喘息がよくなってきたのです。こうなると、理由はわからなくても、ゆっくり吸うことが重要なのだと思わざるを得ません。こうして私はゆっくり吸うことの大切さを実感し、以来、ゆっくり吸いつづけています。
しかし「なぜゆっくりなの?」という疑問は消えていません。何故吸入ステロイドはゆっくり吸わなければならないのですか?

<応答>
吸入ステロイドは何故ゆっくり吸わなければならないか?は非常に大切な点です。

その前に、スペーサーに噴霧したときの白い煙のような物体は薬剤でなくフロンガスであることはご存じでしたか?フロンガスはすぐ消えてなくなりますが、ベクロメタゾンは目に見えないのですが1回の噴射で30秒以上は容器内に漂っているといわれています。目に見えないので吸ったかどうかがわかりにくいのだと思いますが、タバコの煙と同じようなものなのです。

タバコを吸うときのことを考えてみて下さい。タバコを勢いよく吸う方はいませんよね。タバコの煙で気管を刺激したければゆっくり吸うでしょう。その方が枝分かれした気管支粘膜から吸収されたニコチンがすぐ吸収されるでしょう。

何故ゆっくりした吸入が大切かの答えは2つです。

1つは、以前も申し上げましたが、早く吸うとほとんどの薬剤が喉の奥にぶつかってしまうことです。これは冷たい空気を勢いよく吸うと喉の奥がひんやりするのと同じで、説明しなくてもわかると思います。

もう1つは、せっかく気管支に入っていっても、早く吸うと広がった気道にしか到達せず、薬剤を効かせたい部分には薬剤が入っていかないからなのです。この点は、「知識」の「喘息のことがよくわかるミニ・ツアー」でも少し触れていますが、やや難しい理論になりますので、わかりやすく説明します。

例えば、水道の蛇口にホースをつけて水を出すことを連想して下さい。そしてその先が2股に分かれていて、1つは太くもう一方は極端に細いとします。蛇口を全開にし水の勢いが強いと全部太い方に流れてしまい、細い方から水は出てこなくなるのです。それどころか太い方に流れる勢いで、細い方は逆方向に吸い込まれてしまうことはよく知られています。しかし、チョロチョロとゆっくり水を出すと細い方からも水は出て行くのです。

気管支の炎症はどの気管支も決して均一に炎症を起こしているわけではなく、所々細いのと太いのとが入り交じっているので、早く吸うとこの水道と同じ原理で太い気道にばかり薬剤が到達し、薬剤を効かせたい細い炎症のひどい部分には薬剤は到達しなくなるのです。ゆっくり吸うと薬剤を効かせたい部分により到達し安くなるのはこのためです。