(1)スキューバーダイビングはできるでしょうか?

【010】33歳女性(セールス関係)から

<質問>

32歳の女性です。

セールス関係の仕事をして9年になります。かなりハードな仕事です。

2年程前にあるぜんそくの専門医に出合い、そこで吸入ステロイドの指導を受けてぜんそくはずいぶん良くなりました。それまでは、営業の途中で発作にみまわれて、近くにある診療所等に駆け込んで点滴を受けたりと言う事がたまにありましたが、現在ではそのような事もなくなり、快適に生活しています。

さて、今回このホームページを見つけて御相談がありメールを書いています。実は最近スキューバダイビングに挑戦したいと思い、主治医に相談してみました。今まで、海外での3ヶ月の滞在や、様々な事にチャレンジする際先生に相談すると大抵の事はOKを頂き、いろんな事に自信を持ってのぞむ事が出来ましたが、今回は、先生からよいお返事を頂く事が出来ませんでした。

理由は、エアーの吸引と気圧の変化がどのようにぜんそくに影響するかが定かでは無いとのことです。地上でするスポーツなら何をやってもいいが、気圧のかわるところでのスポーツは危険だとの事です。私も確かに気圧の変化がぜんそくに影響する事は知っています。先生がおっしゃるにはあえていまさらそのような危険をおかす必要は無いだろうとのことです。

でも、私は一度試して見たいと考えています。もし、よろしければ先生の御意見もしくは、何か参考になる事例を御存じでしたらお聞かせいただけると嬉しく思います。

もちろんこれからそれにトライするかどうかは、まだ決めたわけではありませんし、危険と知ってもトライすべき事かどうかは、私の責任上でする事ですから、お答えに対して責任を求めるような事は一切考えておりません。質問しておきながら大変失礼なこととお詫び申し上げます。

<応答>

>>32歳の女性です。セールス関係の仕事をして9年になります。かなりハードな仕事です。2年程前にあるぜんそくの専門医に出合い、そこで吸入ステロイドの指導を受けてぜんそくはずいぶん良くなりました。それまでは、営業の途中で発作にみまわれて、近くにある診療所等に駆け込んで点滴を受けたりと言う事がたまにありましたが、現在ではそのような事もなくなり、快適に生活しています。

→いい専門の先生に巡り会えて良かったですね。このような先生はなかなかいないのです。

>>さて、今回このホームページを見つけて御相談がありメールを書いています。実は最近スキューバダイビングに挑戦したいと思い、主治医に相談してみました。今まで、海外での3ヶ月の滞在や、様々な事にチャレンジする際先生に相談すると大抵の事はOKを頂き、いろんな事に自信を持ってのぞむ事が出来ましたが、今回は、先生からよいお返事を頂く事が出来ませんでした。
理由は、エアーの吸引と、気圧の変化がどのようにぜんそくに影響するかが定かでは無いとのことです。地上でするスポーツなら何をやってもいいが、気圧のかわるところでのスポーツは危険だとの事です。私も確かに気圧の変化がぜんそくに影響する事は知っています。先生がおっしゃるにはあえていまさらそのような危険をおかす必要は無いだろうとのことです。
でも、私は一度試して見たいと考えています。もし、よろしければ先生の御意見もしくは、何か参考になる事例を御存じでしたらお聞かせいただけると嬉しく思います。

→喘息には大変理解のある先生であるとお見受けしました。また、スキューバダイビング以外は何でも許可されているようですので、随分あなたの喘息の病状は良いように見受けました。

基本的には、喘息の方が制限される行動はあってはならないというのが私の基本理念です。また、そうした人生の目標を持つことが喘息をよくして行く最大の励みになるからです。

ただ、私も自分の患者さんには、運動や旅行など許可できない場合があります。許可といってもそれは保証できないという意味で、最終決断はもちろん患者さん自身ですが…。それは、発作が頻発している状態、またいつ発作が起きるか予測できない状態、専門的には気道炎症が残っている(イエローゾーンにある)場合です。このような場合、気圧の変化や冷水の変化など喘息悪化に大きく影響するからです。潜水自体は気圧が高くなる訳ですからさほど問題はないと思いますが、問題は浮上する途中や浮上してからが問題でしょうね。また、先生がおっしゃるように、地上では救急処置ができますが、海の中、また浮かび上がっても船の上では、いざというときに対処できないという問題があります。

ピークフローメーターは記録していますか? もし、まだ記録ていないとすれば、どうしてもスキューバダイビングがやりたいという今こそ導入してみては如何でしょうか? また、もしすでにつけているとしたら平均値のどのくらいでしょうか?

結論的には、発作がないからと自覚症状のみを頼りに潜るのは、私なら許可はしないでしょう。しかし、身長や機種にもよりますが、発作のない状態で500以上(あくまで目安です)吹けていれば、私ならスキューバダイビングでも何でも許可します。ただ、いきなりは恐いので、ピークフロー値の状態を見ながら徐々に潜水高度をあげたり時間をのばしたり慣れさせる方がいいかもしれません。たとえば、プールの中で潜水の訓練をすることも可能でしょう。また、たった1回の潜水で終わりではないのでしょうから、その都度ピークフロー値と身体の状態と相談しながら潜るかどうか決めてみては如何でしょうか?

気道炎症がほぼ完全に取れている状態ではよほどのことでもない限り急激に発作は起きないものですし、万が一起きても程度は軽く済みます。喘息でない方が負うリスクとほぼ同じだと考えられます。私も軽い喘息がありますが、今の状態ならスキューバダイビングはやれると思います。

ピークフロー値がどうしても500に達しない場合は、私のホームページで吸入方法をチェックされ適宜安静を交えながら、吸入ステロイドの回数を増やせばそう困難な目標ではないと思います。ましてやスキューバダイビングをどうしてもやりたいという目標があればなおさらです。

ピークフロー値が500を越えていても、どうしても不安であれば、例えば念のため潜る前に吸入ステロイドや気管支拡張剤を多目に吸ってから潜るのも一策です。船の上に気管支拡張剤をおいておけば少し潜って苦しくなるようなら、すぐ浮上すれば大事には至らないでしょう。酸素はもともとありますし安心です。

なぜそこまでしてやらなければならないのか? という方がいるかもしれません。しかし、私はそういうあなたの気持ちを心から応援したいと思います。そして人生を楽しむことができれば、他の患者さんにも大きな励みになるでしょう。

>>もちろんこれからそれにトライするかどうかはまだ決めたわけではありませんし、危険と知ってもトライすべき事かどうかは、私の責任上でする事ですから、お答えに対して責任を求めるような事は一切考えておりません。質問しておきながら大変失礼なこととお詫び申し上げます。

→何気ない一言ですが、しっかりとしたご自分の考えをお持ちの方だなあと感心しました。この件に限らず、今後は医療もこうならなくてはならないと常々考えております。法定伝染病など人に移したりする病気は別として、「医者(できれば複数の医師)の説明を受け、いくつかのオプションの中から、最も良い治療方法を選ぶ」これが理想的医療の姿であると思います。例えば末期癌などの治療のように、何もしないことを選択するのも場合によっては考えられますね。

最後に、まれにピークフロー値500以上吹けても、風邪を拗らせてすぐにピークフロー値が低下する方がおりますので注意して下さい。もし詳しい値など教えて頂ければさらに何かアドバイスできるかもしれません。

このくらいで宜しいでしょうか? 不明な点があれば、またいつでもメールを下さいね。

では。


<返答メール>

お返事ありがとうございます。いろいろ、誠意のこもった御意見、心から感謝したします。

>>ピークフローメーターは記録していますか? もし、まだ記録ていないとすれば、どうしてもキューバダイビングがやりたいという今こそ導入してみては如何でしょうか? また、もしすでにつけているとしたら平均値のどのくらいでしょうか?

→ピークフローは今はつけていません。以前つけていた事はあるのですが、どうしても朝のばたばたや、夜の残業で遅くなったりしてつけ忘れることが多く途中で挫折してしまいました。今の先生に出会ってちょうど半年くらいつけていましたが、大体平均は400前後。調子の良い時で480ぐらいをキープしている事もあったようですが…。

>>なぜ、そこまでしてやらなければならないのか? という方がいるかもしれません。しかし、私はそういうあなたの気持ちを心から応援したいと思います。そして人生を楽しむことができれば、ほかの患者さんにも大きな励みになるでしょう。

→ありがとうございます。先生の御意見はとても私を勇気づけてくれるものでした。

本当に、心から感謝したします。

今後の経過は、また、参考になりそうな事があれば御連絡させて頂きます。

今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。


<追加応答>

メールありがとうございました。

追加したいことがいくつかあります。

(1)参考となる事例ですが、私のホームページの「寄稿集(05)」の女子高生の箇所、特に彼女のお母さんの箇所を是非お読み下さい。低気圧との関連ですが、気道炎症が取れると、テオドールを飲み忘れても、吹雪の中スキーをかついで山登りをしても息切れしなかったという話が載っています。山の上の方が低気圧という条件は厳しいかと思います。このように気道炎症がほぼ完全に取れると、低気圧や冷気の中でも何も起こらなくなることは経験しています。

(2)ピークフロー値で500以上と書きましたが、あなたの場合480がこれまで最高のようですね。最低でも500以上で安定すれば問題ないとは思いますが、ひとつだけ、発作やゼイゼイがなくて500以上を越えていても、100メートルダッシュすると息が切れる、一気に階段を上れない、咳が多くて朝目が覚める、風邪を引きやすいなどの症状があるときは、もっと上があるということを自覚して欲しいと思います。また、体格の関係で500以上は無理な場合がありますので、これら症状を参考に自分の状態を判断してみては如何でしょうか?

(3)現在450前後かと思いますが、これを500以上に持って行くにはかなりの努力がいるかもしれません。お仕事も早朝出勤や残業など大変かと思いますが、ことピークフロー値を上昇させようとお考えになるならば、一定期間気持ちの上で安静を心がけて下さい。例えば、早く帰れるときは、なるべく早く帰って早くねる、しばらくの間遊びなどのおつきあいを断る、などです。これが可能なのは年末年始くらいでしょうか? 年末年始にかけて仕事がもし減らせるようならば、ゆったりと休養をとり、吸入ステロイドを増量してみると、いい結果が得られるはずです。吸入ステロイドは気管支が広がれば広がるほど効果が抜群になるのです。

以上、私としましてもいい結果が得られれば、是非また私のホームページで紹介させていただきたいと思いますので、宜しくお願いいたします。

では、頑張って下さい。