◆肺気腫でなぜ努力呼出時に気道が潰れるのか?

肺気腫では、努力呼出時に気道が潰れる現象がおこり、これが気道炎症が存在しないにも関わらず、肺機能検査時やピークフローメーターを吹いた時などにピークフロー値が上昇しない原因になります。

まず、我々の肺は息を吸って膨らむと特に吐く努力をしなくてもひとりでに空気が出ていきます。これは、肺胞周囲には弾性線維と呼ばれるゴムのような働きをする線維が取り巻いているからです。

しかし、タバコなどが原因で肺胞が破壊される肺気腫では、この弾性線維が断裂しゴムの働きがなくなり、伸びきったゴム風船のように一度膨らんだ肺胞は縮み難くなります。このために、肺胞に取り込まれた空気は抜け難くなり、肺は過膨張になり胸郭もビア樽のように大きくなります。

実は肺気腫でピークフローメーターを記録するときのように努力呼出をすると、気道が虚脱するのはこの伸びきった肺胞と深く関係しています。

その前に、まず正常の場合を考えてみましょう。

正常な人間の肺は、気管・気管支が無数に枝分かれをし何億という肺胞につながっています。太い気道では、気管(支)軟骨が取り巻いており、容易には潰れ難くなっています。しかし、軟骨のない細い気道は、ペナペナしたゴムホースのように、外圧がかかるとすぐに潰れてしまうのです。

例えば、今正常な人間の肺を取り出し、ブドウの実を一つづつ取り除くように、すべての肺胞を取り除いたとします。そこには枝分かれしたブドウの幹のような気管支が残るでしょう。

これをもう一度胸郭の中に戻し、その状態で努力呼出を行ったとしたらどうなるでしょうか?軟骨のない細い気道は、胸腔内圧に負けて虚脱してしまい空気は吐き出せなくなってしまいます。

しかし、健康な人間は、思いきり息を吐いてもこのように気道が潰れることはありません。それは、ゴムのように伸び縮みする肺胞が呼出時の気道の虚脱を防いでくれているからなのです。

さて、次に肺気腫の場合を考えてみましょう。

肺気腫では、肺胞破壊の結果弾性線維が断裂し、この呼出時の気道虚脱を防止することができなくなるのです。これが、肺気腫の患者さんは思いきり息を吐いたときに気道が潰れてしまう原因と考えられています。

しかし、気道自体には炎症が存在していないので、思いきり息を吸うことは可能なのです。

ちなみに、慢性気管支炎や気管支喘息などでは、気道炎症や喀痰貯留などの理由で、呼出時でも吸気時でも気道は細くなっているので、空気の流れは悪くなります。

このように、肺気腫では努力呼出時のみに気道が細くなる現象が非常に特徴的な現象になるのです。

蛇足ですが、肺に入った空気が出にくくたまる一方としますと、風船のように肺気腫患者さんの肺は膨れ上がり破裂してしまうはずです。しかし、実際にはこのようなことは起こりません。それは、肺気腫患者さんは自ずと肺にたまった空気を抜く方法を体得しているからなのです。それが、口すぼめ呼吸といわれる呼吸法なのです。

これは、運動した後などに酸素が欲しいからと行って、早い荒い呼吸をしますと先ほどの理由で気道虚脱が起こり、肺に空気がたまってしまいますが、そのようなとき、口笛を吹くように口をすぼめてゆっくり息を吐くと気道内圧が高くなるので外圧からの気道虚脱を防止してくれるのです。うまくできていますね。