(12)気管支の繊維化について教えて下さい。

【013】喘息の28歳女性を彼女に持つ男性から

<追加メール7>

ごぶさたしております。

私の彼女が吸入ステロイド療法を始めて、そろそろ半年になろうとしています。以前は休みの前に仕事をがんばりすぎて、せっかくの休みは発作で遊びにも出られないといったことがよくありましたが、おかげさまで今年の冬は発作に邪魔されることもなく、楽しく過ごすことができました。

ピークフローは370とまだまだ十分とは言えない状態ですが、1日内の変動は小さくちゃんと吸入を続けている限りは発作は出そうにないと本人も感じているようです。続けていてもピークフローが改善されない理由はよくわかりませんが、実際に発作がないうえに、日常生活で息が切れるようなことがなくなると本人もあまり改善の必要性を感じなくなるようですね。アレルゲンを避けるという意味では、住んでいる部屋の環境などにまだ改善の余地があるように思えるのですが、そのへんもピークフローが上がらない原因かもしれないと思っています。

ところであるページで「繊維化」という言葉を見つけました。これは肝臓の場合肝硬変になるとか、ある種の病気では肺の組織にも起きるようですが、気管支の繊維化について、どんな現象なのか、どの程度の病歴の人が、どのくらいの割合で、そのような状態になるのかお教えいただけないでしょうか

<追加応答7>

お久しぶりです。

>>ところであるページで「繊維化」という言葉を見つけました。これは肝臓の場合肝硬変になるとか、ある種の病気では肺の組織にも起きるようですが、気管支の繊維化について、どんな現象なのか、どの程度の病歴の人が、どのくらいの割合で、そのような状態になるのかお教えいただけないでしょうか。

→「繊維化」とありますが、これは、医学用語では「線維化」と書きます。色々な臓器に「線維芽細胞」が増殖して、その細胞が産生するコラーゲンが臓器に沈着し硬くなってしまう病気です。基本的には、どの臓器にも起こりますが、呼吸器系では肺線維症が有名です。

呼吸器系は、気管・気管支の気道という“”と肺胞という“”からなっていますが、肺線維症は肺胞が壊れて線維化を起こし、肺が硬く膨らみ難くなる病気です。気管支の線維化は実際にはあまり見られません。気管支は、無数に枝分かれしだんだん細くなって行きますが、太い方にはこの線維化は滅多に起こりません。しかし、びまん性汎細気管支炎といって、もっと末梢の細い方の線維化は起きることがあります。

肺の線維化は、そんなに多い病気ではありませんが、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患(膠原病)に合併して発生することが多いですね。私の外来患者さんの中では、1割弱くらいでしょうか? 軽いうちは、胸のレントゲンで陰影が存在していても特に症状はないのですが、進行してくると息切れが出現し、肺炎などを合併すると急激に悪化し、死に至ることのある重篤な病気です。肺癌の合併なども多いので、症状がなくても定期的にレントゲン検査を受けた方がいいでしょう。

治療は、現在のところ有効な薬剤が存在しておりません。いわゆる難治性疾患(難病)に分類されます。現在では、悪化したときに全身性ステロイドや免疫抑制剤が使用され、効果を発揮することがありますが、その後も長期に渡ってステロイドを服用しなければならず、いわゆるステロイド副作用が色々とでてきます。

どなたか、肺線維症の方がおられるのですか?

では、こんなところで。


<追加メール8>

「線維化」について、ていねいな解説ありがとうございます。

彼女のピークフローが、平均的な数値をかなり下まわっている状態が改善しない理由について、気管支の一部に固まったたんでも詰まっていて吸入ステロイドが到達しないのだろうか、あるいは気管支が単に炎症をおこしているだけでなくて、広がらない理由が何か別にあるのだろうか、などと想像したのです。(以前、発作があったころ、何か胸の片側が他方より苦しいような気がすることが多かったそうです。内臓の状態が自分の感覚でそこまでわかるだろうかという気もしますが、どちらかの肺が特に膨らみにくいといったことはないでしょうか?)

喘息のホームページで、発作をくりかえすことによって、気管支の壁が次第に厚くなり柔軟性を失うといったことを読みました。 またアメリカのページに吸入ステロイドについて、

"The clinical effects of corticosteroids include reduction in severity of symptoms, improvement in peak expiratory flow and spirometry, diminished airway hyperresponsiveness, prevention of exacerbations and possibly the prevention of lung remodeling. "

とあり、この "lung remodeling"というのは、(吸入ステロイドによって防止できる可能性があるなら)逆に言えば喘息によって肺が何か変形を受けることを意味しているようなので、これはその「線維化」によるものなのだろうかと思ったのです。 

<追加応答8>

英語のページをたどってらっしゃるのですね。感心いたしました。

>> "lung remodeling"というのは、(吸入ステロイドによって防止できる可能性があるなら)逆に言えば喘息によって肺が何か変形を受けることを意味しているようなので、これはその「線維化」によるものなのだろうかと思ったのです。 

→これは、少し専門的ですが、非常に良い点をついています。ここは、最近の学会などのトピックです。喘息が難治化すると、粘膜と平滑筋層の間の基底膜という膜が、厚くなってくると言われています。これは線維化ではありませんが、この膜が厚くなると治療によっても元に戻らなくなるのではないかと考えられているのです。すなわち不可逆性変化(いわゆる"lung remodeling")と言うことです。まだ、一定の結論はでていないところですが、喘息が難治化してから吸入ステロイドを導入するのではなく、重症化する前に吸入ステロイドを積極的に導入し、不可逆性変化への進展を止めるべきであると私は思います。しかし、まだ吸入ステロイドに対して懸念を抱く医師は受け入れてくれません。今後のデータ集積が必要でしょうね。

では。


(13)1年間発作のない生活を送っています。

【013】喘息の28歳女性を彼女に持つ男性の彼女自身より

<追加メール9>

このコーナーで「喘息の28歳女性を彼女に持つ男性から」と紹介された男性の彼女です。ご無沙汰いたしております。覚えておられますでしょうか?

一昨年の暮れにはじめて先生のアドバイスを頂き、吸入ステロイドを使うようになってから、おかげさまで丸1年以上発作のない快適な生活を送っています。生来ずぼらな性格で、息苦しくさえなければピークフローが横這い(300〜400程度)なことも特に気になることもなく、先日までベコタイド100を1日1回3吸入程度のペースでつづけていました。この1日1回の吸入すら時には忘れ、かすかに息苦しさを感じる時「私には吸入ステロイドは欠かせないものなのだ」と、その効果を再認識します。このホームページに出会っていなかったら、そして吸入ステロイドを始めていなかったら、今もわたしは毎日薬を飲み続け、夜間診療のお世話になっていたことでしょう。

ところで最近フルタイドを処方してもらいました。

主治医の先生もご自分で診ておられる重症のぜんそく患者さんに使ってみて、とても感触が良かったそうで「あなたくらいの(軽症の)患者さんには必要ないかもしれないんだけど」と言いつつも、フルタイド200を7枚処方してくれました。今度は1日1吸入との指示なので、7枚で28日分あります。今までの定量噴霧器とちがい、残り回数が間違いようもなくわかるのが良いと思います。

それに携帯にとても便利なこと、そしてなにより薬代がとても安く済んだ(私の場合ですが)ことがとても嬉しかったです。フルチカゾンの効果については、ここしばらく風邪気味のせいもあり特に劇的な変化は見られませんが、吸入がとても簡単になったおかげで毎日サボらずに続けられること、は些細なことかもしれませんが私にとっては良い変化です。

最近、周りに意外に喘息患者さんが多くいるような気がします。職場でも入ったばかりの方が「喘息がひどくて」辞めたと後になって聞きました。同じ職場にもうひとり気管支拡張剤のみを処方してもらっているらしい人がいます。吸入ステロイドのことは話したことがありますが、今使っているかどうかはわかりません。もし、もし吸入ステロイドが効く喘息で、吸入ステロイドを知らずに今も苦しんでいるのだとしたら…。別サイトでどなたかが言っておられたのですが、どうして喘息に吸入ステロイドがこんなにも有効だという情報を、インターネットという場でしか手に入れる事ができないのでしょうか? 私が諏訪部先生のことを知る前に本屋等で喘息について調べようとした時には吸入ステロイドのことは出てきませんでした。お医者さん自身がまったく知らないというならまだしも、知っていて、患者に選択支として提示することもなく今までの治療を続けているとしたら犯罪に近いとさえ感じてしまいます。わたしはラッキーなのだと、彼に言われました。でもラッキーで片付けてしまってはいけない問題だとおもうのです。

長くなってしまって申し訳ありません。フルタイドについては多少の疑問もあるのですが、それはまたこのホームページや他の喘息関連サイトで自分なりに情報を集め判断していこうと思っています。

寒さもまだまだ続きますが、諏訪部先生もお体に気をつけてくださいね。本年もますますのご活躍、かげながら応援しています。それでは、また、よいお知らせができますように。

<追加応答9>

こんにちは。

確か以前彼からあなたのメールを転送していただきましたね。今度はインターネットにつながったのですか?

フルタイドの本当の効果を得るには、私は現在の量では不十分と考えています。しかし、そうでなくても、これまでよりより簡単に吸入できるので服薬コンプライアンスが上がる(長続きする)ことも大きなメリットですね。

もっとよくなりますから、根気よく続けて下さいね。

では、彼にも宜しくお伝え下さい。