(1)ピークフローメーターの機種による違いについて。
【060】49歳男性(通信関係)の方から
<質問>
はじめまして。
先生のWebの解説で出てくるピークフローメータはアセス型を用いたときの値でしょうか? 現在ミニライト型に変更してから、以前使用していたアセス型のような高い値が出なくなりました。アセス型では600前後、ミニライトでは500前後です。
<応答>
はじめまして。
>>先生のWebの解説で出てくるピークフローメータはアセス型を用いたときの値でしょうか? 現在ミニライト型に変更してから、以前使用していたアセス型のような高い値が出なくなりました。アセス型では600前後、ミニライトでは500前後です。
→本来は機種間で大きな差があってはならないはずなのですが、まだピークフロー値が普及していないこともあって、実際にはこのような問題が発生しております。
私は、特にどの機種とは意識していませんが、どちらかと申しますと私の患者さんは値段が安いアセスを多く使ってきましたので、アセスの値を念頭に置いているかもしれません。とりあえずの目標は、アセス型では600前後、ミニライトでは500前後だととりあえず安心しております。ただ、私は男性の場合は、もう少し吹けなくてはならないのではないかと考えております。と申しますのは、女性でも本当に良くなりますと、アセスでは640とかすごい値が出る場合があるからです(→「症例紹介(2)・23歳女性」参照)。ミニライトで620吹けた方も経験しております(→「寄稿集(03)・36歳女性」参照)。男女差を考えますと、やはり男性はもう少し吹けて当然ではないかと考えています。
【060】49歳男性(通信関係)の方から
<追加メール1>
私は10年前に始めて喘息で○○病院(呼吸器科、△△先生)、□□病院に入院したときにPIE症候群と診断されました。その時は好酸球が50%程度に上昇し、咳と痰と息苦しさでたいへんでした。その時はプレドニンの内服(初めに40 mg、次第に減量)で対処しました。その後も喘息発作(咳と痰が主体で気道のキュと閉まる感じはあまり経験がない)とともに好酸球の上昇を何度か経験しました。運動時にさらさらした痰が多量に出て、呼吸がくるしくなることがありました。前から喘息の定義については疑問に思っておりました。私の症状は平滑筋がキューと閉まることではなく、痰とこれを出すために深い咳を一日中していることだったからです。最近の喘息に定義によると私のようなPIE症候群はどのように分類され、定義されるべきなのでしょうか? 現在の病状の安定はまさにピークフローと吸入ステロイドによってもたらされていることは紛れもない事実です。気管支喘息とPIEについて教えて下さい。
<追加応答1>
>>気管支喘息とPIEについて教えて下さい。
→PIE症候群とは珍しい病気になったのですね。もうすでに説明を受けておられるかもしれませんが、PIEとはpulmonary infiltration with eosinophiliaの頭文字を取ったものです。pulmonaryは肺の意味、infiltrationは浸潤という意味で肺にレントゲンで陰があるの意味、eosinophiliaは血液中に好酸球が増加するという意味です。この病気はまったく喘息と同じような発作がある病気なのですが、レントゲンを撮ると肺炎のような陰影があるにもかかわらず発熱がない、そして血液検査では好酸球が異常に増加している場合にこの病気が診断されます。
喘息でも好酸球が増加しますが、基本的には気管支の病気なのでレントゲンを撮っても肺に陰影は認められません。気をつけなければならないのは、喘息の方が細菌やウイルス性の肺炎を合併して発作を起こした場合、レントゲンを撮ればPIE症候群に似たような病状になることです。しかし、この場合、多くは発熱を伴い、血液検査では白血球が増加しその中味は好中球やリンパ球などで、滅多に好酸球は増加しませんから、容易に鑑別はつきます。PIE症候群の場合は、再発性で陰影が移動性であるなども特徴です。この陰影、すなわち肺に浸潤している細胞は好酸球であると言われています。
PIE症候群の原因は不明ですが、治療は喘息と同じです。ただし、肺炎合併の場合とよく鑑別しないと治療方針を誤ってしまう場合があります。肺炎合併の場合は抗生物質が不可欠ですが、PIE症候群の場合はステロイドが中心になるからです。この病気は吸入ステロイドが普及する以前から経口ステロイドを一定期間使用すると非常に良くなったので、以前から経口ステロイドがよく用いられてきました。吸入ステロイドは喘息様症状には有効でしょうが、肺胞まで到達しにくいので肺の陰影を消去させるに有効かどうかはわかりません。PIE症候群はそう多い疾患ではないので、吸入ステロイドの効果をまとめて検討した報告はないのではないかと思います(調べていませんが…)。
私の経験した症例では、初めのうちはPIE症候群の病状を呈していても、その後まったく喘息と同じになってしまい、そのまま喘息の治療を行っていました。
ですから、あなたの場合もPIE症候群だからといって特に意識せず、喘息としての治療を続けて行けばよいと思います。
では。
`【060】49歳男性(通信関係)の方から
<追加メール2>
早速、明快な回答をありがとうございました。私のこれまでの治療の中で先生のようにわかりやすく、明快に私の病気を説明してくれた先生はおりませんでした。インターネット上ですが、先生のような方にお会いできたことを大変うれしく思っております。回答に対して私の感想を述べさせて下さい。
>>ミニライトで620吹けた方も経験しております。男女差を考えますと、やはり男性はもう少し吹けて当然ではないかと考えています。
→特にミニライト型を使用していて感じることは湿度の影響を受けているのではないかと思うことがあります。1回目は比較的高い値が出ますが2回、3回と低くなる傾向があるようです。これは吐く息の湿気で指示針とそれが載っているガイド間の滑り摩擦が変化するためではないかと考えております。もし、そうだとすれば湿度の高い日はピークフローは低く出ることになります。また、別に吹き出し穴を塞いでいるわけでもないのにピークフロー値が突然高くなるときがあります。私も以前に670程度を記録したことがあります。この原因は良くわかりません。絶対値を議論するためにはピークフローメータの絶対値の信頼性をもう少し上げる必要があると考えております。
>>有効かどうかはわかりません。PIE症候群はそう多い疾患ではないので、吸入ステロイドの効果をまとめて検討した報告はないのではないかと思います(調べていませんが…)。…略…。私の経験した症例では、初めのうちはPIE症候群の病状を呈していても、その後まったく喘息と同じになってしまい、そのまま喘息の治療を行っていました。ですから、あなたの場合もPIE症候群だからといって特に意識せず、喘息としての治療を続けて行けばよいと思いますよ。
→ありがとうございました。上の解説でこれまでもやもやしていたことがすっきりしました。現在の治療方針は喘息ガイドラインに沿ったものになっていると考えております。現在の治療は吸入ステロイド800 ug/日(ピークフロー低下で1200 ug程度まで増量)、抗アレルギー剤アレジオン20 mgで過ごしております。ピークフローはミニライト型で毎朝8時、病状悪化では夕方も測定し、喘息日誌を付けております。
病状が悪化してピークフローが470以下になったときにプレドニンを10 mg/日(朝)を3日程度、その後5 mgにして3日程度、吸入ステロイドは800〜1200 ugを維持します。これで大抵はピークフローは520程度になります。私の場合、ピークフローが低下する前に咳と痰(これが好酸球性のものなのでしょうね)が出てきますので調子が悪くなったとわかります。その時は火事は早めに消せということで吸入ステロイドを増加させます。また、風邪などで痰が黄色や緑になったときには抗生剤を併用しております。
このような治療方針でプレドニンの長期服用から2年前に離脱しました。肺の陰影はこのところ見られていないようです。プレドニンなしで最近のデータでは白血球5000で好酸球8%程度、数で400個程度です。PIEでも肺胞に痰が出ないようにプレドニンの短期的な投薬を早めにすれば、吸入ステロイドが十分に肺にも到達し、内服剤に頼らずに治療効果が現れるのではないでしょうか? ステロイド吸入ではできるだけ息を大きく吐き、肺いっぱいにステロイドが行き渡るように吸っております。そして10秒以上そのままの状態を保持するように心がけております。もちろん、スペーサは使用しております。安定した状態を維持するために以上のような治療方針でよろしいでしょうか?
抗アレルギー剤についてですがPIEにも効果があるのでしょうか? 吸入ステロイドに比べてその効果がはっきりしません。効果のない薬剤はできるだけ飲みたくありません。先生のご意見を聞かせてきださい。
よろしくお願いします。
<追加応答2>
ミニライトの考察はなるほどと思いました。実は、私もときどきミニライトを吹いているのですが、670位吹けます。値のばらつきは10から30くらいです。1回目が吹けるのにだんだんと値が下がってくるもう一つの理由は、やはり気管支炎症が不完全に残っている場合に思いきり吹くと、かえってそれが刺激になって炎症が悪化する場合ですね。この現象が見られるうちはまだまだと認識しないといけないと思います。
いずれにしても、機種改良を含めてもう一度ピークフローメーターを見直す時期に来ているとは思いますね。
>>PIEでも肺胞に痰が出ないようにプレドニンの短期的な投薬を早めにすれば、吸入ステロイドが十分に肺にも到達し、内服剤に頼らずに治療効果が現れるのではないでしょうか?
→その通りですね。このような治療が板に付けば、喘息治療に関しては卒業証書が交付されますね。
>>ステロイド吸入ではできるだけ息を大きく吐き、肺いっぱいにステロイドが行き渡るように吸っております。そして10秒以上そのままの状態を保持するように心がけております。もちろん、スペーサは使用しております。安定した状態を維持するために以上のような治療方針でよろしいでしょうか?
→宜しいと思います。ひとつだけ、できるだけ息を大きく吐きますと、特に吹い始めの速度が早くなることがよく起こりますので、できるだけゆっくり吸うことを心がけてみて下さいね。
>>抗アレルギー剤についてですがPIEにも効果があるのでしょうか? 吸入ステロイドに比べてその効果がはっきりしません。効果のない薬剤はできるだけ飲みたくありません。先生のご意見を聞かせてきださい。
→私は、不要な薬剤は当然中止すべきであると思います。抗アレルギー剤については、私はホームページの至るところで述べていますが、吸入ステロイドが存在する今では存在価値は少ないという認識です。また、“高”アレルギー剤と言われる(私が勝手に名付けている)ほど、高い薬で医療財政を圧迫しているのも事実です。主治医とよく相談して中止の方向へ持って行ければいいですね?
では。
(4)経口ステロイドの短期投与の間隔はどのくらい開ければいいのですか?
【060】49歳男性(通信関係)の方から
<追加メール3>
薬について質問があります。よろしくお願いします。
(1)経口ステロイドの2週間以内の短期投薬で副作用がないことはわかりましたが、その次の2週間の短期投薬はどのていどの間隔をあければ副作用やリバウンドがないのでしょうか? 長期投薬とならない短期投薬のおおよその期間を教えて下さい。ちなみに私はピークフローが470以下になるとプレドニンの短期投薬をしますが、その間隔は3ヶ月程度でした。
(2)経口ステロイドとともに抗生剤を服用することが多いのですが、抗生剤を多用することによる副作用はないのでしょうか? 主治医は同じ種類の抗生剤が続かない様に種類を変えて処方してくれますが、こんなに飲んで耐性菌が増えて、抗生剤が将来効かなくなるのではと心配です。
(追伸)ピークフロー値(ミニライト型)は最近500程度でしたが、先生のWebでピークフローの測定方法を勉強し、マウスピースをきっちり加えて吹いたところ540に値が上昇しました。現在でもわずかに炎症があるようで朝方に咳と痰がすこし出ます。これがなくなるともう少し良い値がでるのではと思っております。ちなみに私の最高値は640でした。パンフレットによると私の標準値は470程度(年齢49、身長167)だそうです。
<追加応答3>
>>(1)経口ステロイドの2週間以内の短期投薬で副作用がないことはわかりましたが、その次の2週間の短期投薬はどのていどの間隔をあければ副作用やリバウンドがないのでしょうか? 長期投薬とならない短期投薬のおおよその期間を教えて下さい。ちなみに私はピークフローが470以下になるとプレドニンの短期投薬をしますが、その間隔は3ヶ月程度でした。
→非常に良い質問です。以前、喘息の研究会で同じ様な内容の質問をしていた先生がおりました。回答したのはステロイド専門の先生でしたが、その答えは「未だはっきりしたデーターがない。現在検討中である」とのことでした。従って、私にもはっきりした答えは出すことができません。
ただし、副作用については、血液検査をしながらであれば副作用が出ていないかどうかは判断できます。内因性コーチゾルの測定が一番いいのですが、結果が出るまで時間がかかるのが難点です。私はすぐ結果の出る白血球数の増加あるいは好酸球の低下をよく副作用の指標にしています。短期投与をときどき行っている方は、定期的にこれらをチェックしながら経過を観察して行けば、副腎皮質抑制が起こっているか判断できます。
2週間の短期投与を行って症状が良くなりそこで中止して、その後症状が悪化した場合、私はそのブランクの期間に関係なく躊躇せずステロイドを投与します。しかし、その後の減量には注意が必要です。検査を見ながら慎重に減量します。ですが、経験では1カ月もブランクがあればまた投与しても前回の影響はない(すなわちすぐ中止できる)ような印象を持っています。ただし、これが3回も4回も続けば話は別です。ですから3カ月なら申し分ないでしょう。
しかし、吸入ステロイドやピークフロー値を喘息管理に用いるようになってからは、私の患者さんでは、短期間に何度もステロイド大量投与をするような方はなくなりました。あなたもそうではありませんか?
>>(2)経口ステロイドとともに抗生剤を服用することが多いのですが、抗生剤を多用することによる副作用はないのでしょうか?
→これも高度に医学的な質問ですね。できれば次回、使用している抗生物質を教えて下さい。
少なくとも感染をかぶったときに短期的に経口抗生物質を投与している場合は、ほとんど耐性の問題は気にしなくていいと思います。耐性になったかどうかは、喀痰中の細菌を調べればわかります。
私は、慢性気管支炎の方で慢性的に細菌感染を起こし、増悪を繰り返している方を何人か診ていますが、このような場合、ある種の菌は耐性を獲得してきます。そのような場合は、喀痰検査をしながら抗生物質を変更します。
また、難治性肺炎患者では、2週間以上も同じ抗生物質の点滴を受けていると耐性菌がつくことはよくあります。しかし、このような場合の多くは、患者さん自体に問題があることが多く、体調や栄養不良で免疫力が低下している(compromized host)ことが多いです。健康な人間が、1、2週間抗生物質を経口したからと言って、そんなに簡単に耐性菌がつくことはありません。耐性菌の多くは弱毒菌で、健康人の免疫力なら撃退できるからです。
私のホームページで紹介していますが、エリスロマイシンの少量長期投与というのが我々の領域では盛んに用いられています。これは、年余にも渡り抗生物質であるエリスロマイシンを服用しているのです。多くの患者さんがこの療法で良くなっていますが、耐性菌が出たという報告はありません。
>>主治医は同じ種類の抗生剤が続かない様に種類を変えて処方してくれますが、こんなに飲んで耐性菌が増えて、抗生剤が将来効かなくなるのではと心配です。
→この点はあなたの場合は大丈夫だと思います。
しかし、これまでの歴史を見ますと、抗生物質(の使いすぎ)と細菌は“イタチの追いかけっこ状態”です。つまり、新薬→耐性菌→新薬→耐性菌…です。これは永遠に続くのでしょうが、できれば適度かつ公正な使い方が必要ですね。
>>(追伸)ピークフロー値(ミニライト型)は最近500程度でしたが、先生のWebでピークフローの測定方法を勉強し、マウスピースをきっちり加えて吹いたところ540に値が上昇しました。現在でもわずかに炎症があるようで朝方に咳と痰がすこし出ます。これがなくなるともう少し良い値が出るのではと思っております。ちなみに私の最高値は640でした。パンフレットによると私の標準値は470程度(年齢49、身長167)だそうです。
→640はすごいですね。私と同じくらいですね。如何に標準値が当てにならないかです。常にそれ以上を目指して頑張って下さい。540で満足してはいけないと思います。常に上を目指していれば発作など起こるはずがありません。一刻も早くその理想郷へ到達して下さい。
では。
<追加メール3−2>
私の質問にすぐに答えていただいてありがとうございました。前から疑問に思っていて、不安だったことが先生の解説で良く分かり安心しました。
プレドニンを1ヶ月もおかないで再服用するということは相当重症であるということですね。私はおおむね3ヶ月置きというところです。
私が10年前にPIEになってから、長期間にわたって服用していたプレドニンを2年前に止める事ができました。また、以前は抗生物質はたくさん飲んでおりましたので心配になり、前回のような質問をさせていただきました。
私の現在の主治医は、喘息と膠原病の専門治療を行っております。喘息専門の先生はこの近辺ではなかなかお目にかかることができないので、アレルギー友の会(私は会員です)の紹介で4年前からお世話になっております。この先生は自己管理ということを強調されており、私もプレドニン、抗生剤の実際の投薬量などは主治医と私のガイドラインの範囲で私が決めるように指示されております。このほうが喘息に対する対応が早くなり、症状を悪化させることが少ないように思います。この方法は私が主治医から離れたところの住んでいるということもあってうまくいっていると思っております。
>>因性コーチゾルの測定が一番いいのですが、結果が出るまで時間がかかるのが難点です。私はすぐ結果の出る白血球数の増加あるいは好酸球の低下をよく副作用の指標にしています。短期投与をときどき行っている方は、定期的にこれらをチェックしながら経過を観察して行けば、副腎皮質抑制が起こっているか判断できます。
→私の場合はプレドニンの内服で、好酸球が低下して症状が改善します。白血球の増加はプレドニンの免疫抑制による効果を見るものでしょうか?
>>かし、吸入ステロイドやピークフロー値を喘息管理に用いるようになってからは、私の患者さんでは、短期間に何度もステロイド大量投与をするような方はなくなりました。あなたもそうではありませんか?
→その通りです。
>>私のホームページで紹介していますが、エリスロマイシンの少量長期投与というのが我々の領域では盛んに用いられています。これは、何年にも渡り抗生物質であるエリスロマイシンを服用しているのです。多くの患者さんがこの療法で良くなっていますが、耐性菌が出たという報告はありません。
→クラリシッドを長期投与していたのでこれをきいて安心しました。
ありがとうございました。