(1)どういう状態になったら患者さんに吸入ステロイド療法を止めてみようと勧めていますか?

【095】31歳男性(会社員)の方から

※この方は、ホームページのリンクでご紹介している「桜井系樹族のホームページ」の方です。詳しくは、そちらをご参照下さい。

<質問>

はじめまして。

私の喘息紹介をさせていただきます。もしお暇でしたら相談にのってください。

[自己紹介]

 ・年齢:31

 ・性別:男
 ・職業:会社員
 ・身長:168 cm
 ・体重:60 kg
 ・小児喘息の有無:無
 ・初めて喘息と診断された時期:平成10年8月1日
 ・およその治療経過:今年4月頃から症状。8月21日からステロイド吸入開始。11月25日頃中止予定。
 ・喫煙の有無あるいは喫煙歴:30本/日を15年くらい。平成10年1月より禁煙
 ・ペットなどの特殊な環境の有無:無
 ・吸入ステロイド使用の有無:有
 ・使用しているスペーサーの種類:ボルマチックソフト
 ・ピークフローメーター記録の有無及びその機種:記録有、ミニライト

[質問]

(1)先生はどういう状態になったら患者さんに吸入ステロイド療法を止めてみようと勧めていますか? 判断基準を教えてください。

(2)最近私のピークフロー値は560-600で安定しています。来週11月25日ぐらいでベコタイドを中止する予定なのですが、本当に気道の炎症が取れているか試す意味で、運動で発作を誘発させるテストを自己流でやってみようと思います。というのは、この間10分間ぐらい寒い朝に全力で走ってしまいましたが、煙草を吸っていた頃(喘息になる前)より息切れしなくなったように思えました。でもメーターがあれば正確に判断できそうです。そこで質問ですが、何分ぐらい全力で走ったらよろしいのでしょうか? 走った後、一分おきにピークフロー値を取る方法でよろしいでしょうか。550以下の値がでるようなら正常ではないという事でよろしいのでしょうか。その前に聞いておかなければならない事がありました。こんなテストを自己流でやってもいいのでしょうか。

(3)最後に喘鳴についてうかがいます。ヒューヒューとかゼイゼイとか言いますがカタカナではよく分かりません。実際の音を聞いてみたいのですが、録音してファイルにしてHPに貼るなんて可能でしょうか?

お返事が質問だらけになってしまってごめんなさい。暇で暇でしょうがないという時に答えて頂くので結構です。私は幸せな喘息患者ですから。

ではまた、お便りします。

どうもありがとうございました。

<応答>

>>およその治療経過:今年4月頃から症状。8月21日からステロイド吸入開始。11月25日頃中止予定。

→確かに吸入ステロイドの導入が早くて的確だったのですね。このような例は本当に貴重だと思います。もっと症例を集めて学会などで発表できたらいいなと思います。

>>(1)先生は、どういう状態になったら患者さんに吸入ステロイド療法を止めてみようと勧めていますか? 判断基準を教えてください。

いっさいの症状がなく、健康人と何変わらぬ生活が送れ、かつピークフロー値が基準値を上回るくらい高く安定していることが前提です。ピークフローをつけていない方が、吸入ステロイドをやめたいと言ってきたときは、必ずその際にピークフローをつけることを勧めます。しかし、なかなかその状態に到達できる方は限られておりますので、私は良くなってもずっと吸い続けても構わないと考えています。従って、こちらから中止を勧めることはあまりありません。中止は基本的には患者さんの希望によります。

吸入ステロイドをやめてもピークフローを継続してくれるのは過去によほど痛い目にあったことがある方ばかりです。また、吸入ステロイドで良くなっても多くの方は何らかの症状を有しておりますので、吸入ステロイドを止めたいと言ってくる方は非常に少ないですね。特にピークフロー値をつけていない方は、吸入ステロイドだけでも継続してくれた方がこちらとしては安心です。

しかし、中にはあなたのように、ピークフローを継続するなど“その他の努力”をすることで吸入ステロイドを中止したいとお考えになるの方もおります。私はその考え方には大賛成で心から応援したいと考えています。現代医学では喘息治療の“完治”は望めない状況下にあります。症状はなくなっても“喘息の記憶”は消すことができないからです。私の考える喘息の“完治”とは、いっさいの治療なく普通の生活を送っても気管支炎症、ひいては発作が再燃しないことです。このような状況下では、吸入ステロイドを中止しても、ピークフローを継続する、風邪の予防に心がけ、無理をしない生活を習慣化する、など喘息を悪化させない“その他の努力”は継続しなければならないのだと思います。これこそ、現段階で私が考える喘息治療の究極の姿であると考えています。

安全と水はただ”と考えられてきた日本が、外国人の移入などで物騒になり、O-157やダイオキシンなどにみられる感染問題など、安全や水にも金(や気)を使わなければいけないというこの頃ですが、そのような状況に似ていますね。喘息になっても、医者にかかればいい、あるいは吸入ステロイドを吸ってればいい、すなわち保険行政の恩恵にどっぷり浸かってきた我々日本人の付けが今になって回ってきているように思います。金は使わなくても、普段から健康には十分気をつけていかなければならないことをあらためて教えてもらったような気がします。私は、学校教育でこそこういう健康教育をすべきだと思うのですが、相変わらず詰め込み優先の授業で残念です。

参考になるかわかりませんが、「知識」の「喘息のことがよくわかるミニツアー」の最後の方にこのことに触れています。

>>(2)最近私のピークフロー値は560-600で安定しています。来週11月25日ぐらいでベコタイドを中止する予定なのですが、本当に気道の炎症が取れているか試す意味で、運動で発作を誘発させるテストを自己流でやってみようと思います。というのは、この間10分間ぐらい寒い朝に全力で走ってしまいましたが、煙草を吸っていた頃(喘息になる前)より息切れしなくなったように思えました。でもメーターがあれば正確に判断できそうです。そこで質問ですが、何分ぐらい全力で走ったらよろしいのでしょうか? 走った後、一分おきにピークフロー値を取る方法でよろしいでしょうか。550以下の値がでるようなら正常ではないという事でよろしいのでしょうか。その前に聞いておかなければならない事がありました。こんなテストを自己流でやってもいいのでしょうか?

→自己流テストは是非やってみてください。これに似た話で、発作が頻発しているようなときに同じような試みをなされる方がおりますが、これはもっともいけません。あなたの場合症状がなくピークフローが安定していますので、積極的に試してみてください。

ピークフローが高く安定していても、本当に気管支に炎症があるかないかの判断は、気管支鏡検査で気管支粘膜を一部取ってきて顕微鏡で観察して見るしかないのだと思いますが、実際にそんなことは無理です。従って、今回のように運動能のテストで評価して見るのが最適かもしれませんね。何分走って評価したらいいかは難しい問題ですが、ぜひ対照として同じような体格で同じような運動能力の健康人と一緒に走ってみてはどうかと思います。そうでなくても、奥さんなどと一緒に走ってみるのもいいでしょう。健康人でも息が切れることはありますから、少なくとも同じくらいに走れれば気管支炎症はほぼ問題ないと判断して良いでしょう。健康人より走れたら最高ですね。しかし、健康人より明らかに早く息が切れたら、炎症はまだ不完全と考えた方がいいでしょう。ましてや、ぜいぜいやひゅーひゅーが起きたら気管支炎症はまだまだです。吸入ステロイドの中止は早いですね。

走るのも一つの評価としてはいいですが、少し長い階段や坂道を健康人と一緒に歩いて登ってみるのもいいかもしれません。平地を走るのは、意外に人間は酸素を消費しないものですが、たとえ歩いても重力に逆らって自分の体を持ち上げるのは結構酸素を消費するものです。

また、吸入ステロイドを止めてもピークフロー継続はもちろんですが、何カ月に一度かにこの運動能力テストとして同じ距離を走る、同じ階段を登ってみる、など気管支炎症悪化を判断してみるのもおもしろいですね。

私自身、非常に興味があります。ぜひ結果を教えてくださいね。

>>最後に喘鳴についてうかがいます。ヒューヒューとかゼイゼイとか言いますがカタカナではよく分かりません。実際の音を聞いてみたいのですが、録音してファイルにしてHPに貼るなんて可能でしょうか。

→これもいい考えですね。機会があったら録音してみようと思いますが、診察の際に苦しんでいる方の音を録音させてもらうというのは、人道的に気が引けますね。Zensoku Webをたちあげたとき聞こえるのは、AICHANの咳の音のようですが…。今度、ホームページで呼びかけてみましょうか? コンピュータに詳しい方が結構おりますので実現するかもしれません。

また、私が学生講義用に使用している喘息発作の時の聴診の音がありますので、そのうちホームページで公開してみようと思います。

たくさんの良いアイデアありがとうございました。


<追加メール1>

早速お返事いただきましてありがとうございます。お忙しい中、私どもの為に貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます。

運動能力のテストを実施してみたいと思います。その結果、またご相談する事になるかもしれませんが、その時はよろしくお願いいたします。

妻の伴走は無理だと思います。なにしろ出産予定がもうすぐなので。


(2)運動能力テストを実施してみました。

【095】31歳男性(会社員)の方から

<追加メール2>

喘鳴の件、ありがとうございました。聴診器の喘鳴をさっそく聞いてみましたが、実際患者が直接感じる音ではないですよね。やっぱりよくわかりません。

ところで、運動能力テストを実施してみました。結果を簡単に言うと、症状はなんともありません。が、ピークフローの値が落ちてしまいました。このデータをどう読んだらいいのか皆目見当がつきません。もう少し吸入を続けたほうがいいのかなぁと思っています。

もしよろしかったら、私のホームページに「運動能力テスト実施と題して内容を載せています。PF値もグラフにしました。暇な時で結構ですから、アドバイスくださるようお願いいたします。決して急ぎませんので、最低の優先度で結構です。お暇な時にお願いします。特に、私が知りたいのは、運動直後はなんともないのに、だんだん値が下がって30分後に最低になり、1時間で回復するという点です。どう理解したらいいのかわかりませんでした。

それではまた。(かなり疲れました。もうしないかもしれません)

<追加応答2>

さっそくテストされたのですね。奥様がご出産を控えているようですので、あまり時間的にも余裕がありませんしね。

それにしても1,500メートルとは恐れ入りました。この距離だと今の私では走り切れませんね。それが症状なしというのですから、お見事です。

ピークフロー値の低下ですが、原因は色々考えられます。まず、運動によって呼吸が早くなり、冷たい空気あるいは埃など諸々が何度も気管支を通過し、それが機械的な刺激になったこと。また、長く走ると血行も促進しますから、多少残っていた気管支炎症が悪化したこと。打撲などで皮膚が赤く腫れ上がっていると、入浴して身体が暖まると痛みがひどくなるのに似ていますね。さらに、運動による脱水で、痰が硬くなったり、気管支が刺激されたりした可能性もあるかも知れません。

結論的には、軽い運動誘発喘息ではないかと考えられます。ですから、やはり多少は気管支の炎症は残っていると考えておいたほうがよいような気がします。しかし、だから吸入ステロイドを吸わなくては駄目かというとまた話は別です。ピークフロー値を継続できるようでしたら、今後ピークフロー値が下がったときにだけ元に戻るまで一定期間吸入ステロイドを吸えばいいですし、ピークフローが面倒なら、おっしゃるとおり最低限の量を継続しては如何でしょうか? 両方やればより理想的ですが、最も大切なことは、ご自分が喘息であることを忘れないことだと思います。「吸入ステロイド吸わなくても良いよ」と言われてことは、「発作が起きない」と言う意味であって、「喘息が治った」と言う意味では決してないのですから。

吸入ステロイドの継続は何の問題もありません。私は、たとえ気管支に炎症が完全になくてもその増悪予防の意味で最低量を継続することは喘息である限り必要なことではないか、とすら考えています。毎日の“肌のお手入れ”みたいなものだと思っています。その理由は、副作用がないこと、気管支が最も広がっていれば必要最小限で最大の予防効果が期待できること、毎日毎日吸うことで喘息であることを自覚して健康に気を使うようになること(タアノシンさんの“喘息力”です)、などです。そのことを意識していさえすれば、ある程度日常生活で無理しても、決して痛い目に遭うことはありません。

ホームページの“喘息持ち”の話し読みました。世間には喘息に対する深い誤解があることにあらためて驚かされます。「喘息と診断されてひどいショックを受けました」というメールをよく頂くのですが、気持ちはよくわかるのですが、そういう方も恐らくはそれまでは喘息を誤解して(あるいは差別して)来たのではないでしょうか? 高血圧になった、心臓が悪いと言われた、どれも同じ事なのですが…。しかし、心臓病の方は、「あの人心臓が悪いんだって、可哀想に…」と陰で囁かれるのに、喘息だと「あの人喘息持ちなんですって、過保護で育ったんじゃないの…」。叩かれる陰口まで差別されてますよね。

吸入をしていない、ピークフローも付けてない、そうすることで喘息であることを忘れるより、吸入ステロイドにしてもピークフローにしても、何でも良いから何かを継続することで、喘息であることを忘れないでいることの方がどれほど大切なことかしれません。発作のない喘息持ちです、とはっきり言える世の中にしたいですね。

長くなりました。この辺で、失礼します。


<追加メール3>

諏訪部大明神さま。

さっそく運動テストの診断をしてくださってありがとうございます。

それから、具だくさんのメール、どうもありがとうございます。お手紙を見て、吸入ステロイドを続けるか止めるか迷ってます。が、一晩考えようと思います。

先生からのメールの一部を私のホームページに引用させていただきました。他の患者さんにとても有益な情報だと思ったからです。無断で申し訳ありません。不都合でしたらおっしゃってください。

またお便りします。それでは

<追加応答3>

>>諏訪部大明神さま。

→うーーん。あまり御利益がないかもしれませんね(笑)。でも全国に諏訪神社と言うのが結構ありますよね。そちらは御利益があるかも知れませんが、ちなみに私の家系はまったく関係ありません。

>>お手紙を見て、吸入ステロイドを続けるか止めるか迷ってます。が、一晩考えようと思います。

→大分お迷いのようですね。でも吸入ステロイド継続はすぐに判断すべき問題ではないと思いますよ。このまま継続するにしても、中止するにしても、暫定処置として、もう少し様子を見ても良いのではないかと思います。

では。

それではまた。