(1)またフルートが吹けるようになりたいのです。

【121】33歳女性(主婦)の方より

<質問>

(平成11年3月4日)

寄稿集を請求して以来、2度目のメールです。ひさしぶりにHPをのぞくと、膨大な情報量で圧倒されてしまいました。それにしても、先生の温かいメッセージを読むたびに、私も励まされているような気がして、調子が悪くても気分が落ち込まなくなるから不思議です。(明るい見通しができるからでしょうか)いつも有り難うございます。前回のメールでは、病状について何もふれませんでしたが、今日は質問があるので1年前からの経過を書きます。少し長くなるのをお許し下さい。

33才、主婦、身長165 cm
ピークフロー値の自己ベスト、460(ミニライト使用)

【昨年5月頃から8月まで】

ベコタイド 800マイクロ
テオドール 400ミリグラム
メプチンエアー 1日1〜2回
ピークフロー値 370〜400

月に1度は風邪をひき悪化するので、短期間プレドニンの点滴や内服でコントロールしていました。(以前はプレドニンを飲むのが嫌で、結果的に治療が遅れ長期入院せざるを得なくなる愚行を繰り返していましたが、このHPで誤りに気づきました)症状は主に、激しい咳と呼吸困難です。喘鳴はありません。(これが辛いところなんですよね。当直の先生だとわかってもらえなくて。こっちは息が出せなくて話もできない状態なのに「酸素もいいよ、風邪なんじゃない?」なんて言われると悔しくて…酸素99%なら苦しがったらいけないの〜!)

8月まではこれで何とか暮らしていましたが、子供の病気や通院などで生活が一気にハードになり、いつも胸の辺りが重苦しく、喉もむずむずして、身体が思うように動かせなくなりました。

【8月から12月】

ベコタイド 1000〜1200マイクロ
テオドール 400ミリグラム
メプチンエアー 1日平均3〜4回、それ以上(7〜8回)の時もしばしば…
プレドニン ひと月に10日〜2週間は内服、1日量10〜20ミリから減量するので、結局半月近く飲んでいることに…
ピークフロー値 310〜420

安静が一番大切とわかっていますが、そういうわけにもいかず無理を重ねていました。そんな折り年末に、髄膜炎にかかってしまい、念願の!?静養をとることが出来ましたが、その時医者から「髄膜炎になったのは、プレドニンが関係しているかも?」と言われました。

退院後、環境の良い郊外に転居しましたが、1月になってから、子供の病気のために毎日出かけないといけなくなり、まるでパートで働いているような生活になりました。(この生活はあと1年ほど続きそうです)忙しい朝の外出前にベコタイドを6回も吸うのはとても面倒だし、吸い方もいい加減になり、薬の効果も落ちているように思いました。そこで通院は面倒でしたが、フルタイドに切り替えることにしました。

【1月から】

フルタイド 600マイクロ
テオドール 400ミリグラム
メプチンエアー 0〜1回
ピークフロー値 400〜450

吸い始めて3日目くらいから、喉のイガイガした感じが無くなり、胸も軽くなりました。息をするのになんの抵抗もなく、自然に呼吸できるのがこんなに心地良いものだったとは! ピークフロー値も400を切ることが無くなりました。しかし、2月に入ってから子供が2人ともインフルエンザで入院したりして、私の体調も最悪になり、また薬を増量しなくてはいけなくなりました。

【2月】

フルタイド 1000マイクロ2月9日より)
テオドール 400ミリグラム
プレドニン 20ミリグラム(2月16日より)
ピークフロー値 300〜350

【現在】(2月25日)

プレドニンは減量していって、昨日から飲んでいません。ピークフローは420前後に回復しました。これからフルタイドを減らそうと思うのですが、どのようにすればいいでしょうか?

そこで質問なのですが、長くなって申し訳ありません。

(1)私のプレドニンの使い方は間違っていないでしょうか? また他の薬の量はどうでしょうか?

自分で調節して内服するようになってから、入院せずに済むようになりましたが、使いすぎているようで不安です。だいたいは1週間程度で止めていますが、悪いときは点滴40ミリと内服20ミリから始めるので、スパッと切るわけにもいかず、だらだらと飲んでしまいます。そんなときは必ず受診時に相談しますが、最後には体調やピークフロー値と相談しながら適当に減らしていってます。安静が保てないので、急に止めるのが怖いのです。こんな飲み方をしていても大丈夫でしょうか? やっと止められたと思ったら、また風邪をひき、ふりだしに戻る悪循環にはまっているような気がします。

(2)私の喘息はどの程度のものなのでしょうか?

漠然とした質問で申し訳ないです。現在の主治医のところに通い始めた頃は、たまにゼーゼーいうのでメプチンを吸うのと、夜だけテオドールを100ミリ飲む程度でした。日常生活に支障を来すこともありませんでした。あれから5年、妊娠のたびに症状が重くなり、子供が4才と1才になった今では日々のオーバーワークのせいか、気がつくとこんなにも薬が必要な身体になっていました。でも、普段の発作の状態などは、それほど重くないような気もするし…。主治医には「僕の外来の中であなたが一番たくさん吸入ステロイドを吸ってるよ」なんて苦笑されながら処方箋を書いてもらっています。

(3)今後どのように治療していけばよいのでしょうか?

今の生活を続ける限り、状態を良くするのは難しいのでしょうか。主治医は「無理をせず、出来るだけ休養をとり、今はこれ以上悪くならないようにコントロールしていこう」と言います。周囲の協力も得ていますが、子供のことについては他にかわりを頼むわけにいきません。その辺りの事情は主治医の先生も理解してくれています。しかし、何とかしてこの悪循環(風邪〜悪化〜薬の増量〜風邪…)を断ち切りたいのです。無謀ですが、入院や自宅安静をせずにすむ、何かいい方法はないでしょうか。これって虫が良すぎますか?

(4)私のピークフロー値はどの程度まであがると思われますか?

メーターに付いていた資料をなくしました。基準値はどれくらいですか?(33才、165 cm)余談ですが、私は中学生の時から大学卒業まで、毎日フルートを吹いていました。肺活量は忘れましたが、今からは考えられないほど丈夫でした。でも大学の時、よく咳がでて年中風邪をひいているような感じがあったのは、喘息がでていたんでしょうね。小児喘息を経験しているのに、若さに任せて無茶をしていたものです。レッスンや演奏会の前には市販の咳止め液でごまかし、卒業と同時に楽器から離れたら咳もでなくなりました。あの頃のようにとは言いませんが、またフルートが吹けるようになりたいのです。今は子供の持ってきた風船を膨らませてやることすらできません。

お忙しいところ申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。以上、長々と失礼いたしました。

<応答>

>>症状は主に、激しい咳と呼吸困難です。喘鳴はありません。(これが辛いところなんですよね。当直の先生だとわかってもらえなくて。こっちは息が出せなくて話もできない状態なのに「酸素もいいよ、風邪なんじゃない?」なんて言われると悔しくて…酸素99%なら苦しがったらいけないの〜!)

→おっしゃるとおりです。どうして医師の間にこういう誤解があるのでしょうかね。喘息は気管支の病気なので、いくら苦しくても酸素は下がらないことがあるのです。逆に発作の時いくら酸素を投与しても息苦しいのは取れないことからもわかります。教鞭を執る立場として、この辺はもっと学生のうちから教えて行かなければなりませんね。

もう一つは、過換気症候群の合併の場合ですね。息苦しくてもこの場合は酸素は下がるどころか正常以上になります。この場合は、動脈血液ガス分析を行わなくてはなりません。

>>8月まではこれで何とか暮らしていましたが、子供の病気や通院などで生活が一気にハードになり、いつも胸の辺りが重苦しく、喉もむずむずして、身体が思うように動かせなくなりました。

→お子さんの世話などで安静が保持できないのですね。

>>忙しい朝の外出前にベコタイドを6回も吸うのはとても面倒だし、吸い方もいい加減になり、薬の効果も落ちているように思いました。そこで通院は面倒でしたが、フルタイドに切り替えることにしました。

→これがベコタイドの欠点ですね。しかしフルタイドならどうにかなるかもしれませんね。

>>プレドニンは減量していって、昨日から飲んでいません。ピークフローは420前後に回復しました。これからフルタイドを減らそうと思うのですが、どのようにすればいいでしょうか。

→フルタイド1日1,000マイクロとは、何とも羨ましい限りです。私もこのくらいあるいはこれ以上を使いたいと考える患者さんはたくさんいますが、なかなか処方制限のため実現しません。

減量ですが、後の質問とも関連しますが、ここが難しいところです。私はフルタイド増量でプレドニンが減量できたことは良いことだとは思いますが、フルタイドは減量を急がない方が宜しいかと思います。(欲を言えばプレドニンも1錠くらいにしてもう少し維持した方がベターだと思います。このくらいなら長期間使用してもまず副作用は心配ないですし、何よりある程度はステロイド依存になっていることは自覚しなければなりませんから、フルタイドでもう少し安定してからゆっくり減らしても良いと思います)

フルタイドですが、1,000マイクロはもう少し継続するのは通院の関係でもう限界ですか? あるいは担当医からプレドニンが切れたらすぐ600に戻すような指示ですか? であれば減量するしかないと思うのですが、私は可能なら安定状態がもう2、3週間維持できるまで続けるべきだと思います。それは、現在がかなりお忙しいようで、経過からしてまた苦しくなってしまう可能性が大だからです。そうなると結果的にまたプレドニン増量のお世話にならなければならないような気がします。PF値の400以上を安定と考えず、もう少し上を目指してみて下さい。身長が165 cmでしかも吹奏楽をやられていたということですから、600に近い500台が出てもおかしくないと思います。今は強い呼吸筋力で細い気管支から息を吐き出して400前後の値を出しているだけでしょうから、気管支の炎症はまだまだ不完全で、逆にもっともっと良くなる可能性があります。

>>(1)私のプレドニンの使い方は間違っていないでしょうか? また他の薬の量はどうでしょうか?

→すでに一部回答しましたが、プレドニンが必要なときはやはり必要なのですから、副作用を恐れて急いで減量してしまうことが、結果的に中途半端な長期に渡る使用になる原因だと思います。幸い現在はフルタイドがありますので、二の舞にはならないとは思いますが、それでもフルタイドはあくまで吸入剤ですから、気管支が細くPF値が低いうちは効果が余り期待できないことがあります。そんなときは十分な量のプレドニンの世話にならなければなりません。

PF値が高く安定すれば、フルタイドだけで維持できるようになりますから、プレドニンの世話にならなくてすむようになるでしょう。しかし、忙しい時期が今後もしばらく続くようなら、最低限のプレドニンや高用量のフルタイドの世話になって、最悪でもこれ以上悪くならない(“守りの治療”)よう維持しなくてはなりません。その時期が過ぎれば、安静を交えながら減量を実現できるでしょう。

>>(2)私の喘息はどの程度のものなのでしょうか?

→一般的な分類では、経口ステロイドが必要ですから、重症に分類されるでしょう。私は、ベコタイドにしてもフルタイドにしても吸入ステロイドの量が多いことはあまり気にしません。経口ステロイドの方が副作用はずっと強く、それに比べれば吸入ステロイドの副作用はあっても微々たるものだからです。ただ、一般的にそれほど吸入ステロイドを吸っている方は、その他の薬剤、特に経口ステロイドなどに依存していることが多いのが現状です。そこが問題なのだと思います。しかし、いずれフルタイドのみで良い状態を続けることができればプレドニンは減らせますから、重症から中等症、軽症へステップダウンすることは十分考えられます。

>>(3)今後どのように治療していけばよいのでしょうか?

→喘息の管理は疲労の管理と言われます。もし、忙しい生活を送りながら、すぱっと喘息が良くなってしまう薬や方法があれば、もうとっくに広まっているでしょう。私も出し惜しみをしているわけではありません。将来は分かりませんが、少なくとも今の医学レベルでは、そのような方法は存在していません。このようなとき、一般的に陥る罠はいわゆる民間療法に走ってしまうことです。(気持ちは分かりますが、売る側のヒトの弱みにつけ込む根性が許せない…)

良くなれば多少は無理が利きます。しかし、無理を重ねていては良くなるものも良くなりません。

確かにお忙しいと言うことですが、お子さんの通院はあと1年くらいでメドが立つと言うことですか? もしこれが本当なら、今は徹底した“守りの治療”を心がけ、とにかく悪化させないことを最重要課題とすることです。

また、もう一つ明るい材料は、フルタイドも十分使えるようでしたら、プレドニンも含めて、これまでのような早すぎたステロイドの離脱法を改めて、使うべき時に十分使って行けば、少なくともこれまでよりは良いコントロールが得られる余地はあります。まだまだ希望は捨てないで下さい。

>>(4)私のピークフロー値はどの程度まであがると思われますか?

→これは、先に述べたとおりです。喘息の方の肺活力は底知れないものです。ましてや吹奏楽をやった経験があれば、500以上は最低は吹けるようになります。あなたの場合は600に近い値が出てもおかしくありません。ですから、400を越えて調子が良いからとすぐプレドニンなどを減量してしまうことが、これまでの誤判断の原因なのだと思います。

では、こんなところで失礼いたします。

お大事に。


(2)プレドニン服用中の抗生物質は必要ですか?

【121】33歳女性、主婦の方より

<追加メール1>

諏訪部先生。

先日はお返事有り難うございました。早くお礼をと思いつつ…少し調子が悪くてぐずぐずしていました。プレドニンを止めて2〜3日は良かったのですが…。先生の予想どうりですね。

お返事を頂いた次の日が受診日だったので、プレドニンの内服について相談しようと思ったのですが、先生はノートを見て「もうプレドニンはいらないよね」とおっしゃるので切り出すことが出来ませんでした。フルタイドについては、「すごい量だよ〜」とため息をつかれながらも、そのままの量を続けることになりました。

余談ですが、この前先生がいきなりカルテの初診日を見ながら「もう5年もたつんだねえ…」と、ふ〜っとため息をつくので気味が悪かったのです。「それがどうした!?」とつっこみをいれたかったのですが、先生も疲れてるんだなと思いほっといて帰りました。後日、毎日ライフ4月号「アレルギー疾患を治す」を読んでいると『悪いまま罹患年数が5年を越えてくると、気道の状態が悪くなり〜気道のリモデリングが完成し〜云々』というところを見つけ、「げっ!! これのことだったのか〜!」と内心焦っています。

プレドニンの内服について自分なりに検討しました。確かにプレドニンが入ると身体がすごく楽です。飲まないで、苦しいのを我慢しながら家でゴロゴロせざるを得ない状態よりは、飲みながらでも、余力を持って控えめでも普通の生活を送るほうがずっといいですよね。

でもプレドニンを飲むと楽になるのでついつい動き回ってしまいそうで恐いのです。自分でセーブするしかないのはよくわかっていますが、自宅にいる限り(入院でもしない限り)仕事は山のようにあるし、根が貧乏性なせいか、じっとしていられないのです。一見健康そうなので、さぼっていると思われるのも嫌でつい我慢したり…。これでは良くなるどころか、かえって悪くなってしまいますよね。

だからといって、あと1年、今のように綱渡り的なその日暮らしが続けられる自信も正直言ってありません。この事はもう少し考えてみます。あと1年というのは不確かで、もっと忙しくなることもあります。

今回このような状態でプレドニンを飲む場合、抗生剤はどうしたらいいでしょうか。いつもは必ず一緒に飲んでいます。ここ2年間はケフラールから始まって、バナン、クラビット、フロモックスときています。お暇なときにでも教えて頂けると幸いです。

それではまた。

<追加応答1>

その後調子が今一のようですね。どうかご無理なさらないで下さい。

>>毎日ライフ4月号「アレルギー疾患を治す」を読んでいると『悪いまま罹患年数が5年を越えてくると、気道の状態が悪くなり〜気道のリモデリングが完成し〜云々』というところを見つけ、「げっ!! これのことだったのか〜!」と内心焦っています。

5年経過したからリモデリングになるわけではありません。私はもっと長い経過でもっとステロイドを使ってきた方でもすごく良くなった方をたくさん経験しています。また、これまで高用量のベクロメタゾンや内服ステロイドでも良くならず、ステロイド抵抗性のレッテルを貼られたような方でも、フルタイドでぐーんと良くなった方もおります。ですから、この点はどうか諦めることなく頑張って欲しいと思います。

>>今回このような状態でプレドニンを飲む場合、抗生剤はどうしたらいいでしょうか。いつもは必ず一緒に飲んでいます。ここ2年間はケフラールから始まって、バナン、クラビット、フロモックスときています。お暇なときにでも教えて頂けると幸いです。

→これはプレドニンによる免疫力低下から来る感染予防という意味ですか? もしそれだけの意味なら私は不用だと思います。(もちろん服用しても構いませんが…)喘息患者さんがステロイドを飲んでその後風邪を引いた、それは免疫力が低下したためなのだと判断する医師がいますが、私は少なくとも短期間の服用に限りこれはあてはまらないと思います。免疫力が低下したから風邪を引くのではなく、大部分は喘息の気管支炎症が不完全に残っているから風邪を引くのだと思います。これまで、もしプレドニンを服用中あるいは中止後に風邪を引かれたとしたら、そのような理由によるのだと思います。抗生剤を用心に服用することは構いませんが、とにかく気管支の炎症を出来るだけ除去することが先決です。

ただし、原因はどうあれプレドニンを服用中に風邪を引いて悪化させることはプレドニンの効果を半減させますので、予防するに越したことはありません。私個人的には、ニューキノロン剤(シプロキサンやクラビット)をよく使います。肺への移行が良く耐性菌が出来にくいからです。バナンもニューキノロンですね。

では。