Q:妊娠初期の妻が喘息で先行き不安です。(平成11年3月17日)
【122】25歳妊娠初期の奥様を持つ男性の方より
<質問>
はじめまして。喘息の妻を持つ者です。
いつも先生のホームページ(以下HPと略させて頂きます)を拝見させて頂いております。「質問と応答」のコーナーでは、妻と同様の悩みを持つ方々の質問や不安に対し丁寧で親切な助言に大変感心しております。先生ならば私どもが持つ質問に対して的確なアドバイスを頂けると思い、今回メールを差し上げた次第です。
まず、妻の背景を以下に記述いたします。
(1)年齢:25才、性別:女、職業:保母、身長:163cm
(2)小児喘息の有無:有り
(3)初めて喘息と診断された時期:わかりません(妻に黙ってメールした為です)
(4)およその治療経過:わかりません
(5)喫煙に関して:喫煙経験はありません。
(6)環境に関して:ペットはいません。
(7)吸入ステロイドに関して:ベコタイドを1日1パフ。
(8)使用しているスペーサー:ボルマテック。
(9)ピークフローメータに関して:所持していますが使用していません。
以上です。
さて本題ですが、実は1週間ほど前に妻が妊娠していると診断されました。夫婦共々子供好きであり、大変喜びました。しかし、2〜3日ほどすると妻が「どの程度なら息苦しいのを我慢しても良いのか?」、「薬の使用で奇形児が産まれるのでは?」などの悩みを口にし始め、精神的にもまいって来始めたようです。私も本やインターネットなど(先生のHPも参考にさせて頂いております)で情報を入手し、薬の使用による副作用より、酸素の欠乏が胎児に与える影響のほうが心配であることを知りました。この件を妻に伝えましたが、一般的な話より個人的な情報を加味してアドバイスをもらわないと安心できないようです。
そこで先日行き付けの病院の呼吸器専門の先生に診てもらったのですが、最初に「薬は使用しないように」と言われ、その後さらに質問する妻の前で医学書を持ち出し、その内容を読み上げ、最後には「少量なら大丈夫でしょう」などと朝令暮改的な受け答えをされました。あまりにもいいかげんな診断をされたので病院を変えようかとも考えましたが、産婦人科もその病院であり、こちらの方は親切に診察して頂いているので踏み切れません。妊娠と喘息の関係については先生のHPで書かれていますが、妻の薬の使用方法でどの程度胎児に影響が考えられるか、それとも現状では問題ないのか、についてお教えください。
妻の薬の使用状況は以下に記述します。
(1)ベコタイドを1日1パフ(調子が良いと忘れがちです)
(2)息苦しい際にサルタノールを1回1パフ
(3)サルタノールを処方される前はベロテックを同様の頻度で使用
(4)発作は息苦しいと感じる程度(サルタノール1パフで治まります)
(5)発作の頻度は時期により毎日ある月もあれば、2〜3ヶ月ほど現れないこともあります。現在はサルタノールを1日1〜2パフ使用しています。
先生のHPに質問をされる方々と比較して、薬の使用量や発作の頻度は低い方だとは思いますが、初めての妊娠であり大変心配しております。先日切迫流産で入院した妻を見舞ったところ「奇形児だったらかわいそうだから中絶した方が良い?」と質問され、何も言ってやれなかった自分が大変無力だと感じました。私は例え産まれてくる子供に障害があっても、自分の子供を中絶するようなことには首を縦に振れません。しかし妻の抱える不安もわからなくはないのです。このような質問にきっぱりと返答を返すのは無理だと承知していますが、先生にお聞きするのが一番良いのではないかと考え今回メールを差し上げました。
どうか宜しくお願い致します。
<応答>
初めまして。
メール拝見しました。
奥様がご懐妊とのこと、まずはおめでとうございます。
元気な赤ちゃんが産まれると良いですね。
>>(1)年齢:25才、性別:女、職業:保母、身長:163cm
→偶然ですが、先日、同じ年の保母さんが喘息で出張先の病院へ入院し、その後外来で私が診ております。ただし独身ですが…。保母さんという職業も大変ですね。小さいお子さんを抱っこしたり、あるいは子供と一緒にかけっこしたり…。
>>(7)吸入ステロイドに関して:ベコタイドを1日1パフ
>>(8)使用しているスペーサー:ボルマテック
→量的には最低限の量ですね。内服薬は飲んでいないのですね?
>>(9)ピークフローメータに関して:所持していますが使用していません。
→これは実にもったいないですね。ぜひ測定して、値をお知らせ下さい。出来れば機種も合わせて教えて下さい。
>>実は1週間ほど前に妻が妊娠していると診断されました。
→予定の生理が遅れてどのくらいで病院を受診したかにもよりますが、現在は、妊娠2〜3カ月くらいで最も重要な時期ですね。つまり身体の重要な器官の原型が形作られる時期ですから、奇形が出来るとすれば今の時期です。
>>薬の使用による副作用より、酸素の欠乏が胎児に与える影響のほうが心配であることを知りました。この件を妻に伝えましたが、一般的な話より個人的な情報を加味してアドバイスをもらわないと安心できないようです。
→お気持ちはよくわかります。いくら本で書いてあっても自分の場合はどうなのか? 当然の疑問です。これが臨床の最も難しい点です。私が、出来るだけ多くの方々の質問を紹介しているのはこうした理由からです。なるべく多くの例を挙げて、自分に近い方からの質問内容を参考にしていただこうと考えています。
>>妊娠と喘息の関係については先生のHPで書かれていますが、妻の薬の使用方法でどの程度胎児に影響が考えられるか、それとも現状では問題ないのか、についてお教えください。
→まず、内服薬はないかどうかが重要です。気管支拡張剤であるテオドールやメプチンなどの古くからある薬剤は、その安全性は確かめられております(ただしゼロではありません)ので、急に中止したりせず、主治医とよく相談して中止・増減を決めて下さい。
問題は、最近発売された新しい薬剤です。特に、オノンやブロニカなどの抗喘息薬です。これらは、臨床での経験が浅く、どの程度奇形に影響するかの臨床データはまだありません。ですから、この薬剤を服用している場合は、主治医と相談の上、なるべく中止の方向で行った方が良いと思います。
もし、治療がベコタイドとサルタノール頓用だけだとしますと、基本的にこのまま継続すべきだと思います。妊娠期間中は内服より吸入手体の治療で行くべきです。最近出たフルタイドも安全と考えられますが、欧米でもまだ5、6年くらいの臨床実績しかなく、奇形との因果関係は確立されていません。従って20年以上の実績を持つベコタイドの方がより安全です。
このままの治療でも良いとは思いますが、一つ気になるのは、サルタノールの使用回数です。日によって使用回数がバラバラです。これは、疲労の程度、季節や天候の変化などで影響を受けているということだと思いますので、程度は軽いものの気管支に炎症が残っている可能性を意味します。今は、サルタノールが必要なくても今後の妊娠の経過によってはどう変化するかしれません。おそらく、産休までは仕事を続けるのでしょうから、不安の種は尽きないでしょう。
ならば、ベコタイドを増量することで、たとえ軽度でも炎症を完全にとってしまうという考えもありますが、この時期、さほど発作回数も多くはないのに、増量は恐らくためらわれることと思います。ただし、少しでも発作回数やサルタノール使用回数が増えたりすれば、増量は躊躇してはいけません。
そこでやはり必要なのがピークフローメーターです。手元にあるならこれを使わない手はありません。ぜひ今後安全な妊娠を望むなら毎日朝・夕2回づつで結構ですから記録して行くべきです。場合によっては、良い値が維持できればベコタイドも中止して様子を見ることも可能でしょう(ただし、これは1日1回の最低限の吸入で、しかもときどき忘れても発作がおきないという奥様の状態を考えてのことです。ベコタイドをもっと吸っている方にはあてはまりません)。
ピークフロー値の推移を見ながら、自覚症状に頼らないコントロールが可能になれば、少なくとも薬剤の影響を気にしながらの妊娠とはおさらばできるはずです。
もし、ピークフロー値の値その変動などわかりましたら、もう少し踏み込んだアドバイスが出来るかもしれません。
では、こんなところで失礼いたします。
<追加メール>
こんばんは。
早速のお返事ありがとうございます。お返事の内容を入院している妻に伝えたところ、ほんの1日で回答が得られたことにびっくしながらも大変喜んでおりました。
>>量的には最低限の量ですね。内服薬は飲んでいないのですね?
→内服薬は現在まったく服用しておりません。
>>これは実にもったいないですね。ぜひ測定して、値をお知らせ下さい。出来れば機種も合わせて教えて下さい。
→はい。妻が退院し次第、毎日朝・夕2回ずつの測定を行い、1週間ほどの値が取得できたらまた連絡致します。なお、機種についてですが、どの記述が機種を示しているのかわかりませんので、箱に書いてある詳細を以下に記述致します。
(1)販売名:Assessピークフローメーター
(2)承認番号:1B輸-0172
(3)製造番号:492883
(4)輸入元:チェスト株式会社
(5)所在地:東京都文京区本郷3-6-10
以上です。
>>このままの治療でも良いとは思いますが、一つ気になるのは、サルタノールの使用回数です。日によって使用回数がバラバラです。これは、疲労の程度、季節や天候の変化などで影響を受けているということだと思いますので、程度は軽いものの気管支に炎症が残っている可能性を意味します。今は、サルタノールが必要なくても今後の妊娠の経過によってはどう変化するかしれません。おそらく、産休までは仕事を続けるのでしょうから、不安の種は尽きないでしょう。
→はい。今心配しているのは、毎年梅雨の時期になると息苦しさを感じることです。これから春が終わり梅雨の時期を迎える訳ですが、おそらくその時期になると毎日息苦しさを訴え、多いときで1日5〜6回のサルタノール吸入が必要となると予測されます。その時期で妊娠約5ヶ月となっていると思います。
>>ならば、ベコタイドを増量することで、たとえ軽度でも炎症を完全にとってしまうという考えもありますが、この時期、さほど発作回数も多くはないのに、増量は恐らくためらわれることと思います。ただし、少しでも発作回数やサルタノール使用回数が増えたりすれば、増量は躊躇してはいけません。
→わかりました。ベコタイドについてですが、即効性の無いステロイド薬ということでついつい吸入を忘れがちです。これからは強制的にでも毎日行わせるようにします。
>>もし、ピークフロー値の値その変動などわかりましたら、もう少し踏み込んだアドバイスが出来るかもしれません。
→わかりました。変動などが見て取れるのに、おそらく1週間ほどが必要だと思います。上述致しましたが、妻が退院しましたら記録を開始したいと思います。その際ピークフロー変動値も併せて送付致しますのでご助言頂ければ幸いです。
最後に、今日妻を見舞いまして先生より頂いた返事について報告したところ、「これまでの治療経過も先生にお伝えして欲しい」と言われましたので、以下にその内容を記述致します。
・小学2年で喘息と診断される(○○県立中央病院にて)
・小学4年で△△に引っ越し(この頃まで週1回ほど体質改善注射を行う)
・中学生時通院を止める(自宅以外で宿泊すると発作が発生、たまに夜中に点滴・吸入を行う)
・高校生時自宅以外で宿泊する際は事前に内服薬を飲むことで発作を抑えた
・短大時、内服薬を止め吸入薬(ベロテック)のみにて発作時に対応
・ベロテックの副作用が話題になった時期よりサルタノールとベコタイドの併用を開始。現在に至る。
以上です。
前回のメールにも示しましたが、現在は発作発生時にサルタノールを1パフ、またベコタイドを1日1パフ(100?(単位がわかりません))吸入しております。
では、ピークフロー変動値がわかり次第また連絡致します。寒暖の激しい毎日ですが、お体に気を付けてお過ごしください。
これからも宜しくお願い致します。