(1)エリスロマイシンの長期投与では耐性菌が問題になりませんか?

【153】38歳のご主人が喘息の奥様から

<質問>

(平成12年5月28日)

諏訪部先生、こんにちは。

私の主人は小児喘息以来喘息で治療をしています。今年の4月から海外生活になりました。

日本滞在中に担当医から処方していただいたメドロールとエリスロマイシンがあったのですが、内服をためらっていました。しかし、こちらでも同じ薬が処方して頂けそうなので、エリスロマイシンの内服を開始しました。服用を迷っていましたのは、日本にいたときにNHKの番組で抗生物質に関するものを見てしまったからでした。たしかBBCかCNNの制作した番組だったと記憶しているのですが、『クライシス2000』とかいう連続もの番組で、その回のタイトルは忘れてしまったのですが、広域に作用する抗生物質の乱用が人類を逆襲するというような内容でした。MRSAなどの耐性菌などについても詳しく報じられていました。ずっと気になっていたのですが、夫の場合は必要があると思いますし、決して乱用にはあたらないと思うのですが、長期使用にためらいを感じてしまったのは確かです。

できれば、メドロールを内服して自宅入院に再度トライしたいのですが、休みがそれほど長期にとれそうにないのです。先日からかなり痰が絡んでいる様子の咳をしていたので、夫と話し合ってエリスロマイシンの内服を始めました。昨夜はほとんど咳もしていませんでした。エリスロマイシンの内服にはそれほど神経質になることはないのでしょうか? 夫の場合はそれほどひどい自覚症状がないために、余計に本人もこのままでいいのではないかと感じているようです。

できれば、エリスロマイシンの長期内服にどれくらいのリスクがあるのかご教示いただけるとありがたいのですが。海外のように医療の情報が患者自身に開示されることはとても大切なことだと思っています。しかし患者の側にも自己責任の意識がしっかりないと、前に進んでいかないとも感じています。夫のようにかなりPF値が低く、安定しているとは言い切れない状態で、エリスロマイシンの内服によってどれくらい効果が期待できるのか、そしてどれくらいリスクがあるのかということをしっかり知っておきたいと思うのです。

その番組から感じたことは、欧米ではかなり抗生物質の内服に慎重になっているということでした。やはりリスクもそれなりにあるのかもというふうに感じました。それと共に、やはり思った以上にマスコミの影響力は大きいということでした。

それでは。

<応答>

こんにちは。

>>広域に作用する抗生物質の乱用が人類を逆襲するというような内容でした。MRSAなどの耐性菌などについても詳しく報じられていました。ずっと気になっていたのですが、夫の場合は必要があると思いますし、決して乱用にはあたらないと思うのですが、長期使用にためらいを感じてしまったのは確かです。

ご心配は最もです。

我々も10年以上前にこの抗生物質が痰を減らす作用があることが報告されたときは、同じ疑問を持ちました。しかし、もう10年以上も使用している方がたくさんおりますが、耐性菌の問題はまったくありません。

理由は、

(1)この抗生物質は広域作用はないこと、
(2)使用量が1日600マイクロでも抗生物質として作用する量の半分であること(つまり抗生物質としての作用が期待できないこと)、

です。

実際に長期に投与しても気管支に存在する細菌叢には変化を与えないことが報告されています。ですから、この薬は抗生物質としてでなく、“気管支粘膜修復剤”や“減痰剤”として位置づけると宜しいと思います。

>>できれば、メドロールを内服して自宅入院に再度トライしたいのですが、休みがそれほど長期にとれそうにないのです。先日からかなり痰が絡んでいる様子の咳をしていたので、夫と話し合ってエリスロマイシンの内服を始めました。昨夜はほとんど咳もしていませんでした。エリスロマイシンの内服にはそれほど神経質になることはないのでしょうか? 夫の場合はそれほどひどい自覚症状がないために、余計に本人もこのままでいいのではないかと感じているようです。

私も多くの患者さんに使用してきましたし、この薬によってどれほど助けられたか知れません。呼吸器分野では、吸入ステロイドと並ぶ、“魔法の薬”と考えらます。

ですから、私は安全性については保証します。しかし、服用するかどうかはやはりご本人が決めることです。薬理学的には納得できても受け入れられないことはありますから、無理して服用しなくても構わないと思います。

メドロールとエリスロマイシンを比べれば、メドロールは短期解決型エリスロマイシンは長期解決型と考えて良いでしょう。メドロールは効果を高めるために安静が前提になりますから、忙しいならエリスロマイシンをまずトライして様子を見るのが良いと思います。

また、私の患者さんには両者を併用している方もおります。エリスロマイシンをベースにしながら、時期が来たらメドロールを短期的に負荷してもまったく問題ないと思います。

>>できれば、エリスロマイシンの長期内服にどれくらいのリスクがあるのかご教示いただけるとありがたいのですが。

効果が必ず期待できるという保証はできませんが、急性の副作用を除けば、安全性に関するリスクはほとんど心配しなくて良いでしょう。

>>海外のように医療の情報が患者自身に開示されることはとても大切なことだと思っています。しかし患者の側にも自己責任の意識がしっかりないと、前に進んでいかないとも感じています。夫のようにかなりPF値が低く、安定しているとは言い切れない状態で、エリスロマイシンの内服によってどれくらい効果が期待できるのか、そしてどれくらいリスクがあるのかということをしっかり知っておきたいと思うのです。

大切なことですね。

ただし、エリスロマイシンのこのような使用法は、呼吸器分野や耳鼻科領域の専門家でないと理解できない面があります。使用経験がないからです。私も、エリスロマイシンをベースにしてコントロールできた方を一般開業医の先生に紹介したところ、抗生物質の連用と勘違いされて、中止された経験が何度かありますので…。

そちらの先生がこの方面に明るければ良いと思います。

最後に、エリスロマイシンと同じ効果が示されているクラリスの長期投与で慢性副鼻腔炎が良くなりつつある方を、「質問と応答」の【034】の「(3)クラリスで慢性副鼻腔炎が良くなりフルタイドも吸えるようになりました」で紹介しています。ご参照下さい。

では。