(1)現在入院中の治療抵抗性喘息患者の治療法についてご意見を下さい。

【1013】血液・膠原病内科の先生より

<質問>

(平成12年7月2日)

初めまして。

100床の病院に勤務する47才内科医です。専門は血液、膠原病ですが、数年前から喘息の診療にもかなり力を入れています。先生が某社でのご講演した際のスライド原稿をいただいたおかげで、外来でパソコンを使って個別指導を行っています(その節はお礼もせず、失礼致しました)。吸入ステロイドを処方する患者さんには原則的に、ピークフローモニタリングを行っています。

喘息外来を始めた当初は、吸入療法によって患者さんがどんどん元気になってゆくのを目の当たりにして、吸入ステロイド療法さえあれば、怖いものなしの勢いで診療に当たっておりました。しかし、しだいに重症例、難治例が増えてきて、最近改めて喘息診療の難しさを知り、壁にぶつかっています(後日難治例の治療のコツを是非改めてお伺いしたいと思っています)。

症例提示に入ります。患者は25才の女性です。発病は16才で、20才頃から慢性持続性喘息となったといいます。アトピー皮膚炎、花粉症の既往を有しますが、鼻茸、副鼻腔炎の既往なく、またNSAIDでの発作誘発歴も認めません。10代から現在まで喫煙歴を有しています。これまで様々な夜間救急外来を渡り歩いておりますが、定期的な投薬経験はありません(従って吸入療法はしていません)。夜から深夜まで働いています。ほとんど毎日夜間発作があるようですが、これまで喘息での入院歴はありません。夜遊び多く、生活は不規則です。

今回、風邪を契機に喘息が悪化し、他院より紹介され来院、中等度の発作でしたが帰宅が困難であったため、徒歩にて入院しました。入院後、デカドロン16mg/日より開始しましたが、その夜から強い呼吸困難を訴え、夜間当直医の指示にてソルコーテフの点滴を指示されました。このため、即効性を期待して、ソルコーテフ1,200mg/日へ変更しましたが改善なく、ソルメドロール500mg/日へ変更しました。しかし、入院して8日間経った時点においても全く改善がみられず、ソルメドロール1,000mg/日へ増量しております。さすがにちょっと不安になってきております。今後の治療についてご意見を下さい。コハク酸や安息香酸などへのアレルギーの関与を疑うべきでしょうか? 最近立て続けにこうしたケースに遭遇し困っております。first choiceのステロイドは何をお使いでしょうか?

お忙しい中、誠に申し訳ございませんが、ご意見をいただきたく連絡申し上げました。先生へ送信させていただくのは初めてですが、いつもHPたいへん参考にさせていただいています。先生のご熱意にはいつも敬服しております。

<応答>

初めまして。

>>専門は血液、膠原病ですが、数年前から喘息の診療にもかなり力を入れています。

このようなメールを頂けてとても励みになります。

>>先生が某社でのご講演した際のスライド原稿をいただいたおかげで、外来でパソコンを使って個別指導を行っています(その節はお礼もせず、失礼致しました)。吸入ステロイドを処方する患者さんには原則的に、ピークフローモニタリングを行っています。

某社から、私のスライド原稿を使っている先生がいらっしゃるとお聞きした記憶があります。それは先生だったのですね。私の講演内容はほとんどホームページで紹介していますので、どうぞご自由にお使い下さい。お役に立てて何よりです。

>>喘息外来を始めた当初は、吸入療法によって患者さんがどんどん元気になってゆくのを目の当たりにして、吸入ステロイド療法さえあれば、怖いものなしの勢いで診療に当たっておりました。しかし、しだいに重症例、難治例が増えてきて、最近改めて喘息診療の難しさを知り、壁にぶつかっています(後日難治例の治療のコツを是非改めてお伺いしたいと思っています)。

実は、私とて、喘息治療のノウハウを偉そうに語るほど経験があるわけではありません。最初は、吸入ステロイドが普及して欲しい、ただその願いだけで始めたボランティア活動ですが、インターネットでの相談は、次第に軽症患者さんからの相談は減り、難治例の相談を受けるようになって、インターネットの限界を感じている最近です。

その意味で先生も同じ道を歩んでおられるのではないかと感じました。でも、こうした難治例のためにこそ、専門医は存在するのでしょうけれど…。

>>症例提示に入ります。患者は25才の女性です。発病は16才で、20才頃から慢性持続性喘息となったといいます。アトピー皮膚炎、花粉症の既往を有しますが、鼻茸、副鼻腔炎の既往なく、またNSAIDでの発作誘発歴も認めません。10代から現在まで喫煙歴を有しています。これまで様々な夜間救急外来を渡り歩いておりますが、定期的な投薬経験はありません(従って吸入療法はしていません)。夜から深夜まで働いています。ほとんど毎日夜間発作があるようですが、これまで喘息での入院歴はありません。夜遊び多く、生活は不規則です。

これは手強いですね。仮に急性期を乗り切っても、その後の慢性管理ができるかどうか甚だ不安です。

>>今回、風邪を契機に喘息が悪化し、他院より紹介され来院、中等度の発作でしたが帰宅が困難であったため、徒歩にて入院しました。入院後、デカドロン16mg/日より開始しましたが、その夜から強い呼吸困難を訴え、夜間当直医の指示にてソルコーテフの点滴を指示されました。このため、速効性を期待して、ソルコーテフ1200mg/日へ変更しましたが改善なく、ソルメドロール500mg/日へ変更しました。しかし、入院して8日間経った時点においても全く改善がみられず、ソルメドロール1000mg/日へ増量しております。さすがにちょっと不安になってきております。今後の治療についてご意見を下さい。コハク酸や安息香酸などへのアレルギーの関与を疑うべきでしょうか? 最近立て続けにこうしたケースに遭遇し困っております。first choiceのステロイドは何をお使いでしょうか?

かなり難しい症例ですね。今回のご相談は急性期の対処の仕方と言うことでしょうか?

まず、ステロイドですが、この症例は、デカドロン(16mg)→ソルコーテフ(?mg→1,200mg)→ソルメドロール(500mg→1,000mg)と使われています。通常は、即効性を期待して、ソルコーテフ→ソルメドロール→デカドロンという風にどんどん強くなって行くのでしょうけれど、最強のデカドロン点滴でも発作が治まらないとしたら、やはりかなり重症ですから、専門医のいる病院へ早めに転送するしかないような気がします。

恐らくもうネオフィリンやボスミンの皮下注射などは行っているのでしょうね? 急性期では、気管支炎症を取るステロイド療法は当然併用しますが、まずは気道の攣縮(喘鳴)を取る治療が優先されるべきです。ボスミンは効果は強いですが、持続時間や副作用が問題になりますから、最近発売された持続性のホクナリンテープ(2 mg)を貼っておいても良いでしょう。

あとは、十分な補液とネブライザーによる去痰(1日4、5回)が重要です。また、悪化の原因が気道感染による場合がほとんどなので、仮にレントゲンや炎症反応で異常がなくても、抗生剤は投与した方が良いと思います。もし経口が可能なら肺への移行がよいニューキノロン剤が良いと思います。

この患者さんは、入院されていますが、安静は保持されているのでしょうか? 呼吸状態にもよりますが、意外とちょっと良くなると隠れてタバコを吸ったり、面会客と外で冷気にあたったりと、気道安静が保持できていない場合も考えられませんか?

呼吸困難がどれほどか今回のメールでは把握できませんが、呼吸困難が相当強いときは、やはり一時的に鎮静をかけてレスピレータ管理にした方が治りが早いと思います。意識があると、当然のことながら苦しいと呼吸が荒くなり、気道の安静が保持できません。完全にコントロール呼吸にすれば、その間に攣縮が取れるでしょう。気道攣縮さえ治めれば、先は見えてくるはずです。

しかし、レスピレータ管理となりますと、やはり専門医に任せた方がいいでしょうから、あまりぎりぎりまで引っ張らずに早めに専門医へお願いした方が良いと思います。

では、この患者さんの回復と先生のご活躍をお祈りいたします。