平成9年6月9日、薬害オンブズパースンから「ベロテック販売中止」の要望書提出を受けていた日本ベーリンガー社は、7月になって薬害オンブズパースンへ反論を開始した。ここでは、日本ベーリンガー社に届いたファックスなど独自に入手した情報を公開しています。
(1)薬害オンブズパースンへの「要望書に対する質問事項」(平成9年7月3日)
日本ベーリンガー社は、平成9年6月9日、薬害オンブズパースンから提出を受けていた「ベロテック販売中止・薬剤回収」の要望書への正式な回答に先立って、薬害オンブズパースンに対し要望書に示された幾つかのデータの科学的根拠が乏しい点を指摘、逆にその根拠を求める文書を送った。
(2)報道関係者各位(平成9年7月4日)
薬害オンブズパースンへベロテック問題の科学的根拠を求める文書を送った日本ベーリンガー社は、報道関係者にその旨を公表した。
日本ベーリンガー社の報道関係各社への発表を受けた薬剤系業界新聞の日経(平成9年7月5日)、日経産業(平成9年7月7日)、日刊薬業(平成9年7月7日)はこの情報を公表した。
(4)日本ベーリンガー社に寄せられた患者さんからのファックス
日本ベーリンガー社には、薬害オンブズパースンのベロテック販売中止要求に対し、患者さんからベロテックの必要性を訴えるファックスや電話が届いている。ここにその1部を公開。
(5)薬害オンブズパースンへの正式な最終回答(平成9年8月26日)
平成9年6月9日の薬害オンブズパースンからの「ベロテック販売中止」の要望書に対して、日本ベーリンガー社は、^で紹介しておりますように、平成9年7月3日、いくつかの疑問点につき薬害オンブズパースンへ“逆質問状”を提出しておりました。これに対し、薬害オンブズパースンは「5.薬害オンブズパースンとの応答」の「(11)薬害オンブズパースンからの郵送書類(平成9年7月29日)」で鈴木代表からの手紙のみを紹介していますが、逆質問に対し回答を送っておりました。この度、その回答を受けて、日本ベーリンガー社は正式な最終回答を送りました。ここでは、日本ベーリンガー社からの手紙のみを紹介しております。
平成9年7月3日
薬害オンブズパースン会議
代表 鈴木 利廣 殿
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
代表取締役社長 代田 久米雄
拝啓 時下益々ご清祥の段お慶び申し上げます。このたびは、弊社の製品にご意見を賜わりありがとうございました。
弊社は、ベロテックエロゾルは適正に使用される限り、喘息発作を鎮めるために患者さんにとって有用な製剤であると考えております。したがいまして、今後も医療現場のご協力を得ながら、ベロテックエロゾルの適正使用の徹底に一層の努力を惜しまぬ所存であります。
さて、6月9日の貴社代表者の弊社東京事務所来訪時に説明いただいた内容、ならびにその際に受けとりました「ベロテックエロゾルに関する質問並びに要望書」(要望書)および「薬害オンブズパースン委託研究報告書」(報告書)を拝見致しました。
弊社来訪時のご説明内容および要望書は、貴会が「医薬品・治療研究会」に研究委託された報告書が、よりどころになっているものと推察致します。「医薬品・治療研究会」からは、予め弊社に対して、ベロテックエロゾルに関する資料提供の要請などがありました。弊社は、従来から製薬企業の使命として、ベロテックエロゾルをはじめとする医薬品の情報提供を行い、適正使用の推進に努めております。「医薬品・治療研究会」の要請に対しても、常に誠意を持って、数多くの資料を提供し回答してきました。
ところが、報告書および要望書の内容には、弊社が提供致しました多数の資料が考慮されておらず、科学的な観点から疑問を抱かざるを得ない部分があります。このことは、弊社来訪時に説明いただいた科学的事項についても、同様であります。
つきましては、要望書を検討するにあたり、貴会が示された事項の中で、特に疑問とする下記4点を提示致します。
1.β2選択性について
報告書および要望書では、フェノテロールのβ1選択性はサルブタモールの約5倍(すなわちβ2選択性は約1/5)であるため、心臓に対する作用がサルブタモールに比べて強力であると述べている。
報告書で引用されているデータは、動物から取り出した心臓と気管を用いて、試験管内で調べた実験結果である。しかし、生きたままの動物においては、摘出した臓器とは異なり、どの臓器の働きもその臓器単独で機能しているのではなく、相互に影響しあって調節を受けた状態で働いている。したがって、生きたままの動物でみる試験の結果の方が、人間に使用する場合により近い作用を示すと思われる。引用されている論文の著者らも、β選択性を論ずる場合には、試験管内の結果だけではなく、生きたままの動物で行った結果も併せて評価するべきとして、その実験も行っている。その結果では、フェノテロールのβ2選択性は、サルブタモールの1.4倍であった。報告書および要望書では、全くこの点に触れていない。論文中の一部分の試験結果のみを取り出して結論づけているのは科学的ではない。
弊社から「医薬品・治療研究会」に提供したが引用されていないフェノテロールのβ2選択性に関する論文、および他の公表論文などを総合的に評価するならば、人に使用した場合のフェノテロールのβ2選択性が、サルブタモールに比べて劣るものではない。
2.心筋障害性について
報告書および要望書では、フェノテロールの心筋への障害性はサルブタモールに比較して1,000倍以上強いと述べている。
この数字は、フェノテロールのラットにおける経口亜急性毒性試験(数段階の量の薬剤を1ヵ月間、毎日ラットに与えて毒性を調べた試験)の結果と、それとは異なる条件下で行われたサルブタモールの試験結果との比較によるとしているが、その計算の根拠が理解できない。
元来、このような毒性の強度比較は、同じ条件下で同時に行われた試験で論じなければならないものである。試験条件、動物の系統、試験施設環境、試験担当者の違いなどで、試験結果が変動することはよく知られている。
あえて、貴会のような比較論議をするのであれば、いくつかの論文を参照して総合的に判断するのが常道である。報告書および要望書では、サルブタモールは1,000mg/kgでも心筋障害はみられなかったという一論文のみをもって、弊社のフェノテロールの試験と比較している。ちなみに、サルブタモールにおいて50mg/kgで心筋障害がみられたとする公表論文があるが、これは触れられていない。
以上のようなことを考慮すれば、フェノテロールの毒性がサルブタモールに比べ1,000倍以上強いとする推定は誤りである。
3.ラット亜急性毒性試験での死亡について
報告書および弊社訪問時の説明の中で、ラットの亜急性毒性試験の最高用量でみられた死亡を問題としてあげている。
弊社が行った2つの亜急性毒性試験では、急性毒性試験(大量の薬剤を一回投与して、どのような用量範囲で死亡が起こるかをみる試験)で急性の死亡がみられた500mg/kg以上を、最高用量(それぞれ600mg/kgおよび1,500mg/kg)とした。したがって、亜急性毒性試験において、最高用量で死亡が発現したのは当然である。
死亡のみられた600mg/kgは、人間の投与量に換算(体重50kgとして換算)すると30gに相当し、一日経口臨床用量の4,000倍である。すなわち、錠剤に換算して12,000錠ずつを毎日服用することになる。また、これを仮にエロゾルに換算すると、毎日1,500ボンベを使用し続けることになる。1,500mg/kgは、さらにその2.5倍量である。
大量の薬物を与えたときに急性の死亡が起こるのは多くの薬剤で観察されることであり、動物の毒性試験におけるこのような高い用量での死亡をもって、喘息患者における突然死と単純に結び付けるのは論理に飛躍がある。
4.喘息死について
要望書および報告書では、ベロテックエロゾルの使用によって喘息死に至るメカニズムは、医学的に証明されるまでに至っていないものの、ベロテックのβ2選択性が低いことや心筋障害作用が喘息死の原因であるとしている。
しかし、逆に、喘息死の剖検結果を報告した文献では、喘息の急性発作死のほとんどの症例に、気道粘膜の浮腫や気道分泌物の貯留といった喘息死の所見が認められたとされている。
上記各事項に関して、貴会から文書による科学的に妥当なご説明をいただきました上で、要望書にありました質問事項などに可能な範囲で回答させていただきたく思います。
最後に、弊社には喘息の患者さんや喘息の治療にたずさわるお医者さんから、ベロテックエロゾルの必要性を訴えるなど、貴会と異なるご意見が多数寄せられております。貴会におかれましても、ぜひとも臨床現場の医師や喘息患者の方々の声にも広く耳を傾けていただきますようお願い申し上げます。
敬具
1997年7月4日
報道関係者 各位
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
「薬害オンブズパースン会議」からの要望書に関して
先般、弊社製品である気管支拡張剤ベロテックエロゾルに関して、「薬害オンブズパースン会議」から、「ベロテックエロゾルに関する質問ならびに要望書」(要望書)および「薬害オンブズパースン委託研究報告書」(報告書)を受け取りました。
これを受け弊社は、7月3日に「薬害オンブズパースン会議」に対して、別添の文書を発送いたしましたので、お知らせ申し上げます。
今回、「薬害オンブズパースン会議」からは、要望書に対しての回答を求められておりますが、弊社といたしましては、要望書及び報告書の内容に科学的な観点からの疑問がございますので、回答に先立って、科学的に妥当な説明を求めるものであります。
弊社は、ベロテックエロゾルが、適正に使用される限り、喘息発作を鎮めるために患者さんにとって有用な薬剤であると考えております。従って、今後も医療現場のご協力を得ながら、ベロテックエロゾルの適正使用の徹底に一層の努力を惜しまぬ所存です。
以上
本件に関するお問い合わせ先:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
経営企画部 林、柏井(TEL 0727-90-2110)
◆市民団体が副作用指摘/スプレー喘息薬販売元「販売は継続」(日経97.7.5)
スプレー式ぜんそく治療薬「フェノテロール製剤」(商品名ベロテックエロゾル)の副作用で患者が死亡したとされる問題で、市民団体「薬害オンブズパースン会議」(鈴木利広代表)から出荷停止などの申し入れを受けていた同製剤の販売元「日本ベーリンガーインゲルハイム」は四日、販売を継続するという内容のコメントを発表した。同社は「オンブズパースンの要望書の内容に科学的に疑問があり、妥当な説明を求める」としている。
◆フェノテロール製剤で日本ベーリンガーインゲルハイム/民間組織の指摘に反論文書(日刊薬業97.7.7)
日本ベーリンガーインゲルハイムは、輸入販売する吸入用臭化水素酸フェノテロール製剤について民間の医薬品監視組織「薬害オンブズパースン会議」から受けた質問および要望に対する文書を作成、3日同会議に発送した。文書は、同会議の要望書は「科学的な観点から疑問」であり、「回答に先立って、妥当な説明を求めたい」とし、「フェノテロールの心筋への障害性はサルブタモールに比較して1000倍以上強い」との指摘などに反論している。同会議は同製剤の出荷停止などを求める要望書(6月11日付既報)を同社と厚生省に提出していた。
◆ベロテックエロゾル販売継続表明の返書/インゲルハイム(日経産業97.7.7)
日本ベーリンガーインゲルハイム(兵庫県川西市、代田久米雄社長)は同社の噴霧式ぜんそく治療薬「ベロテックエロゾル」の出荷停止を市民団体の「薬害オンブズパースン会議」(鈴木利広代表)から求められている問題で、販売を継続する旨を記述した返書を三日付で郵送するとともに、返書の全文を公表した。
返書は「今後も医療現場のご協力を得ながら、ベロテックエロゾルの適正使用の徹底に一層の努力を惜しまぬ所存」と販売継続の意思を表明。さらに、薬害オンブズパースン会議が出した要望書の記述内容の科学的根拠をただす疑問や反論を記載し、同会議に説明を求めている。
同会議はベロテックエロゾルの出荷停止や承認申請に関する資料の公開を日本ベーリンガーインゲルハイムに申し入れていた。
(4)日本ベーリンガー社に寄せられた患者さんからのファックス
●拝啓(ベロテック吸入購入について)
私は長年喘息を患っている者ですが、最近ベロテックの吸入がマスコミの話題に上がり、どういうわけが、あちこちの病院でベロテック吸入が置かれなくなって困っております。私の場合、外出中はもちろんのこと身近に置いておかないと一人暮しで通年性の喘息なもので必須の薬なのです。これは直接貴社から買わせて頂くことは出来ないのでしょうか。もしその場合、どういうルートで手に入れられるのか教えて頂きたくお便りしました。よろしくお願いします。
敬具
●私、小学生のころからアレルギー喘息で御社の吸入器を愛用(?)しております。薬害オンブズマンの申請が通ってしまったら不安です。PL法などいろいろ規制があるけど、私は、すごく助けられています。
●初めまして。
先日、新聞、TVを見ましてぜひペンを執らなければと思いお便りしました。
「ベロテック」の販売中止を求める団体がいるのには驚きであります。なぜならそれは私にとって「命綱」だったからです。私はかぜをこじらして以来11年間、喘息となり、戦い、負けそうになっては「どうしてこんな苦しい思いをして生きていかなければならないのだろうか、いっそ死んだ方が楽なのに…、いや、死ぬ事は遅かれ早かれ誰にでも訪れる事なのだから何とか頑張って生きていこう。」自分に言い聞かせて今まできました。その度に医学書を読んだりTVを見たり自ら情報を仕入れるよう努力もしてきました。身近に良いDr.がいたのも精神的に励みになりましたが、何と言っても「ベロテック」が「命綱」、いや「命」そのものだったと思います。
発作がひどい時はすぐ点滴をしてもらうよう指示してもらっていたので「ベロテック」使用(1日4回、5回くらい)、効かない時は即行きつけの病院へ行き点滴―毎月3回〜5回は必ず点滴し続けてきて11年間、私のカルテは見事な厚さです。
Dr.もいろいろ新薬を出してくれましたが、結論、発作には「ベロテック」がよく効いたという事です。私の知り合いにも喘息の人が何人かいますが、「ベロテック」じゃなければあまり効果が無いと言っています。逆に効きすぎるから強くて危ないんじゃない?と思われるかもしれませんが、やはり使い方だと思います。
一般に漢方薬は安全だなんて言われる方がいますけど、漢方薬にも副作用があるのを知らないだけでそう言うのでしょう。吸いすぎて心臓に負担がかかり、死に至るのもあるかもしれません。でも私が思うには次の治療を受けなければならない状態を認識出来ず、Dr.にかかるのが手遅れ状態の為死亡するケースが多いのじゃないかと思います。「病院に行ってからも順番が来るまでゼーゼーしながら待っている患者さんもいたようです。病院側の対応にも問題が…」
私も「ベロテック」の使用量(回数)はかなりのものだったと思います。ひどい時は1日に7、8回というのもざらでした。そんな時は動悸でひどかったけど「ベロテック」があって救われた事が何度もありました。
ここ1年半喘息は出ていません。薬もすべて断ち切り様子をみています。が、今も常にバックの中、家のあちらこちらにおいて、もしもの場合に備えております。
どうか簡単に販売中止させないよう厚生省に働きかけて下さい。「ベロテック」を命綱としている患者もいるんだと…。
うまくまとまりませんが、この手紙を厚生省に出したいと思いましたが、貴社あてに出しました。なにとぞよろしくお願いします。
日本ベーリンガーインゲルハイム(KK)様
厚生省に働きかけて下さい。この手紙を持っていって欲しいのです。
(5)薬害オンブズパースンへの正式な最終回答(平成9年8月26日)
平成9年6月9日の薬害オンブズパースンからの「ベロテック販売中止」の要望書に対して、日本ベーリンガー社は、平成9年7月3日、いくつかの疑問点につき薬害オンブズパースンへ“逆質問状”を提出しておりました。これに対し、薬害オンブズパースンは「5.薬害オンブズパースンとの応答」の「(11)薬害オンブズパースンからの郵送書類(平成9年7月29日)」で鈴木代表からの手紙のみを紹介していますが、この逆質問に対し回答を送っておりました。この度、その回答を受けて、日本ベーリンガー社は正式な最終回答を送りました。
以下に、日本ベーリンガー社の代表取締役社長の薬害オンブズパースンへの手紙のみを紹介します。このほかに、専門的な応答を記した添付書類がありますが、ここでは割愛します。私の個人的感想を述べさせてもらいますと、この度の正式回答は製薬会社にしては異例なほど強い文調であると感じました。それだけ、確固たる自信があるのかもしれません。また私自身、個々のデータをじっくり比較検討しながら、両者の論点を吟味しました。詳細は省略しますが、薬害オンブズパースンの指摘は片寄っていると感じる点が多々ありました。これで、もう薬害オンブズパースンからの反論の余地はないように感じますが、なお薬害オンブズパースンの動きを見守りたいと思います。
平成9年8月26日
薬害オンブズパースン会議
代表 鈴 木 利 廣 殿
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
代表取締役社長 代 田 久 米 雄
貴会の弊社の対する平成9年6月9日付要望書および同年7月25日付書面に対し、以下のとおり弊社の意見を申し述べます。
第1.はじめに
貴会の要望書に対しましては、平成9年7月3日付をもって、貴会の主張の科学的根拠に対する疑念を文書にて提示いたしましたところ、貴会からは同年7月25日付をもって、これに対する回答書を頂戴いたしました。
弊社は、ベロテックエロゾルは喘息発作を鎮めるために患者さんにとって有用な薬剤であると考えており、今後も医療現場のご協力を得ながら、適正使用の徹底に全力を傾注することをもって基本的立場としております。このことは、すでに平成9年7月3日付をもって弊社が提示しました文書にも明記したとおりです。
弊社は、衆望を担って発足された貴会が、ベロテックエロゾルの有効性と安全性について科学的観点から公正に、また患者さんの視点に立って判断されるものと強く期待しております。かかる考えから、貴会の要望書に対して科学的観点からの疑念を提示しましたことは、十分にご理解いただけるものと存じます。
第2.貴会の主張の科学的根拠について
貴会は、ベロテックエロゾルの有効性と安全性に懸念を表明させ、弊社に対して出荷の一時停止を求めておられます。その根拠として「ベロテックエロゾルのβ2選択性は、同じβ刺激剤であるサルブタモールMDIなど他のβ刺激剤MDIよりも低い」また「ベロテックエロゾルの心筋障害作用はサルブタモールMDIの1,000倍以上との結果が出されている」ことを公言され、ベロテックエロゾル使用者の死亡原因があたかもベロテックエロゾルの心筋障害作用によることが証明済みであるかのごとき指摘をされています。
しかしながら、かかる指摘は、科学的な根拠を欠くものとして弊社が到底黙過しえないものであります。貴会の基本的立場が、ベロテックエロゾルを他のβ刺激剤とは同列に論じえないと、断定されるところにあるならば、弊社のそれとは到底相容れないものと言わねばならず、弊社はこれに対して遺憾の意を表明せざるを得ません。
もっとも、貴会の主張は、「医薬品・治療研究会(TIP)」および「医薬ビジランスセンター(JIP)」作成の委託研究報告書等に全面的に依拠することが明らかであります。弊社はTIP・JIPの要望に応じて提供したものであり、ベロテックエロゾルを他のβ刺激剤と比較して論じるのであれば、他のβ刺激剤についても多数の公表されている論文を広く収集して公正に検討すべきであります。しかも、TIP・JIPの結論は限られた論文の一部のデータを引用し、それらの誤った解釈により導き出されているなど多くの問題が見られます。
以下にその要約を示します。(詳細は本書に添付の別紙をご覧下さい)
1.β2選択性について
今回、TIP・JIPがフェノテロールのβ2 選択性が他剤に劣る」とした評価方法は科学的に妥当性を欠くものであり(例えば、実験方法の誤解、著者の記述を無視したデータの解釈、薬理学的には誤ったデータの解析理論が認められる)、その結論は当社として受け入れることはできない。
弊社がすでにTIP・JIPに提供した論文において、著者が算出したフェノテロールとサルブタモールのβ2選択性の成績は信頼できないとTIP・JIPは述べているが、これは誤解にともづくものである。これらの成績は科学的に十分信頼できるものであり、「人に使用した場合のフェノテロールのβ2選択性がサルブタモールに比べ劣るものではない」との可能性を支持するものである。
これらの論文でのフェノテロールのβ2選択性はサルブタモールに比べて次の通りである。
・摘出臓器を用いた試験:4.8分の1 (Giles論文) 〜5.6倍
(Tanagawa論文)
・生きたままの動物を用いた試験:1.4倍 (Giles論文、Engelhardt 論文)
2.心筋障害性について
サルブタモールにおて、50mg/kgで心筋障害がみられたとする公表論文がある。TIP・JIPはこの論文を確認していないが、この論文のデータを仮に採用してもなおフェノテロールの心筋障害はサルブタモールよりもはるかに強いと述べている。しかし、これはもともと著者がフェノテロールにおける心筋障害の発現用量は75mg/kg以上と判断すると述べているにもかかわらず、TIP・JIPがそれを無視して、独自に2.5mg/kgという用量を以ってサルブタモールと比較した結論であり、弊社はこの見解を受け入れられない。
3.ラットの悪急性毒性試験での死亡について
亜急性毒性試験の目的は、発現する毒性の種類や程度およびそれらの発現用量を把握し、人に使用したとの安全性を測定することにある。従って、臨床用量(人での投与量)とどれくらい離れた用量で毒性が発現するかは重要な点である。ラットの悪急性毒性試験で死亡が発生したのは600mg/kg以上という高用量を投与した時のみである。この死亡発現用量と臨床用量との開きをわかりやすく表現するために、錠剤の錠数やエロゾルのボンベ数に換算した。TIP・JIPは、悪急性毒性試験における大量投与での用量依存性の死亡および心筋障害性から、喘息における突然死が心臓死であることを裏付ける証拠であるとの見解を示されているが、論理の飛躍であり、毒性試験結果をこのように解釈されることは科学的ではない。
4.喘息死について
ニュージーランドの喘息死にベロテックエロゾルが関連していたとする疫学調査の報告に対しては、多くの反論文献が存在する。これらの文献によると、ベロテックエロゾルと喘息死の関連は否定されている。また、ベロテックエロゾルの添付文書中の「心停止」の記載については、過度の使用において発現しうる危険性に対し、注意を喚起するものであり、この記載はすべてのβ刺激剤の添付文書に共通したものである。
TIP・JIPはベロテックエロゾル使用患者でアダムスストークス症候群と思われる意識消失発作を生じ、その後突然死した症例を把握されているとのことであるが、その症例の詳細は明らかにされていない。
第3.要望書の質問等について
弊社は、平成9年7月3日付文書にて、貴会の主張の科学的根拠に対する疑念が明らかになった段階で、平成9年6月9日付要望書中の質問等に回答することを申し上げました。しかしながら、貴会の説明は科学的根拠が乏しく、理解しがたい点が多々あり、再度疑念を示さざるを得ません。しかし、弊社は徒に時間を費やすことは望むところではありませんので、以下に質問等に関する弊社の考えを述べて、回答とさせていただきます。
◆1989年のLancet誌上の論文、および90年、91年のThorax誌上の論文、ならびにニュージーランド保健省が発したドクターレター等について
3つの論文で報告された薬剤疫学調査には多くの偏りが存在しており、調査結果から薬物の評価を確定するには不十分であることが医学統計の専門家から指摘されております。サスカチュワン州のデータベースを用いたより大規模な疫学調査では、喘息の重症度や薬剤の処方変更の偏りを調整すると、ベロテックエロゾルとサルブタモールMDのリスクに差がなく、β刺激剤MDIが頻繁に用いられる場合、医師は患者の状態を再評価すべきである事が報告されています。さらに、1991年9月、欧州共同体医薬品委員会(CPMP)はこれらの論文を検討し、ベロテックエロゾルの使用を認める旨の意見を出しました。この意見により、欧州各国においてベロテックエロゾルの販売は継続されております。
また、1996年に公表された文献によれば、ニュージーランドでの疫学調査でも、ベロテックエロゾルは、より重症の患者に処方されており、重症度の調整をした後では、喘息死のリスクを増加させなかったと報告されています。
従って、弊社としては科学的な評価方法としては不十分な1989年のLancet誌上の論文、及び90年、91年のThorax誌上の論文の結論に疑問をもっておりますが、当該論文をその都度厚生省に報告し評価いただくとともに、医療機関にも伝達しております。
ニュージーランド保健省が発したドクターレター等については、国情や政策の異なる外国の政府機関の判断に基づく措置であり、弊社としてはその評価は差し控えたいと思います。
◆1995年のLancet誌345巻に掲載された報告について
この報告におけるニュージーランドでの喘息死の増加の要因がベロテックエロゾルにあったとの論評を正しいものとして受け入れるとはできません。ニュージーランドでの喘息死は1979年をピークに減少しており、その背景には、1980年代の喘息特別調査委員会の設置、患者・一般市民・医療機関への啓蒙、ピークフローメーターの普及、高用量吸入ステロイド使用の増加、急性喘息治療における早期医療サービスの改善等多くの要因があると言われています。
標記の報告では、喘息死の原因を、喘息死亡率とβ刺激剤の中でのベロテックエロゾルの市場占有率との関連で論じていますが、市場占有率ではなく、むしろ実際の販売数量との関連で論じるべきです。ベロテックエロゾルの販売数量は、1979年から1986年にかけて約2.5倍に増加しており、この間喘息死亡率は逆に3分の2に低下しています。このことはベロテックエロゾルの販売数量と喘息死亡率との間に関連がないことを示しております。
さらに、1997年のJ. Clin. Epidemiol. 誌上の論文では、ニュージーランドをはじめドイツ、オーストリア、ベルギー、イギリス、スウェーデン等9ヶ国でのベロテックエロゾルを含むβ刺激剤MDIの販売数量と喘息死の関連は見られておりません。
◆米国の状況について
米国では、現地法人ベーリンガーインゲルハイムファーマシューティカルズ
Inc.
がベロテックエロゾルを承認申請したのは1979年7月です。承認申請から約8年6ヶ月を経て、米国においては営業上の経済的メリットがもはやないと判断された段階で、申請を取下げました。この間の経緯については調査中であります。なお、日本では、ベロテックエロゾルは1984年7月に承認されております。
◆各国の使用状況について
ベーリンガーインゲルハイムグループの会社が91ヶ国でベロテックエロゾルを販売しています。容量は、5ml(100回噴霧)、10ml(200回噴霧)、15ml(300回噴霧)の3種類あり、この3容量すべてに1回噴霧中0.2mg(=200μg)の製品が、10mlと15mlの容量に1回噴霧中0.1mg(100μg)の製品があります。
ベーリンガーインゲルハイムグループの会社がベロテックエロゾルの承認申請をしたが、承認取得に至らなかった国は、米国以外にはありません。
◆能書改訂について
厚生省からの指導により、過量投与の防止等のために以下のように適切な能書(添付文書)の改訂を行ってまいりました。
・1991年11月:薬務局安全課長通知第130号
「β刺激剤の吸入剤11品目の使用上の注意改訂」の通知に基づき使用上の注意の改訂
・1997年3月:自主改訂
小児アレルギー学会喘息死委員会の発表に基づき「小児への投与」等に関する注意を追加記載
・1997年5月:薬務局安全課長通知第65号
使用上の注意の改訂等について」に基づき、緊急安全性情報(No.97-1)を配布
厚生省の指導による緊急安全性情報は、従来からの弊社が自主的に行ってきた適正使用推進活動をより一層徹底する上で、適切なものであったと考えております。
◆製剤上の変更について
海外で「低用量」の製品の導入が検討され始めた時点で、厚生省から見解を求められたことがあります。日本でのベロテックエロゾルの用法は、発売当初から現在と同じく喘息発作時にのみ吸入するものであり、喘息発作の有無にかかわらず、1日3回定期的に吸入するという諸外国の用法とは異なっていたので、弊社は「低用量」の製品を導入しませんでした。しかし、今回の緊急安全性情報において、ベロテックエロゾルの添付文書には「小児に投与しないことが望ましいが、やむを得ず使用する場合は、他のβ2刺激薬吸入剤が無効な場合に限ること」と記載しております。このことより、弊社は、ベロテックエロゾルの小児用量の設定を含め「低用量」の製品の導入を検討中であります。
◆申し入れ事項について
弊社は、ベロテックエロゾルは適正に使用される限り、喘息治療に有用な薬剤のひとつと考えております。ベロテックエロゾルを必要とする患者さんに対し、その安全な使用を確保するために必要な情報を提供するとともに、適切な使用を推し進めることにいささかも努力を惜しむものではありません。しかし、科学的に問題のある解釈や判断に基づく貴会に申し入れについては受け入れることはできません。
第4.おわりに
弊社は、現時点でなすべきことは、喘息治療におけるベロテックエロゾルの適正使用を医師および患者の方々に対し一層周知徹底せしめることと考えております。先に述べましたとおり、衆望を担って発足された貴会が、一部の偏った意見や誤った解釈に左右されることなく、広く学会や専門家の意見をふまえて、科学的かつ公正な判断をされることを重ねて強く期待いたします。
以上