2. 喘息患者がつぎつぎに死んでゆく
(櫻井よしこ・1997年6月号・文芸春秋より)

1997年6月号の文芸春秋でノンフィクション作家の櫻井よしこさんが、“つぎつぎと喘息患者が死んで行く”と題したエッセイを掲載していました。このベロテック問題に関して、マスコミで取り上げた最初の報道であり、是非皆さんに全文を紹介したいと思いましたが、文芸春秋に問い合わせましたところ、私の主張の中で一部を紹介するのは構わないが、全文を掲載するのは堅く断られました。全文をご覧になりたい方は、バックナンバーを取り寄せて読んで下さいとのことでした。このエッセイで私がとても興味を引いたのは、ベロテック乱用(?)で亡くなった喘息児を紹介している下りでした。ここにその部分のみを紹介します。



取材を始めるとすぐに、ベロテックを常用していて亡くなった喘息患者がいたとの情報を得た。
亡くなった時、星野徹君(仮名)はまだ十代の少年だった。活発な優しい少年だった。母親の碧さん(仮名)は、五年前に徹君が亡くなってからずっと閉めきりにしていた彼の部屋を、はじめて開けてくれた。
「何年たっても思い出すと辛くて、子供の部屋に入っていけないんです。ずっと、あの子が生きていたときのまま、亡くなったあの日の朝、息子がベッドから起き出したままにしてあります」
徹君は亡くなる前、ずっとフェノテロール製剤のベロテックを常用していた。病院から、ほぼ十日から二週間に一本の割合でベロテックを渡されていた。一本分は百回分の吸入量である。
「休むときはベッドの脇に、出かけるときにはポケットの中に、あの子は必ずベロテックと一緒でした」
と碧さんは言う。発作を起こしたその日、彼はしばらく苦しそうにしていて母親と病院へ急いだ。
「見ている間に、恐ろしい位に症状が悪くなっていきました。苦しそうで苦しそうで。私は見ていませんがあの日の朝も、たぶん、吸入してから病院にいったと思います。あの子は発作が起きるといつもシュッシュッと吸っていましたから」
碧さんは、徹君がベロテックを吸入する度にその余りの効き目の程に、却って恐ろしくなったという。どんなに苦しんでいても、一吹き二吹き吸うと嘘のようにスーッとなおっていくのだそうだ。


もちろんこれが喘息死した方の典型例ではないかも知れません。しかし、この子のいったいどこがベロテック乱用による心臓死だと言うのでしょうか?心臓死だとしたらほぼ即死であり、病院に行く余裕などないはずです。この場合、明らかに喘息の状態が悪くなっているのだとしか思えません。しかもベロテックが原因だなんてどうしても考えられません。また、母親の発言にもベロテックのことを悪く言っている表現など見あたりません。逆にベロテックは心の支えであったようにさえとれると思います。これは明らかに主治医の指導が徹底してないケースだと思います。喘息死のことや適切な来院時期など十分な説明を受けずにベロテックを使い続けていたとすれば、これは主治医は訴えられてもしかたないと思いました。