吸入療法Q&A

◆このQ&Aは、「質問コーナー」の吸入療法に関する質問を抜粋し簡略化したものと、私の日常診療の中で患者さんからよく受ける質問をわかりやすいようにアレンジしました。


Q:娘が吸入ステロイドを勧められたのですが…。

<質問>
女子高生の娘を持つ母ですが、娘が最近かかりつけの医師から吸入ステロイドを勧められました。親としてはステロイドということでとても不安です。

<応答>
吸入ステロイドに対し安全性や効果にまだ疑問がある方は、例えば2週間という期限付きで開始してみるのはいかがですか?ただでさえ副作用のない吸入ステロイドですから、たとえ2週間くらい吸っても後遺症として残るような重篤な副作用は何も起きないからです。恐らく、ほとんどはその劇的な効果にお子さん自身が驚くのではないかとは確信します。

吸入ステロイドの場合、その抜群の効果もそうですが、実際に吸ってみてその副作用のなさにもに気付いてくれるのではないでしょうか?例えば、発作を繰り返しているときに、全身性ステロイドを長期に渡って使うとたとえ呼吸が楽になったとしても、顔がむくんでほてる、胃が痛む、筋力が低下する、などいろいろな副作用が目につくものです。しかし、吸入ステロイドはそのような目に見える副作用はありません。

目に見えない副作用や長く使用したときの副作用を気にする方はいるかもしれません。しかし、吸入ステロイドは発売されて15年上経ちますが、全身性ステロイドのような重篤な副作用はほとんど報告されていないのです。その意味で、吸入ステロイドは予防接種より安全であると言ってもおかしくありません。なぜなら、予防接種は何万人かに1人の割合で副作用がでるからです。

まず一定期間吸入ステロイドを経験してみて、その時点で、やはりステロイドだから不安だと中止するも良し、続けるも良しです。


Q:喘息が重症化し吸入ステロイド?

<質問>
医者から吸入ステロイドを勧められましたが、大変ショックした。私の喘息はそれほどまでに重症化してしまったのでしょうか?

<応答>
吸入ステロイドを重症化したときの最後の手段として認識してはいけません。

吸入ステロイドは、ウルトラマンならカラータイマーがなる前にスペシウム光線を使うようなもの、また水戸黄門様なら良民が悪人の被害にあう前に「この紋所が目に入らぬか!」と紋所を出すようなものです。その方がずっと被害が少なくて済むのです。日本人は“とっておき”をどーんと最後に使って、痛快になるのが非常に好きな国民のようです。しかし、ドラマですからすべて一件落着しますが、使い方がちょっと遅れたらウルトラマンも水戸黄門様も、命がなくなってしまいます。

喘息治療も、テオドール、インタール、抗喘息薬、漢方薬…と、ステロイドを最後の手段として残しておくがあまり、手遅れになっていることが多いのではないでしょうか?実際、吸入ステロイドなどは病状が悪化してからでは、薬剤の性格上効き難くなるのです。世界的にも早期導入が推奨されています。


Q:ベコタイドが効かない。

<質問>
最近医者から、ベロテックの使用回数が多くなってきているので、ベコタイドを発作の有無に関わらず定期吸入するように薦められました。しかし、ベコタイド開始後すでに1カ月が経過するのですが、一向にベロテックの使用回数は減りません。ベロテックは良く効くので吸い方が悪いことはないと思うのですが、なぜベコタイドが効かないのでしょうか?私にはベコタイドは効かないのでしょうか? あるいはもう少し継続しなければならないのでしょうか?

<応答>
吸入ステロイドが正しく行われていれば2週間以内にはベロテックの使用回数減少など何らかの効果が現れます。従って、吸い方が正しくないと考えられます。

β刺激剤も吸入ステロイドもスペーサーを使用すれば、薬剤が気管支粘膜に直接到達し確実に効果が得られます。しかし、スペーサーを用いないで直接吸入すると、ほとんどの場合満足な効果はえられませんが、発作止めのβ刺激剤は吸入操作が多少下手でも、一部が口腔粘膜から吸収されて、経口薬や注射薬と同様に血液を介して病変部に到達するため、気管支を拡張させてくれるのである程度の効果は得られるのです。

しかし、吸入ステロイドはそうはいきません。なぜなら吸入ステロイドは、粘膜から吸収されて血液に入っても肝臓ですぐ分解されるので、血液を介して気管支粘膜に到達することは期待できないのです。従って、直接気管支粘膜に到達した薬剤のみが気道炎症を抑制するという効果を生じるのです。これは、逆に吸入ステロイドには全身性副作用がないことと深く関係するのです。


Q:吸入ステロイドの量は多すぎる?

<質問>
私はベコタイド100を1回4吸入で1日3、4回行っています。この量は多すぎるのではないかと心配しています。

<応答>
最大で1日16吸入(1,600マイクログラム)ですが、吸入方法さえ正しければ、量は全然心配いりません。私は1日20吸入(2,000マイクログラム)以上を吸入していても何の副作用もない患者さんを経験しています。ただ、正しい吸入操作をしていても喉がひりひりするようなときは回数は減らした方がいいと思います。


Q:仕事中は昼間の吸入ができない。

<質問>
私は1日3、4回に分けた吸入を指示されていますが、昼間仕事の合間に吸入するのは、人目もあり、いろいろと難しいのです。いい方法はないでしょうか?

<応答>
吸入ステロイドを1日4回も吸うのは、若い働き盛りの方には実際無理だと思います。ましてや、スペーサーなるものをひっさげて仕事の合間にする事は難しいと思います。私は、年輩の方で時間がとれる方には、1日3、4回に分けた吸入を勧めていますが、若い働き盛りの方は、1日3回(朝・帰宅後・就寝前)あるいは2回(朝・就寝前)を勧めています。回数よりも1日合計何吸入したかの方が大切であって、同じ1日8吸入を1回2吸入*4回と1回4吸入*2回では効果において有意差はないとされています。むしろ昼間にあわてて形だけ吸うよりは、朝と就寝前に時間をかけてゆっくり吸入した方がよっぽどよいと思います。また、前日吸入を忘れたら次の朝は少し多めに吸入するようにします。喘息の状態が良くなってくると、吸入ステロイドを1日や2日位忘れたからと言ってすぐ発作がおきるということはありません。要は根気よく続けることです。


Q:ベコタイド50と100の違い。

<質問>
ある方からベコタイド50は古い薬だという話を聞いたことがあります。ベコタイド100は、症状が重くより量を必要とする人に使用されるという認識しかしていないのですが、100には50にはない薬効があるのでしょうか?50では効率が悪すぎるのでしょうか?

<応答>
基本的にベコタイド50だから軽症、ベコタイド100だから重症ということはありません。中味はまったく同じであり、100には50にはない薬効があることはありません。ベコタイド100は、1日2,000マイクログラムもの大量を必要とする方のために新しく発売されたという経緯もあります。このような場合、ベコタイド50やアルデシンだと1日40回も吸わなくてはならなくなるので、回数を減らしその煩雑さを回避するために開発されたのです。回数さえ気にならなければ、私は今でもベコタイド50の方がいいとも考えています。

ただ人の常として、回数が多くなればなるほど早く終わらせようといい加減に吸う傾向があるので、これでは逆効果です。形だけの吸入操作はまったく意味がありません。1回1回を丁寧に吸えるならベコタイド50でもいいと思います。


Q:持ち運びに不便なスペーサー。

<質問>
私は、ボルマテック・ハードというスペーサーを使用しています。しかし職場にもってゆくのは不便なのですが、もっと良いものはないのでしょうか?

<応答>
吸入ステロイドの効果を高めるスペーサーには、多種多様のものがあります。一般的なものには、ボルマチック・ハード、ボルマチック・ソフト、インスパイア・イースの3つがあります。このうち、ボルマチックは1個1,000円と有料でしかも持ち運びに不便というのに対し、後2者は無料でかつ携帯に便利だというで患者さんに好評の原因でした。

しかし、1週間以上も外出をするなら別ですが、1日や2日程度の外出なら、発作止めを持って行けばよいことで、外出先でまでわざわざ吸入ステロイドをしなくてはならない理由はないと思います。逆にこの携帯性が故に、会社の昼休みや仕事の合間に慌てて吸ってしまい、“吸ったつもり”になっているのが、効果を生まない原因のひとつなのではないかとも考えています。そして、それが習慣になって、起床時や帰宅してからも慌ただしさの中で、「吸った」ということで満足してしまう。それで別に害はないのですが、効果のない無駄な操作を繰り返しているだけです。吸入ステロイドは気管支粘膜に到達して始めて効果を発揮する薬剤ですから、形式だけ吸入操作を繰り返してもまったく意味がありません。吸入ステロイドは少量でも気管支に到達すれば効果は抜群なのです。


Q:スペーサー内に1度に2回噴霧は?

<質問>
ベコタイドの吸入方法ですが、私は一度に2回スペーサーの中に噴霧して1回吸入し、これをもう一度繰り返し1回に4吸入したことにしています。はたして1度に2回噴霧して吸ってもいいものなのでしょうか? 効果が落ちることはありませんか?

<応答>
1度に2噴霧しそれを2回繰り返して1回4吸入としているようですが、それでも問題はないと思いますが、私は1度に1噴霧しそれを4回繰り返して1回4吸入と指導しています。吸入ステロイドは、1回の噴霧(100マイクログラム)を100%とするといくら上手に吸っても気管に到達するのは約10%と言われています。そのほとんどは、スペーサーの壁や口腔粘膜に沈着してしまうのです。

私の考えでは、1度に2噴霧した場合、総量200マイクログラムの10%にあたる20マイクログラムが気管支に到達するかというと、そうではなくスペーサーの壁にくっついて失われる量も多くなり、気管支に到達するのはたとえば15マイクログラム程度に低下するのではないかと考えています。だとすると、1噴霧を2回繰り返せば単純に10*2=20マイクログラムは気管に到達するはずです。もともとベコタイド50からベコタイド100に変更になった時点で、吸入回数を減らそうという目的で量が倍になっているのですから、それを1度に2噴霧してさらに回数を減らす必要もないでしょう。これにはまた、1回1回大切に吸って欲しいという願いが込められています。


Q:10秒かけて吸うのは無理。

<質問>
吸入は10秒くらいかけてゆっくりと吸い込むのが理想的と言われていますが、どうやっても10秒はおろか5秒も無理です。ピークフロー値が回復してきた今でも3秒くらいしか吸い続けられません。私のやり方はどこか間違っているのでしょうか?

<応答>
10秒かけて吸入するのは、ボルマチィック・ハードなら可能ですが用量の小さい他の種類では無理でしょう。また、発作が頻発していて苦しいときも無理です。要するにゆっくり吸って下さいということですから、あまり時間を気にしなくても良いと思います。

吸入速度に関して、こういう例えがあります。朝の冷たい空気を思いきり吸うと冷気でのどの奥がひんやりとしますが、それは空気が喉に当っている証拠で、そのくらいの速度で吸入すると薬剤が喉に当たりますから、速度としては早すぎることになるのです。空気を吸ったとき空気が喉に当たるか当たらないかわからないくらいが適当な早さなのです。「吸ったのかどうかよくわからない」「吸った感じがしない」位が実は最も効率よく薬剤が末梢の気管支まで到達するのです。ヒューと音がしたり喉に空気が当たるような吸い方(実際はこの方が吸ったという感じがするのです)は効率は良くありません。


Q:10秒かけても効果なし。

<質問>
最近吸入療法を見直し、吸入ステロイドを10秒かけて吸入していますが、あまり良い効果は得られません。どこかおかしいのでしょうか?

<応答>
ほとんどの方は、10秒かけて吸うことで吸入ステロイドの効果は上がってきますが、それでもあまり良くならない方に、目の前で吸い方を見せていただきますと、同じ10秒かけるのでも、最初の1、2秒で勢い良く吸ってしまい、残りは吸う努力だけしている方を見かけます。これでは、最初の早い吸入でほとんどの薬剤が喉にぶつかってしまい、効果はないに等しくなります。また最初の1、2秒で肺活量のほとんどを吸ってしまいますので、残りは呼吸器筋をぶるぶる震わせているだけで、まったく吸入していることになりません。疲れるだけです。最も息を吐いた状態から一定の早さでゆっくり吸ってみて下さい。特に吸い始めが肝心です。


Q:なぜゆっくり吸うの?

<質問>
私は確かにゆっくり吸入するようになってから喘息が見違えるように良くなりました。しかし「なぜゆっくりなの?」という疑問は消えていません。なぜ吸入ステロイドはゆっくり吸わなければならないのですか?

<応答>
1つは、早く吸うとほとんどの薬剤が喉の奥にぶつかってしまうことです。これは冷たい空気を勢いよく吸うと喉の奥がひんやりするのと同じことです。

もう1つは、せっかく気管支に入っても、早く吸うと広がった気道にしか到達せず、薬剤を効かせたい細い部分には薬剤が入っていかないからです。この点は、やや難しい理論になりますので、わかりやすく説明します。

例えば、水道の蛇口にホースをつけて水を出すことを連想して下さい。そしてその先が二股に分かれていて、一方は太くもう一方は極端に細いとします。蛇口を全開にし水の勢いが強いと全部太い方に流れてしまい、細い方から水は出てこなくなるのです。それどころか太い方に流れる勢いで、細い方は逆方向に吸い込まれてしまうのです。しかし、チョロチョロとゆっくり水を出すと細い方からも水は出て行くのです。

気管支の炎症はどの気管支も決して均一に炎症を起こしているわけではなく、所々細いのと太いのとが入り交じっているので、早く吸うとこの水道と同じ原理で太い気道にばかり薬剤が到達し、薬剤を効かせたい細い炎症のひどい部分には薬剤は到達しなくなるのです。ゆっくり吸うと薬剤を効かせたい部分により到達しやすくなるのはこのためです。


Q:咳や痰が多いのです。

<質問>
吸入の時、痰が絡んでいたり、吸入すると咳込んだりすることがあります。そのようなときはどのように吸入したらいいのですか?

<応答>
痰が多い時は痰を除くことに全力を注いで下さい。この痰は吸入療法の最大の敵です。痰自体で気道が細くなっている上に、痰に薬剤がべたべたくっつくので効果が減少します。水分を多く取って去痰をはかって下さい。ステロイド吸入前にはよく痰を切ってから行って下さい。それでも切れが悪いときは、吸入気管支拡張剤を惜しまず1ないし2吸入して気管支を広げてからゆっくり行って下さい。

咳が多く出る時は咳を最低限に納める努力をして下さい。咳はするなとは言えませんので、そのようなときも気管支拡張剤吸入を使って咳を最小限におさめるべきです。なぜなら咳を続けると、治りかけた気道粘膜がまた剥がれ落ち、また発作がおきやすくなるからです。こんな時の気管支拡張剤吸入は、発作を止めるためと言うよりも、吸入ステロイドの効果を上げるために行うと考えて下さい。気管支拡張剤吸入の吸いすぎはいけないと考えず、こんな時は惜しまずに使って、絶対に苦しいのを我慢しないで下さい。早目早目に発作の種をつぶすことが肝要です。


Q:吸入の間隔は?

<質問>
私は、ベコタイド50を1回吸って1分くらい間をおいてまた吸ってというのを1日30回以上もやっています。朝と夜の2回に分けて吸うとすると1回に20分かかり、考えただけで滅入ってきます。息を吐いてから1分くらい待つというのが非常に辛いのです。吸入と吸入の間隔をもっと短くしても問題ないのであれば楽なのですが、何か良い方法はないでしょうか?

<応答>
吸入回数が多くなるとこの間隔は無視できない問題になりますが、少なくともベコタイドに関しては1分以上開ける医学的根拠はありません。

これは、恐らく以前、ベコタイド吸入前にベロテックなどを先に1吸入して気管支を十分広げてからベコタイドを吸う療法が推薦されていた頃、ベロテックを吸って気管支が広がるのをしばらく待ってから、ベコタイドを吸うようにと指示されていたのが、どこかで混同されて、ベコタイドとベコタイドの吸入間隔もあけるようになったのではないかと思います。また、よくベロテックを2吸入以上吸うときは間隔をあけなさいという指示が出回っていた頃があり、その名残りかもしれません。この場合は、間隔をあけるのは理論的であるとは思います。

しかし、ベコタイドには気管支拡張作用がありませんから、立て続けに吸ってはいけない理由はありません。しいて言えば、慌てないで吸いなさいと言うことかもしれませんが、それにしても1分は長すぎます。


Q:ピークフロー値が上昇してきません。

<質問>
吸入ステロイドを吸うようになって、発作の回数はだいぶ減りました。しかし、ピークフロー値はなかなか基準値に達しません。これ以上はもう上昇しないのでしょうか?

<質問>
吸入ステロイドには3段階の効果があるのではないかと考えられます。

第1段階は、発作の頻発している状態の方に、とにかくスペーサーである一定量の吸入ステロイドを投与すると、まず発作がなくなります。これが最初の効果であると思います。多くの方はこの状態で満足してしまい、普通の生活に戻ってしまいます。しかし、この状態を続けてもピークフロー値はなかなか上昇せず、風邪を引いたりするとまた発作を起こしてしまいます。それは、いたる所に気道狭窄(炎症)が残っていて、正しく吸わないと炎症があまり取れないからでしょう。

第2段階は、このような方に、ゆっくりした正しい吸入操作を教え、吸入回数を増やすなどの指導をすると、今度はピークフロー値が上昇して来ることがあります。ほとんどは、この状態で快適な生活が送れるようになるようです。しかし、特に罹病期間が長い患者さんなどは、これでもピークフロー値はさほど上昇してこない場合があります。

第3段階は、このような方に、2週間程度の全身性ステロイドを投与し、気道を十分開き、その開いた気道粘膜に吸入ステロイドを効かせ気道炎症再燃を防止する効果です。吸入ステロイドが最も効果を発揮するのは、この3段階目にあるのではないかと考えられています。発作予防から気道炎症再燃予防の考え方です。この状態に達すると、気管支拡張剤は一切不要になり、ピークフローモニターを行いながら、吸入ステロイドを適宜使用するだけでいい状態が続けられるようにまでなる方もおります。

これを逆に考えると、気道のよく開いている喘息の初期あるいは軽症の時ほど、吸入ステロイドは抜群の効果を発揮するのではないでしょうか?


Q:吸入ステロイドは一生続ける?

<質問>
吸入ステロイドで喘息の調子が非常に良くなり、治ったと自分で思いこみ、吸入を止めていたら、風邪を契機に大きな発作を起こしてしまいました。調子が良くても吸入ステロイドは一生続けなければならないのですか?

<応答>
症状のみに頼った自己判断による吸入ステロイドの中止は勧められません。また、吸入ステロイドで喘息の状態が良くなると、吸入を止めてもすぐには発作は起きないことがしばしばあります。しかし、徐々に気道炎症は再発し、あなたのように風邪などを契機に発作が起きてしまう場合をよく見かけます。

従って、吸入ステロイドは基本的には一生続けなければなりません。しかし、ピークフローモニターを継続して行けば、値が下がってきた時にのみ適宜吸入ステロイドを投与することでその悪化を防止し、最低限の薬剤量で良好な状態が維持することは可能です。

たとえ薬剤を使用しなくても、喘息の自己管理は一生続けなければなりません。この意味で“喘息とは一生つきあわなければならない”のです。


Q:もっと簡単な吸入ステロイドは?

<質問>
吸入ステロイドはうまく吸えば大変効果があることが良くわかりました。しかし、実際には操作は面倒だと思います。もっと簡単にできる吸入ステロイドはないのでしょうか?

<応答>
フルチカゾンというまもなく発売予定の吸入ステロイドがあります。これはいろいろな点で画期的なのです。

 

まずこれは、粉末の吸入剤なのです。これは最近のフロン撤廃の流れを受けています。粉を吸うわけですから、むせるのではないかと心配ですが、なぜかむせないのです。恐らく粒子サイズが気道を刺激しないサイズになっているのでしょう。次に、吸入操作が簡単であることです。スペーサーは不要で、小型の容器から1息吸うだけでよいのです。多少の吸引力は必要ですが、吸入がうまくできないお年寄りでも効果が期待できます。さらに、フルチカゾンはベコタイドの本体であるベクロメタゾンの2倍の抗炎症作用を有していながら、ベクロメタゾンと同様全身性副作用がないとされています。ですから吸入は朝・昼1回ずつでよいのです。

ただし、フルチカゾンが導入されているイギリスでも、この吸入ステロイドが直接の喘息死の低下の原因にはなっていないとのことです。いくら優れた薬剤があっても、正しい方法で根気よく続けなければ、治る病気も治らないことになります。


Q:気管支にはカビは生えない?

<質問>
ベコタイドを吸入した後、うがいをしないと喉や舌にカビ(カンジダ)がはえるとのことですが、気管支にはそうしたカビははえないのでしょうか?

<応答>
ベコタイドの効果が世に認められるようになりはじめた頃、ステロイドに疑問を抱く医師達はこの点を引き合いに出し、やはりベコタイドは危険なのではないかと疑問の声を発しました。またこれと関連して、ステロイドは人間の抵抗力を弱めるので、そんなにステロイドを使用したら、逆に風邪を引きやすくなって喘息を悪化させてしまうのではないか?また、ステロイド胃潰瘍という言葉があるように、そんなにステロイドを吸ったら気管支粘膜に潰瘍が多発し穴が空いてしまうのではないか?色々な疑問が持ち上がったのです。しかし、不思議なことに答えはすべてノーでした。ただし、口腔内カンジダ症だけは実際に認められた副作用であったのです。この口腔内カンジダ症は、ベコタイドなどの吸入ステロイドの唯一と言っていい副作用ですが、その問題は、スペーサーの使用とうがい励行という簡単な操作を加えるだけで、解決されてしまったのです。

口腔内に薬剤を直接噴霧していた頃は、ほとんどの薬剤が咽頭粘膜に作用し、気管支には薬剤が到達しなかったのです。そして、咽頭粘膜に残ったベコタイドは口腔内カンジダ症を引き起こすに十分な量であったのでしょう。ましてやうがいをしなければその確率は高まります。スペーサーはベコタイドが直接咽頭に作用するのをやわらげ、うがいをすればますますその作用は弱まります。

では、気管支に到達したベコタイドはなぜカンジダ症を引き起こさないのでしょうか?これは単に量の問題です。スペーサーをしようした場合でも1噴霧の高々10%程度しか気管支に入っていかないとされています。しかも、気管支は末梢に行くに従って無数に枝分かれしていますので、合計の表面積は相当なものになります。人間の肺の表面積はテニスコート1面に相当するといわれていますので、すべての気管支粘膜の表面積はそれに匹敵する程度と考えられます。高々10%の量のベコタイドがテニスコート全面に散布されるわけですから、単位面積当たりのベコタイド量は、咽頭粘膜とは比較にならないくらい小さいと考えられます。ベコタイドの驚くべき点は、その程度の量でも十分に気管支粘膜の炎症を抑える効果があるという点です。


Q:不適切な吸入ステロイドの長期使用は?
(内科・皮膚科開業の先生より)

<質問>
ステロイド吸入は非常に有効な治療法の一つかと存じます。皮膚科には不適切なステロイド外用剤療法のなれのはてといったようなひどいアトピー性皮膚炎の方が相談に来ることがあります。皮膚と気管支は連続しておりますので、長期の不適切なステロイド吸入療法を続けた場合、気管支はどうなるのでしょうか?

<応答>
喘息に対する全身性ステロイドでは、医師の指示を無視した中途半端な長期使用の場合は、確かに先生のご心配されるような全身性の副作用が出てしまいます。

しかし、吸入ステロイド(ベクロメタゾン)には、咽頭カンジダ症以外は、不適切な投与がなされると気管支がどうなるかに関しほとんど報告がないのです。これは通常の吸入操作では、副作用を引き起こすほどの高濃度の吸入ステロイドが気管支粘膜に直接到達することはあり得ないと言い換えても宜しいかと思います。スペーサーを使ってうまく吸入しても高々10%しか気管支には到達しないとされています。たとえば、気管内挿管されているような患者さんに気管支境下に直接吸入ステロイドを連日噴霧した場合は、咽頭粘膜と同じ様なことが恐らく起こるでしょう。また、ベクロメタゾンがもし肝臓で分解されなければプレドニンなどよりもっと重篤な全身性副作用が出てしまうことでしょう。この意味で、実際の吸入では、気管支粘膜の潰瘍化やカンジダ症など考えられる色々な副作用が実際はまったく起こらないのです。

吸入ステロイドの場合、不適切な投与とは薬剤が気管支に入って行かないような下手な吸入を指すと言っても宜しいかと思います。不適切な方法で吸入ステロイドが乱用されても、粘膜吸収された薬剤は肝臓を1回経由すると分解されてしまいますので、咽頭粘膜カンジダ症以外は、全身性副作用がありません。従って、不適切な使用法による乱用は、重篤な副作用も生じない代わりに気道炎症除去という主作用も生じず、無駄な操作を繰り返し薬剤を浪費しているだけということになっているようです。


Q:ベクロメタゾンの種類は?(開業の先生より)

<質問>
吸入ステロイドの有効性は良く理解できました。さっそく常備薬として薬屋に発注したいと思いましたが、ベクロメタゾンにはどのような種類がありますか?

<応答>
ベクロメタゾンの商品名ですが、現在出回っております一般的なものには、ベコタイド(日本グラクソ)、アルデシン(シェーリング・プラウ)、タウナス(日研化学)があります。ベコタイドには、50と100があり、それぞれ1噴霧で50マイクログラムと100マイクログラムの薬量が噴射されます。アルデシンとタナウスは50マイクログラムのみです。現在は、ベコタイド100の方が最も一般的かと存じます。投与量は1日400マイクログラムが標準的になっており、必要に応じて3〜4倍くらいは増量して差し支えございません。

吸入ステロイドはただ吸っただけではなかなか効果が得られません。お忙しい診療の中で、先生ご自身が吸入方法を1人1人の患者さんにご説明されるのは大変な時間のロスになりますので、メーカー側から吸入方法のビデオやパンフレットなどをお取り寄せになり、職員や薬剤師の方の協力も得て、患者さんに指導されては如何かと思います。


Q:吸入ステロイドの回数を増やす?(小児科医より)

<質問>
私の専門は呼吸器ではありませんが、吸入ステロイド(ベクロメタゾン50)を1回3吸入を1日2回していて徐放性キサンチン製剤を500mgか600mgし、メプチンエアーを1日2回くらいしていても、全然コントロールされていない中学生の女の子がいましす。吸入ステロイドの量が少ないのでしょうか?もっと回数を増やすべきでしょうか?

<応答>
吸入ステロイドが効かない場合には、“如何に効かせるか”に努力を注いで下さい。

1番多いのは、吸入ステロイドを発作止めと勘違いし、発作時に効かないからと途中で止めてしまったり、ステロイドであるとの恐怖心のために吸っていると嘘を言う場合です。これは、主治医の説明に問題があります。

本当に吸っていても効果がない場合には吹い方が悪いのです。(1)スペーサーを使う、(2)ゆっくり吸入する、(3)息をこらえる、これが3原則です。うがいは副作用防止に必須です。

これをきちんと正しくやっているのに効かないのは、発作を起こしていて、気道が細くなっているために、吸入薬剤が患部まで達しないからです。気道が細くなっている原因は、発作の頻発、痰の貯留、高度な気道炎症の存在などが考えられます。これらを除かずして、いくら正しい吸入をしていても、無駄な操作をしていることになり、ほとんど効果は得られません。

発作が頻発しているときは、気管支拡張剤を吸入してから吸入ステロイドを吸う。水分補給やネブライザーなどで去痰を行ってから吸入ステロイドを行う。高度な気道炎症が存在しているときは、10日から2週間の一定期間、全身性ステロイドの力を借りなければなりません。

気がついて欲しいことは、いずれの処置も“吸入ステロイドを如何に効かせるか”の1点に集中していることです。苦しいから行う気管支拡張剤の吸入、去痰のネブライザー、ステロイドの点滴ではないことです。先手を打つことこそ喘息の発作予防になるのです。

中にはこれをきちんとやっても良くならない喘息患者がいます。しかしこれらの方は、決して吸入ステロイドが効かない体質であるのではなく、気道炎症が鎮静化するまでに最も必要な“気道の安静”が保てないことです。仕事が忙しい人、子どもで言えば部活や勉強で忙しい場合です。これを“社会的難治”と呼んで治療法の確立していない他の難治性疾患とは区別しています。気道の炎症を取るまでに一定期間、気道安静を保たなくては、喘息は絶対に良くならなのです。逆に、この気道炎症が完全に取れると、無理をしても発作どころか何ともなくなることが多々あるのです。