私が以前呼吸器内科医として患者様を診ていた頃、ICU管理で重症の呼吸不全患者様を診るためにICUを煩雑に訪れなければなりませんでした。その都度スリッパに履き替え、白衣を脱いでガウンに着替え、キャップとマスクを装着しなければなりませんでした。生来怠け者である私はそうした決められた行為がとても面倒に感じていましたが、自分が持ち込んだ菌が原因で患者様が重症感染症を起したのでは申し訳ないという思いで、その方式に従っていました。
しかし、昨今そうした慣例的行為の中にはまったく意味のないものがあり、それらはコスト・パフォーマンスの観点から廃止しようという動きがあります。我々が念のためにとか、昔からやっているから、という行動の中にはエビデンスがないものがあるのだ、ということを教えてくれています。
日常の検査業務にも当てはまる事例があります。私が室長をしている細菌検査室では、これまで腹水や胆汁など特定の検体は、主治医がオーダーしなくても嫌気性培養を行うシステムになっていました。以前のように検査をすれば即収益につながる時代であったなら問題はなかったでしょう。しかし、現在は検査をすればするほど支出が増して病院が損をする時代になっています。
そこで、「提出された検体すべてを嫌気性培養した場合、どのくらい陽性になるのだろうか」について調べてみたところ、ある臨床科ではドレーン排液中の嫌気性菌の陽性率が164検体中2例と、1.2%しかありませんでした。臨床科のドクターの多くは、このシステムを知らなかったために、検体は嫌気性培養専用の容器に適正に保存されないまま放置され、陽性率が低下した可能性もあります。この結果をみて、今後は「嫌気性培養は主治医からの検査オーダーがあった時にのみ実施する」こととし、医局長会議へ通知しました。
日常の検査業務の中には、他にもこうした無駄がたくさん眠っている可能性があります。まじめに日常業務をこなすことはとても重要ですが、時には、何故この業務を行うのか、もっと楽になる方法はないか、他ではどうやっているのか、批判的精神を持って自分たちの業務を見直すことは必要です。エビデンスに基づいて無駄な業務を省くことでコスト削減にもつながりますし、それによって生まれた時間をうまく利用すれば、病棟や外来へ積極的に乗り出し多忙な医師や看護師の日常業務の一端を肩代わりできるようになるでしょう。そしてより良い患者サービスに貢献できるはずです。
|