岩手医科大学臨床検査医学講座

第2号 〜



トピックス

UpLRとは?

輸血検査室 田崎 哲典

 

 
血液製剤中に含まれる白血球の問題
 全血200mL中には約16億個の白血球が含まれており、様々な輸血副作用に関与しております。発熱性非溶血性反応、血小板輸血不応、白血球を介するウィルス感染(サイトメガロウィルス etc.)、輸血関連急性肺障害、虚血再潅流障害などです。輸血後移植片対宿主病は細胞成分への放射線照射が予防法として確立した現在、死亡報告例はありませんが、それまでは年間数十名が治療のための輸血で逆に命を落としていたと考えられます。
 以上は副作用ですが必ずしもそればかりではないようです。1973年、Opelzらの「輸血で移植腎の生着率が高まる」との報告以来、輸血による免疫能の変化と臨床への影響が検討されてきました。免疫能の低下で術後細菌感染症や癌再発、潜伏感染ウィルスの再活性化が起こり易いなどは問題点に属しますが、習慣性流産やCrohn病などの炎症性腸疾患に輸血(リンパ球)が有効との報告があります。また白血病の再発例に対してはドナーのbuffy coatの輸血が行なわれております。何れも議論が続いておりますが、相対危険度を出すには様々な因子(年齢、原疾患と病態、既往歴、手術法、併用療法、免疫能、輸血の質・量・トリガー、感染症、再発などの定義など)を考慮しなければならず簡単ではありません。

全保存前白血球除去(universal prestorage leukocyte reduction; UpLR)
 適応症例にはこれまでも白血球除去輸血が行なわれてきました。ところが1998年以降、カナダや英国を皮切りに全ての血液製剤を対象として保存前白血球除去が行なわれるようになってきました(UpLR)。その大きなトリガーがCreutzfeldt-Jakob disease (CJD)です。核酸を有しない感染性プリオン蛋白はヒトではCJDの原因とされ、種の間では感染組織の注入、食物の摂取で伝搬し、医原性CJD(凍結乾燥硬膜移植など)も知られております。問題は輸血で感染するかということです。ヒトの検体を動物に静注し感染させたとの報告はなく、疫学的調査でもCJDが輸血で感染したとの証拠はありません。しかし、ホストのBリンパ球が感染媒体となる可能性を示した動物実験報告があり、vCJD患者の虫垂や扁桃などのリンパ組織にはプリオンが見い出されております。そのためヨーロッパ諸国ではCJDに対する国民の不安を払拭するという意味において、コストや適応についての十分なコンセンサスもなく、理論的根拠のみでUpLRの導入が急がれました。英国保健省大臣の「輸血によるvCJD感染の危険が例え理論的でも、リスクの軽減が期待できることなら何でも行う。謝罪するよりはよい」というのが本音のようです。我国でも1999年に中央薬事審議会安全技術調査会でUpLRの推進が決定されましたが、実施に至っていないのが現状です。

 


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