岩手医科大学臨床検査医学講座

第5号 〜



検査情報 ◇

【1】 岩手医科大学附属病院における耐性菌の動向

細菌検査室・小畑 律子

 MRSAをはじめとする薬剤耐性菌は世界的に蔓延しつつあり、岩手医大においても現実的な脅威となっています。岩手医大における最近の耐性菌の分離状況を表に示しました。

2001年

2002年

2003年

2004年
 MRSA

799(246)

796(274)

748(287)

348(278)
 MRCNS

624(192)

479(165)

404(155)

206(165)
 PISP

054(017)

046(016)

069(027)

042(034)
 PRSP

022(007)

008(003)

013(005)

005(004)
 BLNAR

007(002)

007(002)

009(004)

011(009)
 ESBLs 産生菌


001(000)

009(004)

003(002)
 MBL 産生菌


002(001)

008(003)

004(003)
 MDRP

000(000)

001(000)

001(000)

000(000)
 VRE

000(000)

000(000)

000(000)

000(000)

1,506 (463) 

1,340 (462) 

1,261 (484)

619(495)

総検体数

32,478(10,000)

29,017(10,000)

26,033(10,000)

12,511(10,000)

※ 本院, 歯学部附属病院, 循環器センター, 花巻温泉病院を含む、 2004年のみ1月から6月まで、
 (カッコ内)は提出件数10,000件あたりに換算した分離数

 MRSAの分離株数は年々減少していますが、検査部へ提出される検体数も年々減少していますので、検出検体総数で補正すると耐性菌の割合は増加していることがわかります。Stahylococcus aureusの中のMRSAが占める割合は60〜70%でほとんど変化がありません。最近、院内で問題となっているメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生菌は、2002年に初めて検出されて以来、現在まで15例が分離されました。MBLやESBLs産生菌は、岩手医大の場合、重篤な疾患や免疫力が低下した患者様に多く、レスピレータや尿道カテーテルのデバイスの留置がされていました。これらの耐性菌はほとんどの抗菌薬に抵抗性があるため、治療が困難になる場合があります。また、耐性菌の遺伝子はプラスミド性のため、菌種を越えて菌から菌へと伝達されるため院内感染の原因となり注意が必要です。薬剤耐性菌を増加させないため院内抗菌薬適正使用ガイドラインに基づいた適切な抗菌薬を使用し、院内感染対策基幹マニュアルに基づいた接触感染予防策の徹底が必要であり、院内感染防止のために病院全体で取り組んでいくことが今後ますます重要と思われます。

表の略号

 MRSA
 MRCNS
 PISP
 PRSP
 BLNAR
 ESBLs
 MBL
 MDRP
 VRE
(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
(Methicillin-resistant coagulase negative Stahylococcus メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)
(Penicillin intermediate Streptococcus pneumoniae ペニシリン中等度耐性肺炎球菌)
(Penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae ペニシリン耐性肺炎球菌)
(β-lactamase negative ampicillin resistant Haemophilus influenzae β-ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィルス属)
(Extended-spectrum β-lactamase拡張型β-ラクタマーゼ)
(Metallo-β-lactamase メタロ-β-ラクタマーゼ)
(Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa 多剤耐性緑膿菌)
(Vancomycin-resistant Enterococcus spp バンコマイシン耐性腸球菌)



【2】 腎機能検査, 尿検査に関する最近の話題

生化学検査室, 尿検査室・中居 惠子


☆creatinineの測定と糸球体濾過値 ...................................................................................................................................................................


 日常的に測定される血中のcreatinine濃度は糸球体濾過値(glomerular filtration rate; GFR)の中等度〜軽度の低下では明らかな上昇を認めず、特に一回の測定値からGFRの低下を確実に判定するのは難しい。これは初期の腎機能障害を見落とす結果にもつながる。そこでGFRを測定する必要が生じる。GFRの測定は蓄尿を行い、clearance法を用いるのが一般的である。日本では理想的な物質であるinulinの使用が認められていないためチオ硫酸ナトリウムclearanceとcreatinine clearance (Ccr) が行われるが、前者はチオ硫酸ナトリウムを経静脈的に投与する必要があるため、後者のCcrがもっぱら行われているのが現状である。
 ここ数年来のcreatinineの測定法の改良に伴うcreatinine値とCcr値の変化について述べておきたい。creatinine 濃度の測定法にはJaffe'法と酵素法がある。Jaffe'法による血清creatinineの測定ではcreatinine以外の非特異的反応物質(non - creatinine chromogen ; NCC)が共に測定されるため真のcreatinine濃度より高い値をとる。酵素法によるcreatinineの測定は複数の酵素を用いた測定系であり、Jaffe'法より特異性が高く、酵素の特異性の向上等により測定値が低下しているとされる。岩手医科大学中央臨床検査部の血清creatinineの臨床参考範囲はJaffe'法を用いていた頃の0.8〜1.7 mg/dl に対して現在酵素法で0.4〜1.1 mg/dlとなっている。尿中のNCCの存在は問題にならないため、酵素法を用いた場合、尿中creatinine濃度×尿量(ml/min)/血清creatinine濃度で求められるCcrはJaffe'法を用いた場合より高値となる。われわれが健常人34例で調べた酵素法によるCcrは114.8±16.6 ml/minであり、79.1から146.3 ml/minに分布していた。creatinineは尿細管で一部分泌されるためJaffe'法を用いた場合はむしろ血清creatinineのNCCによる誤差を相殺し、真のGFRに近い値となる。腎機能障害が進むと、creatinineの尿細管での分泌が増加すると考えられ、これもCcr値に影響を与える要因となる。現行でのCcrの解釈にはこのような背景の考慮が必要となる。


☆自動分析装置による尿中有形成分(尿沈査成分)の検査 ............................................................................................................................

 尿中有形成分の自動分析装置が開発され普及してきている。flowcytometry を基本原理としており、現在わが国で使われているものには、2つのタイプがある。一つは蛍光染色した尿試料にレーザー光を照射し粒子の大きさと蛍光の情報から分析する方法であり、他の一つは粒子画像パターン認識により分析するものある。尿沈渣の自動分析装置による解析はすべての成分を確実に認識するといった点では鏡検による分析に及ばないが正常検体をふり分け、問題のある検体に鏡検を行うことによって検査の迅速化、効率化をはかることができる。臨床における必要性を考慮した用い方をすることによって果たす役割は大きいと思われる。岩手医科大学中央臨床検査部ではまだこの機械は使用しておらず、すべての尿沈渣検体を鏡検で分析している。


04

Contentsへ戻る


教育方針講座スタッフ研究テーマ業績集検査室の紹介お知らせ