岩手医科大学臨床検査医学講座

第5号 〜



医療支援の現状 ◇

【1】 オーダーメイド医療実現化プロジェクト

オーダーメイド医療実現化面談室
メディカルコーディネーター・佐々木さき子

 

 オーダーメイド医療実現化プロジェクト開始から10ヶ月を経過しましたがプロジェクトとの関わりを検査技師の立場で振り返ってみました。
 プロジェクトのことは昨年6月メディカルコーディネーター(MC)講習会受講の打診があった際に知りました。MC講習会で遺伝子取り扱いの倫理指針に基づいたIC取得手順、1対1のロールプレイによる面談練習、指紋認証による臨床システムの使い方を学びましたが、実際の運用面はそれぞれの施設にまかされており当初はその体制づくりに追われました。業務は患者誘導、IC取得、採血、カルテからの患者情報入力(臨床情報、検査、処方、副作用)など多岐に渡り、薬剤師、看護師、臨床検査技師の共同作業は必須の業務体制だと思われました。
 プロジェクトの臨床情報シートとカルテの照合ではそれまでの自分の知識(主に血液学、輸血学)の出番はあまり多くなく、他の検査室の内容を確認するために奔走する中で感じたことは、オーダリングの結果報告画面や報告書を情報の受け手側として見た時の不便さでした。例えば単位の表示が無い部分があることや、オーダー画面、データ表示画面、報告書の項目(略号)が一致していないことなど、紛らわしい点があり、これらは次期システムでは充分注意していく必要があると思われます。
 今年の6月にプロジェクト事務局から、「造影剤及び放射性同位元素を使用後24時間は採血しない」という通達がでました。通常の診療では問題にならないのか調べたところ、院内のRI検査で使用している放射性同位元素(125I)は現在院内で行われているシンチグラフィでは使用されていませんでしたので、この問題は該当しないことがわかりました。      
 また他の職種の内容にも関わる中で、薬剤の処方に省略を交えた記載の場合があることを知りました。患者様に直結し、複数の職種が関わる情報がそのような記載であることに驚きました。
 10ヶ月経過した現在もプロジェクトのことを知らないという声がありますのでさらに広く職員の皆様や患者様にプロジェクトを認知していただく活動が今後の課題と考えております。改めて簡単にご紹介しますと、プロジェクトはオーダーメイド医療の確立(個人の遺伝情報に応じた医療の確立)を目的として、遺伝情報と疾患の原因、薬の効果、副作用との関係を30万人の試料、データを基に明らかにし、新しい診断法、治療法を開発します。岩手医大は文部科学省の支援を受けて全国8医療機関のひとつとして参加し、充分な説明の基に同意いただいた患者様から採血した検体をバイオバンクジャパンへ送っています(公式HPもご参照ください。http://www.biobankjp.org/)。
 「自分は献血できないので協力できることが嬉しい。」患者様のこの言葉を聞いてから同意取得の目的だけでなく患者様にはプロジェクトの情報を知っていただく必要があると考えています。ドネーション(見返り無き提供)であるにもかかわらず協力して下さった患者様の期待に答えるためにも、今後とも努力して参りますが、全ての職員の皆様の尚一層のご協力をお願いいたします。


【2】 不妊外来に出向して

産婦人科外来・昆 理子

 

 早いもので私が産婦人科外来に出向してから1年8ヶ月が経ちました。
平成14年10月ごろ、不妊外来担当の先生から「不妊治療に従事する検査技師を中央臨床検査部から出して欲しい」というお話をいただきました。先生からの要望はできれば胚培養士(エンブリオロジスト)としての仕事だけではなく、超音波検査やカウンセリングにも携わってほしいということでした。患者様の診察時間内は外来で尿検査や経膣超音波検査、そして精液検査、人工受精、体外受精がある時はそれを優先し、不妊相談外来がある日は先生と一緒に患者様の話を傾聴し、月に一度の体外受精教室(pm6:00〜7:30頃まで)では患者様の接待を行ないます。
 しかしはじめは、自分から希望したとはいえ、岩手医大に就職して20数年間、ずっと検体検査部門で過ごしてきた私にとって、患者様とうまく接していけるのかが少々不安でした。特にカウンセリングは未知の分野です。技術を持ってカウンセリングにあたるという方向も一つのカウンセラーのあり方ではないか、との先生のお考えでした。現在は、要望にお答えできるような仕事はまだ充分にできていませんが不妊に悩み追い詰められた患者様が先生とお話ししている間に穏やかな顔に変わっていく様子や、妊娠がわかってとてもうれしそうにしているご夫婦の姿をみると検体検査では味わえない喜びを感じます。
 高度不妊治療を行なっている多くの病院では臨床検査技師は、胚の培養を主に行なう、またはホルモン等の血液検査を行なう、あるいは超音波検査だけを行なう、のように各分野に分かれていることが多く、当病院のようなケースはまれだと思います。患者様と顔を合わせながら卵子あるいは精子を扱うということは、とりわけ人工受精では、患者様を取り違えないための良策になっているのかもしれません。
 平成9年、岩手県の助成を受けて高度不妊治療センターが中病棟5階に開設され、以後7年間殆ど器械の故障もなく順調に運営されてまいりました。しかし器械の消耗を考えると買い替えの時期に入ってきていると思われます。先日は胚の培養を行なっているインキュベーターが1台ガス制御不能になり、代替品の対応をお願いしました。機器, 試薬の取り扱いにあたっては、精度管理を充実させ、良好な胚や精子を患者様に提供できるようにメンテナンスしていきたいと思っております。
 子供を欲しいという願いは、夫婦にとってはとても切実です。元来ヒトDNAには子孫を残すための遺伝子が組み込まれていると聞きました。子供が欲しいという願望は至極あたりまえの感情です。一人でも多くの方がかわいい赤ちゃんを抱っこできるよう、研鑽をつんでいきたいと思います。



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