岩手医科大学臨床検査医学講座

第8号 〜



トピックス ◇

「RTPとは?」

臨床検査医学・三浦 吉範 

 

 栄養管理はすべての疾患治療のうえで共通する基本的医療のひとつです。栄養管理をおろそかにすればいかなる治療も効果を発揮できません。この栄養管理を症例個々に応じて適切に実施することを栄養サポートといい、これを医師や看護師、薬剤師、栄養士、そして検査技師らがそれぞれの分野の専門的な知識と技術を生かしながら実施しる集団がNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)です。本院でも2004年 11月よりNSTが稼働しております。臨床検査部からも、現在2名の技師がNSTのスタッフとして参加しております(検査部便り第6号に掲載)
 NSTでは「NST依頼」を受けると、まず患者さんの栄養アセスメント(評価)を行います。 栄養アセスメントにはSGA(Subjective Global Assessment:主観的包括的評価)とODA(Objective Data Assessment:客観的栄養評価)があります。SGAは体重変化や食事・消化器症状・病状の簡単な問診と身体状況、活動状況のチェックから構成されています。ODAは身体測定(体重、身長、上腕三頭筋部皮下脂肪厚、上腕周囲径、上腕筋肉周囲経、握力)や臨床検査値(ヘモグロビン、白血球数、%リンパ球数、アルブミン、アミノ酸パターン、コレステロール、中性脂肪、各種ビタミン、微量元素、酵素、ホルモンなど)に基づく客観的な評価を行います。このような栄養アセスメントを参考にし回診を行った上で、基本的な栄養プランニングを作成し主治医に提言をします。
 最近のNSTの広がりは栄養アセスメントにおいて大きな変化をもたらそうとしています。それは栄養状態の評価だけでなく、栄養療法の効果を評価する必要性が高まってきていることです。すなわち、アルブミンを代表とする従来の指標ではリアルタイムな評価は困難になってきました。そこで現在の栄養状態に鋭敏に反応する半減期の短いRTP(Rapid Turnover Protein )が注目されています。このRTPを用いることでこれまで評価することが困難だった短期間で発症した栄養障害の判定や、現在実施している栄養管理が有効に実施されているか否かをリアルタイムで判定することが可能となります。RTPには、トランスサイレチン(TTR, 別名プレアルブミン)、レチノール結合蛋白(RBP)、トランスフェリン(Tf)があります(表1)。


 表1 栄養アセスメント蛋白            (中井りつ子,東口高志:蛋白代謝;RTP,臨床検査48・9,983-987,2004より引用)

蛋 白

略号

血中半減期
分子量(DA)

基準範囲
(mg/dl)

役割・過剰症・欠乏症

レチノール結合蛋白

RBP

0.5日

21,000

男 3.6〜7.2
女 2.2〜5.3
【役割】レチノール(ビタミンA)の輸送
【過剰症】腎不全、過栄養性脂肪肝
【欠乏症】ビタミンA欠乏症、低蛋白栄養状態、肝疾患、炎症

トランスサイレチン
(プレアルブミン)

TTR

1.9日

54,980

男 23〜42
女 22〜34
【役割】サイロキシンの輸送、
    RBPと結合しRBPの腎からの漏出を防ぐ
【過剰症】甲状腺機能亢進症、ネフローゼ症候群
【欠乏症】低蛋白栄養状態、肝疾患、炎症、感染症、FAP I,2型

トランスフェリン

Tf

7日

76,500

男 190〜300
女 200〜340
【役割】鉄の輸送
【過剰症】鉄欠乏性貧血
【欠乏症】低蛋白栄養状態、肝疾患、炎症、感染症

アルブミン

Alb

21日

66,000

3.5-3.9〜4.9-5.3
(g/dl)
【役割】血漿の膠質浸透圧維持、物質運搬機能、酸化還元緩衝機
    能、生体へのアミノ酸供給
【過剰症】下痢、嘔吐、熱射病
【欠乏症】低蛋白血症、低アルブミン血症


 RTPは体内で代謝亢進や炎症があると低くなるので、栄養障害による低下か蛋白異化による低下かを鑑別する必用があります。また、すべてのRTPは肝臓で合成されるため、肝機能障害でも低値になります。
 本院の臨床検査部でも、NST対象患者についてRTPのうちトランスサイレチンの測定(免疫比朧法)を開始しており、栄養管理の面でより有用な情報の提供が行えるようになりました。検査部はNSTの中で、とくに栄養アセスメントにおいて重要な箇所を担っています。RTPのみならず日々の検査データにも注意を払い、データの変化をいち早く提供することでNSTおよび医療の向上に努めて行きたいと思っています。



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