f浜六郎医師からの回答2

山形大学医学部臨床検査
呼吸器内科 諏訪部章 様

丁寧なMAIL有り難うございました。

●番号のついている部分からお答えするよりも、やはり、基本的な考え方について整理しておいた方がよい点が相当ありますので、その点をまず、指摘しておきたいと思います。

『一連の薬害オンブズパースンの動きに対して、こうるさい奴がいるがいったい誰なんだ? と日本アレルギー学会名簿などをお探しになられても、残念ながら名前は載っておりません』

→「こうるさい奴」というような思いはありません。このような議論をされる方は、むしろ真面目で善意の方ばかりです。ただし、マスコミに対して、やや過剰な(過敏な)反応を起こす方は多いし、誤解による発言も多いので、それにお答えしていくことは少々手間ですが、これは、このような重大な問いかけをした者の責任と思って、お答えしております。どこのだれがそのようなことを言っているかというような身元には一切興味はありません。具体的なご意見の内容が重要なだけです。

『しかし、平成9年1月、出張先のある病院で、国立療養所から半ば逃げ出してきた小学5年生の喘息児を診察したことがきっかけで、インターネット上で...。簡単にその経緯を述べさせていただきますと、その児は発作が繰り返される状況の中で鍛錬療法などを強いらるという旧態然とした加療を受けていたのです。私は最初、これは特殊なケースであると信じて疑いませんでした。しかし、そのことがきっかけとなって私は小児喘息治療の最近の状況について勉強しました。小児喘息関係の雑誌…』

→私も、卒業間もないころの、アルバイト先の病院で、経験した例がきっかけで、添付文書の情報伝達に関するンケート調査を実施したことがあります。貴方が、そのような経験をされてから、喘息について調べられたということは、それだけ、患者さんのことを思い、勉強し、研究をしようとする姿勢があるからと、感服いたします。

『信じられないことに、私の診た喘息児は特殊施設からの逃亡者ではなく、今の日本の少なくとも標準的な治療をしている施設からの逃亡者であったのです。その後も私は、小児科領域にも吸入ステロイドを広めなければならないと意気込んで小児科の先生の前で、吸入ステロイドの演説をぶったことがありました。ところが、その反応は冷たいものでした』

→日本の専門家(大家、権威者と言われる人も含めて)というのはどこもこの程度です。驚くに足りません。皆が貴方のような、感度のよいセンサーと、調査、研究する熱心さがあれば、もっと変わるのですが、関心のあるのは、権威をいかに保とうかということに興味がある人が、権威者になりやすい構造ですから。これこそが問題です。

『浜先生は小児喘息のお子さまをお持ちと聞きました。吸入ステロイドをお使いですか? もしそうだとしたら、それは小児科の先生に相談し処方されましたか? それはご自分の判断ではなかったですか?』

→私の娘が喘息になったのは、小学校前でした。20年近く前のことです。大阪の南、堺のとなりの松原に住んでいた頃のことです。その当時大阪府下でもっとも大気汚染がひどかった地域でしたから、小学校に上がる前に、大阪府下で当時最も汚染の少なかった北の方の箕面に引っ越したのです(1976年暮れ)。恥ずかしいのですが、私は、その頃までたばこを吸っていましたが、引っ越しして間もなく、煙草もやめました。転居後1年くらいしてからずいぶん発作は少なくなり、間もなくほとんど発作は起きなくなり、小学校3年ころからは全く発作はありません。中学校の頃には走るのも速い方でした。その娘もこの春結婚しました。  吸入のステロイド剤はほとんど知られていませんでしたし、吸入β刺激剤もまだ、イソプロテレノール製剤だけでした。これは吸入による害が有名になっていましたから使いませんでした。サルタノールインヘラーが発売になったのが、1976年ですが、これも使いませんでした。

私が娘にしていたことは、テオフィリン製剤とβ刺激剤(イノリンあるいはサルタノール)と、排痰を促すための、蒸気の吸入です。これを発作時に根気よくやると、コロッとした痰がでて、出るにしたがって、呼吸が楽になったことを鮮明に覚えております。

発作のない普段は、2才年下の弟も連れて、早朝に一緒に家の周辺を軽くジョギングしました。ご指摘のとおり、鍛練というような姑息な手段でしたが、これは、親子で喘息に立ち向かうという、それほど大袈裟なものではないのですが、何か一緒にやるというような意味あいでやっていました。しかし、ジョギングなどは子供の体調をよく見ながらやらないとかえって危険になることもありますので、他の人にはそれほど勧められません。少しやりすぎると、exacise induced asthma(註:運動誘発喘息)を引き起こすからですが、まさしくそのようになるかもしれないという寸前までいったこともありました。

娘がそのようなことでしたから、喘息の治療の勉強はかなりしましたし、自分でも喘息の患者さんは多数受け持っていましたから、小児科医にはとくに相談しておりません(入院したときにはもちろんお世話になりましたが)。

『若輩の私が申すのは大変恐縮ではありますが、内科医であります浜先生が吸入ステロイドは小児科領域でも浸透しているとお考えでしたらそれはとんでもない認識違いであると思います。それなら私は寄稿集など作ろうとは考えませんでした。小児科の先生の中には、吸入ステロイドの普及に疑問を投げかける方もたくさんおられるのです。浜先生ら薬害オンブズパースンの方々は恐らく、日本小児アレルギー学会の喘息死調査委員会の報告を受けて動いたのだと思いますが、この学会としては必ずしも吸入ステロイド普及の方向性を示しているとは思えません。吸入ステロイドを普及させ一日も早くベロテックを中止する方向に動いている薬害オンブズパースンは、この動向をご存じなのでしょうか?』(註:メールの内容を一部変更して掲載)

→日本小児アレルギー学会の喘息死調査委員会の報告を受けて動いたということはありません。その委員会から薬害オンブズパースンに何らかのアクションがあったとも聞いたことがありません。全く関係のないことです。物事の動きを類推あるいは仮定にもとづいて判断しないほうがいいと思います。(註:メールの内容を一部変更して掲載)

ベロテックの危険を訴えてそれを中止させるなら、代替薬として、とくにステロイド剤と、サルブタモールなど、本当にβ2選択性の高いβ2作動剤に緊急避難し、その後、これらの薬剤にも頼らなくてもよいように本格的な予防方法を勧めるべきですから、その意味で、ステロイド剤吸入の普及は絶対に欠かせません。

このことは、現在の喘息治療の知識から、だれもが帰結する、当然の結論ですから。

しかし、小児科医でとくにステロイド剤の普及が容易でないというのは、分かるような気がします。まだ問題として大きくはなっていませんが、たしかに、小児にステロイド剤を使用すると成長障害の問題もありますし、アトピーにステロイド剤を使用してステロイド皮膚炎になりなかなか離脱できなくなるといった問題が生じていますので、気管支粘膜だけは、そのような副作用を起こさないとは限らないわけで、問題視する理由はあるからです。

長期的にみれば、世界的に普及しているステロイド剤の吸入も、しばらくすれば、アトピーとステロイド剤のような問題が出て、反省期に入る可能性もあると思いますが、今は、それよりも、喘息死の増加の原因として最も可能性の高いベロテックを中止させる方がはるかに大切であると考えます。ステロイド剤の問題は将来はあるとしても、すぐ死亡につながるような問題ではないと思いますので、当面はステロイド剤吸入の普及に力を入れるべきだと思います。

『吸入ステロイドの普及を計ってベロテックに依存している状態から脱却させなければならないという先生のお考えは、私自身これまで苦労しながら行ってきたことでもあり、心より賛成しますが、実際にはそんなに簡単に目標が達成するものではないと認識しております。そのような現実を前にとにかくベロテック販売中止とは、危険すぎる行為であると思うのです』

→ステロイド剤吸入の普及の前に、ベロテックの中止というようには言っていません。あくまでも、同時にすべきであると思います。したがって、ややあいまいに、猶予期間をおいて、中止すべきとしているのです。

しかし、中止するというせっぱつまった状況がないかぎり、真剣に考えてもらえないのが実情ですし、実際にあるなら使おうという人もけっこういるわけですから、「ベロテックは中止するようにもっていくために、早くステロイド剤の吸入で、ベロテックの必要量を少なくしましょう」と患者さんにも言いやすいですし、医師にも説得しやすいのではないでしょうか。

ステロイド剤吸入の普及と同時にというよりも、ベロテックを中止するという背水の陣を引いて、ステロイド剤吸入の普及を図る方がずっと早く普及できるし、実際にベロテックによる突然死の危険を少なくすることができると思うのですがいかがですか。

『動物実験での心毒性はとてつもない高用量での結果です。2、3吸入したって死に至るわけはありません。危険な薬剤でも適切に使用すれば副作用よりも主作用の方が大きいのはどの薬剤でも同じことです。元々薬なんてそんなものではないのでしょうか?』

→ある医学雑誌者の編集の方からも同様の質問を受けました。「ベロテックのラットを用いた毒性試験について。経口急性毒性試験や経口亜急性毒性試験で用いられた薬剤量(フェノテロール600mg/kg)は、人間(体重50kg)への投与量に換算すると30gに相当します。一日経口臨床用量の4,000倍、エロゾルだと一日1500ボンベの使用に相当しますが、実際には考えられない大量投与での安全性についてはどう考えるべきなのでしょうか」というものでした。ほぼ同じ趣旨だとおもいます。


この動物試験データの解釈も、毒性試験のなんたるかを知らない人の言うことです。600mg/kg で20%の突然死ということは、この投与量での突然死亡率の95%信頼区間の上限は、40%です。たとえ、臨床用量の4,000倍ということでも、40%の人が死亡するならこれは大変なことです。代謝はたいてい動物の方がよいので、この10〜100分の1程度の投与量と考えるべきです。もっと少量でも死亡する人はあり得るからです。

150mg/kg を30匹に投与した場合には突然死は認められませんでしたので、突然死についての安全量は一応150mg/kg ということになりますがこれはあくまでも30匹での話です。これで臨床用量の1,000倍ということになりますが、多数に投与して突然死が出ない保証はありません。

なぜなら、心筋障害性については、臨床用量の2倍でも安全とは言えないのですから(イヌで)。心筋壊死は用量を増加するにしたがって、その頻度も程度も増します。用量反応関係が明瞭です。ということは、150mg/kg でも、投与匹数を増やせば、突然死は起こりうることを意味します。要するに、ベロテックの場合、安全量は決定できていないのです。

「一日経口臨床用量の4,000倍、エロゾルだと一日1,500ボンベの使用に相当しますが」というような、ど素人のような質問はしないで下さいと、その質問者におっしゃって下さい。時間の無駄です。しかし、それを真面目にご質問しておられるのだとすれば、そのような発言をされる方は、悪い考え方に毒されているということになります。その意味では、やはりお答えしておいた方がよいのかも知れません。

40%もの人が突然死するような用量は、それは「実際には考えられない大量投与」で、臨床では使用するはずがありません。実際に臨床で使用して、何か問題が起きるのは、何千人〜何万人に一人といったものでしょう。このような多数の動物を使った試験はできないから、大量を投与して確実に出る毒性を見るのです。人では考えられないような大量で出現する毒性は、人に多数使用すれば、少数でも(実際に不整脈の素因のある人では常用量を使用しても)重篤な死亡につながるような不整脈を生じて死ぬ場合があるのです。

そこで、普通動物試験では安全係数として、50〜100倍程度は考えておかなければならないのですが、その意味では、まったくベロテックの危険性は明らかです。イヌでは臨床用量のたかだか2倍量でも、心筋の障害性は否定できなかったのですから。


このお答えで、お分かりいただけると思いますが、いかがですか。臨床医が、毒性試験の意味について考えるということはほとんどないと思いますが、臨床使用した際に人でどこに毒性が現れるかを見るためには非常に有力な手段ですから、ぜひとも、見る目をつけておかれるとよいと思います。


●前もってのコメントが長くなりましたが、番号の質問にお答えいたします。

(1)“一定期間の後のベロテック販売中止”の“一定期間”とはどのくらいの期間をお考えですか?これは、私の吸入ステロイドが普及していない実情に対する意見を踏まえてお答え下さい。

→先に申しましたように、特別一定の期間を設けると言っているのではありません。普及の程度とか、ベロテックの危険性を考慮して、十分に使用が減ってきたとかいろいろの判断材料を総合して考える必要があるようには思います。しかし、一応の目安としては、数カ月間の猶予期間があればよいのではないかと考えています。

その猶予期間こそ、ステロイド剤の吸入療法を普及するためのチャンスであると思います。その意味で、もっともっと、このような論議を、個人的なメールのやりとりではなく、公開の場でやる必要があると思います。

(2)もし、厚生省ならびに日本ベーリンガー社に何の動きもない場合、薬害オンブズパースンは次にどういう行動を起こされるおつもりですか?

→もっともっとマスコミ、学会、パソコン通信などを通じてキャンペーンをすべきと考えていますが、それほど具体的には考えていません。今後の進展を見て判断することになると思います。

(3)ストメリンDについてはどう考えますか?

→中止すべきです。患者さん向けの解説書にも、ベロテックよりも、心毒性の強い物質として、位置づけています。現在ストメリンDやメジヘラが問題になっていないのは、消費量が少ないからだと思います。その点についてもあらゆる機会をとらえて、説明しています。

先にお送りした、日経メディカル用の記事にもその点はふれましたし、世界的に喘息死が問題になったのは、イソプロテレノールが問題だったという点を、これもあらゆる機会を通じて述べています。

日本ではいまイソプロテレノールの問題点は相当認識されていて、それほど喘息死の増加に影響を与えていないと考えられましたので、あえてとりあげませんでした。(後でも関連して述べます。)

(4)今回の要求を提出されるに当たり、喘息専門医の意見をお聞きになりましたか? もし、可能なら匿名で結構ですので、その意見をお聞かせ下さい。

→喘息専門内科医:A先生(A病院内科)
 喘息専門小児科医:B先生(B病院小児科部長)
          C先生(C病院小児科医長)
 D医師(抗アレルギー剤評価問題の専門家)
 E医師(E病院小児科副部長)
その他、薬剤師、医師10数名で、検討した結果です。

それぞれの方々の意見は、これまでに出尽くされた意見の範囲内でした。もっとも驚かれていたのは、「ベロテックをメーカーの宣伝どおりに、β2選択性の高い薬剤と思っていたのに、データは逆に非常に選択性の低いものであり、心毒性の強いものだ」ということを知ったことだと異口同音に語っておられました。

(5)同様に今回の要求を提出されるに当たり、ベロテックを使用している喘息患者さんの声をお聞きになりましたか? それも、もし可能なら匿名で結構ですのでその意見をお聞かせ下さい。

→本人が喘息患者という人は入っていませんが、オンブズパースンの中には、子供さんが喘息患者の方がいます。この子供さんは救急車で運ばれて入院するなり酸素テントに入れられ一時は危ない目にあったという経験があるそうです。私の娘ももう20年近く前の話ですが、以前入院するほどの喘息をもっていました(前述)。

オンブズパースンで現にお子さんが喘息患者の方は、以前はベロテックを使用していましたが、ステロイド剤の使用は昨年の夏頃からだったとのことです。ステロイド剤を使用しはじめてからずいぶん発作が少なくなったとのことです。昨年の暮れの小児アレルギー学会で問題が指摘されてから、医師からベロテックを中止すると言われ、メプチンに切り換えていましたが、薬害オンブズパースンで検討するにともない、メプチンもサルタノールインヘラーに替えてもらい、ステロイド剤の吸入もスペーサーを使用するようになって、非常に楽になり、サルタノールインヘラーもほとんど使用しなくてもよい位になっているとのことです。ステロイド剤吸入療法の大切さを再認識し、早い時期に切り換えられてよかった、しかしできれば、もっと早ければよかったのに、とも言っておられました。薬害オンブズパースンの患者さん向けの解説書も非常に役立ったと喜んでおられます。

(6)この問題に反対意見を述べている医師は私を含めどのくらいおりますか?

→喘息専門医師も、一般医師も、「ベロテックは、β2選択性が他と同様に高いと言われているのに、ニュージーランドでも日本でも疫学的な調査結果は、すべてベロテックの危険を示しているのはなぜなのか」「なぜベロテックだけが?」と、不思議に思われるのも無理はありません。「なにか理由があるに違いない」とは思っても、実は私自身も不思議に思っていたのです。

しかし、インビトロの心刺激作用/気管支平滑筋弛緩作用を見、毒性試験でその心毒性を見てからは疑問が解けました。

「β2選択性が高い」というのは、誤りであり、ベロテックは、β2選択性が低く、心毒性が強い物質なのです。この点がすべての誤解の出発であったことが判明したので す。

(7)ベロテックを愛用している患者さんからの反応は如何ですか? と申しますのも、反対意見に対する貴団体からの返答の手紙が、形式化されていて非常にたくさんあるのではないかと考えてしまうからです。

→質問はもちろん、たくさん寄せられています。合計で150通前後に達します。しかし、ベロテックの使用中止に反対しておられるのは、合計でも14通でした。これらの方々に対して、あの説明書をお送りして、さらに、分からないからと、質問される方はほとんどありません。なおFAXでコメントを頂いているのは、医師からは貴方と、患者さんではZensoku Webを主宰している方からです。この方には貴方と同様、逐一疑問にお答えした結果、ほぼ納得して頂いけたと理解しております。

また、他の方についても、疑問があれば続けてご質問をいただくようにしていますので、その後、再質問がないということは、ほぼ納得していただいているのだと解釈しております。

また、NIFTYSERVE のFSKYA(喘息館)での議論も、批判に対してはすべてお答えし、今では全く疑問は出なくなりました。

このフォーラムを通読していただければ、議論のすべてがお分かりだと思います。このフォーラムには、A先生をはじめ、喘息治療に関して、本を書いておられる、F先生、G先生をはじめ、Hさん、Iさんなど、多数の喘息治療の専門家が参加しておられ、私および、我々薬害オンブズパースンの見解に対していろいろと批判をしていただきました。その批判に対して、真剣にお答えし、ほぼ皆さんに納得していただけたと考えております。

(8)今回のベロテック問題を薬害オンブズパースンとして取り上げることになったのはどなたのご提案、あるいはどのような情報入手経路でしたか? 差し支えなければその経緯をお聞かせ下さい。

→オンブズパースンの中心となった方からの提案でした。われわれのTIP誌でも以前取り上げていたことに注目されたとのことでした。その方の依頼によって、私を中心にTIP誌(医薬品・治療研究会)と、医薬ビジランスセンターJIPで検討を進めました。

(9)最後に、これまでの浜先生とのやりとりのすべてを、私のホームページ上で公開してもかまいませんか?

→結構です。ただし、載せるなら全文、無修正でお願いします。部分的なのは誤解を招くもとですから。(註:この後個人名に関する記載は匿名でよいとの許可を得ました)

●多分、全部ではないにしても、この間の議論は、ぜひとも、何らかの形で公開したいと考えております。直接名前を載せることはないと思いますが、代表的なご意見として、紹介したいと思いますが、そちらの方もよろしくお願いいたします。公表なり、本にするような場合には、前もって、関連のある部分には目を通していただき、了解を得たいと考えておりますので、そのおりにはよろしくお願いいたします。

●「寄稿集」を読ませていただいて、またご返事をと思いますが、残念ながら、9月の20〜22日にセミナーを準備することにここ1週間は専念する必要があります。そのような加減で、当分はお付き合いが難しいと存じますが、時間ができましたらまた、ご返事させていただきます。

●番号のついていない部分でもう2、3点コメントいたします。

『次にストメリンDの話をさせて下さい。ストメリンDはベロテックより心毒性が強いイソプロテレノールというβ刺激剤が入っているのに喘息死で問題にならないことも事実です』

→イソプロテレノールはベロテック以前に大問題になった物質です。日経メディカルの原稿にも書いてありますし、報告書にも書いてあります。(それとも日経メディカルの原稿は届いていませんか? 届いていなければ、失礼しました)また、NIFTYSERVEのFSKYA の議論でも再三出てきます。これらをきっちりとお読みいただければ、全部書いてあります。また、報告書に引用してある文献に十分目を通せば、そのあたりのたとはすべて解明できるはずです。

呼吸器疾患、喘息の専門家を自称するなら、その程度の勉強はきっちりとしてから質問をしていただきたいと思います。やや厳しいお答えですが、あえて言わせてもらいます。すでにお手元にお送りした報告書その他で十分に記述してあることを、繰り返しご質問されていることが相当あるので、あえて指摘させてもらいました。

『先生はストメリンDが喘息死で問題になっていない点をどうお考えですか? 私は、ストメリンDにはデキサメサゾンという強力なステロイド剤が入っていて、同時に気管支の炎症も取ってくれるからだと思います。つまりベロテックが乱用されて喘息死に至る患者さんが多いのに、ストメリンDの乱用と喘息死があまり取り沙汰されないのは、デキサメタゾンが気道の炎症を取ってくれるので喘息が悪化しないからに他ならないのだと私は考えます。これこそベロテック乱用が心臓死ではなく喘息の悪化による喘息死であることを証明しているのだと思います』

→このようなことはまったく証明の根拠にはなりません。イソプロテレノール単独のMDI「メジヘライソ」も発売されていて、それほど喘息死の増加には重大な関与をしていないようですから。もっと科学的な根拠が必要です。

『ベロテックのみでは気道の炎症が取れないために、その使用によって喘息自体が悪化してゆくからではないでしょうか? 例えば、もしベロテックにデキサメタゾンを配合した吸入剤があったとすれば、喘息死は問題にならないであろうと推測されるからです。ベロテック乱用によって心臓死がおきているとすれば、デキサメタゾンの有無に関わらず心臓死はおきるはずです』

→デキサメタゾンは含んでいないイソプロテレノール単独のMDI製剤の「メジヘライソ」もまだ発売されています。もちろんこれも発売を中止すべきものですが、これが問題になっていないのは、日本の喘息死の増加の原因とはなるほどには、発売数が多くはなく、使用量が少ないからだと考えられます。

『もちろんこれが喘息死した方の典型例ではないかも知れません。しかし、この子のいったいどこが心臓死だと言うのでしょうか? 明らかに喘息の状態が悪くなっているのだとしか思えません。しかもベロテックが原因だなんてどうしても考えられません』

→喘息がよほど悪くなっても、単に呼吸困難だけでは、ほとんど死亡するということはありません。PO2が30代前半、PCO2が170代で完全にCO2ナルコーシスを起こして、数時間経過した人でも、排痰がうまくいき、気管支拡張剤がうまく効いてくれば、人工呼吸器なしで、回復に成功したこともあります。私自身が主治医であった患者では、高齢者が喘息やCOPDで、長期の経過で徐々に悪化して死亡することはあっても、40代以下で、突然悪化して死亡した例は経験がありません。

ところが、このような酸素不足の患者が、以前からベロテックやイソプロテレノールを常用量していて、発作を生じてまたこれを吸入し、段々効果がなくなってきて、一回に吸入する量が増加していたとすると、酸素不足で心臓の被刺激性が高まっているところに、β1作用のベロテックが吸入されると、不整脈が生じやすくなります。ベロテックはQTCも延長します。心室頻拍から心室細動が生じるのです。動物での突然死もそのためと考えられます。喘息で気道が狭窄している場合には、いろいろと治療の手段がありますが、心室頻拍には抗不整脈剤がその瞬間に注射されなければ、助からないことが多いのです。それに、解剖しても、所見としてあるのは窒息している気道の閉塞所見だけで、大きな心筋梗塞でもあれば別ですが、不整脈は解剖しても全く分かりません。

ベロテックを使用していて、ときどきアダムスストークス症候群と思われる意識消失発作を生じた若い方が、その後突然死した例も報告されています。このような例は、確実な証拠は、まだないにしても、相当不整脈死の可能性が高いと思います。一度そのような目でもう一度、患者さんを見て下さい。もちろん、ベロテック以外のβ作動剤でもそのような例はあると思います。

私の患者では、ベロテックではありませんが、サルブタモールの内服を続けていた患者さんが、ある日突然心室頻拍(5連発)を生じた例があります。このような方は、たまたま心電図でとらえられましたが、気がつかない間に、突然死する可能性はあるわけです。 サルブタモールでもそのような例があるのですから、心毒性のより強いベロテックではさらにそのようなことが生じやすいと考えるべきです。

『母親の発言にもベロテックのことを悪く言っている表現など見あたりません。逆にベロテックは心の支えであったようにさえとれると思います』

→苦しい発作から救われるという意味で、最初にこのベロテックを使用されて発作が軽くなった経験があれば、有り難いと思うのはだれしもです。心の支えと思っていたのは最終的にも、安全で、生命を奪われることはないという保証があればこそでしょう。一時的にはよくても、命を奪われる危険が高いのであれば、多くの方は使用しない方が安全と思うでしょう。それに、実際に被害に会われた方は、非常なショックですし、裏切られた気持ちになっておられる方もおられるようです。そのような方から、FAXがかなり寄せられています。

『団体として行動が開始された今となっては後に引くことはもう不可能なのかも知れませんし、いつまでも平行線なのかも知れません。しかし、何度も言わせていただきますが、市民の声を代表する団体であるならば、もっともっと患者さんお声をお聞きになってからこの薬剤販売中止という要望書の提出を検討すべきではなかったか? あまりにも早計ではなかったか?と悔やまれてなりません。どうか、もう一度お考え直し下さいますようお願いいたします』

→団体として行動を開始したから、間違いに気付いても後に引けないということはありません。間違いならば、後に引くということも、すべきと考えています。「団体として行動を開始したから、間違いに気付いても後に引けない」という硬直した考えこそが、薬害を招いてきた原因ですので、私も含めて薬害オンブズパースンは、そのような考え方の対極にあるとお考え下さい。間違っていれば、何時でも訂正し、行動を改めます。

●いろいろ、申しあげましたが、貴方の勉強熱心なのはよく分かりますので、当方の根拠としている文献や、文章、NIFTYSERVEのFSKYA(喘息館)のやりとりなどを十分に読まれてから、なお疑問がありましたら、あらためてご質問して頂きたい、とぞんじます。

今後も、喘息患者さんのために、よく勉強し、研究して、よい医療の普及と実行に努力されることを期待いたします。

ご活躍をお祈り申しあげます。

医薬ビジランスセンターJIP
医薬品・治療研究会TIP
浜 六郎

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(10)浜六郎医師への意見書2

薬剤オンブズパースン
浜 六郎 先生

お忙しいところ、長文の回答を頂きありがとうがざいました。

前回の浜先生からの回答に返事のメールを送らないと、私が先生のおっしゃっていることを全部理解したと解釈させると困りますし、また「もし間違っているとわかったらいつでも後に引く」との浜先生のお考えを聞きまして、敢えてまたメールを送らせていただきます。

その前に確認しておきたい前提が3つあります。

1つめは、Zensoku Webの方の件です。先生の前回のメールで、「なおFAXでコメントを頂いているのは、医師からは貴方と、患者さんではZensoku Webを主宰している方からです。この方には貴方と同様、逐一疑問にお答えした結果、ほぼ納得して頂いけたと理解しております」との表現があります。もう既にご存じかもしれませんが、私はその運営者の方と密に連絡を取って、患者さんの声を拾っておりますが、彼に確認したところ、「全然納得なんかしていません!」と激怒していました。私は、このことは単なる浜先生の勘違いであることを祈ります。しかし、このようなことが他にもあって、先生が「もうメールがないからほぼ納得して下さったと理解しています」とおっしゃることすれば今後私は信じることができなくなります。

2つめは、最近インターネット上の応答は、字面(じづら)だけの応答で微妙な言い回しがうまく伝わらなかったり、相手の表情が読み取れなかったりで、数々の誤解を生むことが多々あると思います。私も今までの薬剤オンブズパースンや浜先生に宛てた抗議文の中には、先生始め皆さんの気持ちを逆撫でした表現があったかもしれないこと(実際にあったと思います)は、深く不徳の致すところと反省しております。しかし、浜先生の回答メールを読ませて頂いておりますと、先生もだいぶ感情的になっているなという感じを受けました。敢えて言わせていただきますが、今回の騒動で、我々現場の医師やベロテックを必要としている患者さんは「何でこんなことになったのだ!?」と大いに困惑し感情的になっているのです。それらの声に対して、冷静に説得しなければならないのは、この問題を提起した貴団体や浜先生の役目であり責任でもあると思います。それなのに逆にそちらが感情的になって回答してくるのでは、市民の支持など決して得られないと思います。私が不勉強だとしたらそれは真摯に受けとめます。しかし、薬剤オンブズパースンからの資料に目を通しそれでも納得できないから何度も同じ質問を繰り返しているのです(この点は後でも述べます)。つまり、そちらからの回答が不十分だから納得できないのに、ちゃんと資料に目を通してからと言われるのは心外です。自称「喘息専門家」をして納得させることができないなら、どうやって他の先生や患者さんを理解させることなどできるのでしょうか? また、私はニフティー・サーブにアクセスするすべがありませんので、そこでどのような議論がなされているか把握できません。浜先生に取りましては、私からの質問が他の方からのと同じで「こいつもまた同じ質問か!」とお感じになるかもしれません。当たり前のことですが、質問する側はそんなことわかるはずがありませんし、例えばFAQのようなものがあって他の方は納得できたとしても、それを読んでも私が納得できないことだってあるはずです。それを、いくら薬害に詳しい先生が、「そんなことは常識だ」と言うようなことをおっしゃったからと言って納得できないことはたくさんあります。データを示せばそれで済むものではないし、そのデータがどのように作成されたかも検討しなければならいはずであるし、その解釈にしても人それぞれなはずです。失礼ですがそういう論法が浜先生には多々拝見されます。

3つめは、先生の回答のされ方についてです。例えば『ストメリンD』や『日本小児アレルギー学会との関係』などのように、1つの質問を最後まで文意をとらえず、目に留まった一文や一フレーズを誇張して反論されてたりコメントを下さったりすることがあります。これでは困ります。この点に関しては、私だけでなくZensoku Webの運営者の方も同じ感想を述べていました。
 以上。もしこれ以上水掛け論になるようなら、私としましては薬害オンブズパースンの他の方々とも意見交換を行いたいとも考えています。


前置きが長くなりましたが、また私もいくつかの質問やコメントを述べさせて下さい。今回は、細々とした点は省かせていただきます。問題点を2、3に絞りたいと思います。

<1>私もベロテックを心臓刺激性の強い薬剤であることは認識しているが、学会レベルでベロテック乱用が心臓死であるという認識は現在のところない

繰り返しになりますが私は、この問題が取り上げられる前から、ベロテックをはじめとするβ刺激薬の乱用の危険性を患者さんに説明してきました。問題が大きくなって、患者さんがいろいろと不安を抱くようになってからは、新規の患者さんにはベロテックを使わないようにしています。それでもベロテックを処方するときは「これは今問題になっている強い薬ですが良いですか?」と確認し、どうしてもベロテックでなくては困ると訴える患者さんにのみベロテックを処方しております。一度もベロテックを心臓刺激性の少ない薬剤だなどと認識したことはありません。

浜先生は、「ベロテックによる喘息死の多くは“心臓死”であって喘息自体による“窒息死”は少ない」とのお考えですよね。そして、その拠り所を実験動物によるデータや疫学調査から導き出されていると思います。私も長年実験を行ってきた人間ですから、動物実験の結果がすべて臨床にそのまま還元されないことをよく知っているつもりです。しかし、百歩譲って先生の指摘が正しいと仮定しても、少なくとも日本の内科の喘息方面の“喘息死”関係の書物を見ても、私の知る限りベロテック乱用による喘息死が“心臓死”であるとの認識はどこにもありません。もし、そのような論文・著書があれば是非教えて下さい。私が納得すれば、今までの意見を取り下げ、大いに先生を支持しベロテック販売中止運動に参加させて頂きます。

学会の認識がすべて正しいとは限りません。先生が先駆けとなって、この問題点を指摘されるのであれば話は分かります。しかし、世の常としてそのような場合は、浜先生が論文や発表を通して学会のコンセンサスを得るなどの行動は不可欠であると思います。浜先生が、いくら「不整脈などによる心臓死は証明しようがない」とか「実験データは揃っている」と強い口調で言われましても、一部の先生を納得させることはできても、私をはじめ多くの医師は納得できないと思います。また、「喘息がよほど悪くなっても、単に呼吸困難だけでは、ほとんど死亡するということはありません」とは、何を根拠にそのようなことが言えるのか不思議で仕方がありません。これは、我々の“通念”を打ち破るほどの重大な発言です。実際私は教鞭を取っており、「喘息死は適切な来院時期を失するが故の窒息死であって、喘息死した患者さんの剖検所見は高度な気道粘膜の浮腫と粘ちょう性喀痰による窒息死が原因である」と教えている立場上、見過ごす訳には行きません。もし、確固たる証拠があってそのような発言をされるとすれば、是非山形大学医学部で学生講義をお願いしなくてはなりません。今回は“先生のお考えをお聞しました”くらいの気持ちで受け流すつもりですが、もし先生がそのお考えが正しいと考え、“(ベロテック乱用による)喘息死=心臓死”を根拠に今回のベロテック問題を進めて行くとすれば、学会で認識されるようになってからにして欲しいと思います。

<2>ストメリンDについてもう一度意見を述べさせて下さい

「もう一度」と言いますのは、先ほど申し上げましたように、この点が浜先生に私の質問の意味を理解して頂いけないままコメントを頂いていると考えられる点の一つだからです。「また同じ質問を」と思わず、最後まで読んで下さい。ここで注意して欲しいのは、喘息死、心臓死、喘息自体の悪化による窒息死を明確に区別して欲しいこと、またイソプロテレノールは、メジヘラーイソのことでなくストメリンDに含まれているもののことであること、です。

イソプレテノールの問題は歴史的にもう解決されていて、浜先生自身ストメリンDも販売中止すべきだとお考えのことはよくわかります。私が言いたいことは、実はこの問題が、喘息死が“心臓死”なのか“喘息による窒息死”なのかを考える上で非常に重要だと思うからです。

過去にイソプレテノールの販売が喘息死を増加させ、逆に販売中止が喘息死を減少させた。これは事実です。私も理解できます。しかし、ここにもベロテックと同じように、その原因が“心臓死”であったのか“喘息による窒息死”であったのかに関しては依然としてわからないはずです。この点を立証するのに、浜先生のお示しになっているような疫学的・実験的なデータでは私は納得しません。“心臓死”が証明されていないからです。これがまず第1の点です。

仮に譲って「イソプロテレノールが“心臓死”によって喘息死を増加させた」が正しかったとします。浜先生はストメリンDが喘息死で問題にならない点に関し、「これが問題になっていないのは、日本の喘息死の増加の原因となるほどには、発売数が多くはなく、使用量が少ないからだと考えられます」とのお考えでしたが、薬害オンブズパースンからの資料(表9-2)を拝見しますと、1990年から1993年のMDI売上本数の商品別割合では、ベロテックが18.3%に対し、ストメリンDが15.3%となっています。その後に?がついていてこの意味は不明ですが、もしこのデータが正しいとしますと、ストメリンDの販売量は決して少なくありませんし、実際に私自身の処方量からもうなずけるデータであると思います(但し、私は決してストメリンDを処方しているわけではなく、新規処方は0ですが、前医から習慣になっていて中止できない場合がほとんどです)。この点はまず、先生がおっしゃる「発売数や使用量が少ないからだ」では少なくとも説明できませんよね。メジヘラーイソは販売量が少ないためであり、私もここでは問題にしません。

次に、過去にイソプロテレノールが大問題になって欧米では使われなくなっている薬剤が、善し悪しは別として(私もストメリンDはない方がいいとは思いますが、現に長く使用して依存傾向にある方がおられるので販売中止は危険であり反対です)、どういう訳か日本では現に売られています。過去にそんな大事件になった薬剤が、今の日本でベロテックと同じほど使われているのに、何故喘息死が問題にならないのでしょうか? 少なくともイソプロテレノールの乱用で“心臓死”がおきるのが事実なら、ストメリンDの乱用でも“心臓死”に由来する喘息死が問題になってもいいはずです。しかし、実際はストメリンDは問題になっておらずベロテックのみが喘息死の原因として騒がれています。

後は、前回と同じ論理になってしまいますが、イソプロテレノールが“心臓死”を誘発するならデキサメタゾンの有無に関わらず、乱用による“心臓死”ひいてはその結果としての喘息死を増加させるはずです。デキサメタゾンにイソプロテレノールに対して心臓の抵抗性を高めるなどの作用でもあるならば話は別です。やはり、私はデキサメタゾンが入っていて気道の炎症を取るから喘息自体が悪化せず、ストメリンD乱用では喘息死が問題にならないのだと思います。フェノテロール単独のベロテック乱用が問題になるのは、ステロイドが入ってないから気道炎症が取れず喘息自体が悪化して行くからであると考えます。従ってイソプロテレノールにしてもフェノテロールにしても、乱用によって適切な治療時期が遅れることで喘息が悪化し、喘息死すなわち“窒息死”するのが原因であると考えます。

この点を何故まったく根拠のないことと言われるのか私には理解できません。何故この点にこだわるのかと申しますと、私の立場は「もしベロテックが臨床量でも“心臓死”を引き起こす」のであれば私は浜先生や薬害オンブズパースンの主張である販売中止の考えを支持しますし、それは一定期間の猶予など悠長なことを行っているべきではなく即刻行わなければならない重大な対処だと考えるからです。が、「常用量をはるかに越えた乱用が心臓死の危険性を増す」のであれば乱用がいけないのですから、販売中止の措置など不要であり、今後もステロイド普及とともにベロテックをはじめとしたβ刺激薬の乱用注意などの使用規制に力を入れればよいと考えるからです。「ベロテック中止という背水の陣を引いて吸入ステロイドの普及に拍車をかける」という要求など日本べーリンガー社が納得するわけはないと思います。

<3>吸入ステロイドの普及および一定期間の猶予について

ベロテックをはじめとするβ刺激吸入薬の使用が減ることは理想です。そして、そのためには吸入ステロイド普及が不可欠であることは浜先生との共通の理解であると信じています。私が前回の質問で、浜先生に「どのような喘息専門家にご相談されましたか?」と質問させていただいた背景には、先生が「吸入ステロイド普及は粘り強く説得すれば比較的簡単に達成される」とお考えであるかの印象を受けたからであります。前回の私からの「一定期間の猶予とはどのくらいとお考えですか?」との質問はその意味があります。“数カ月”というお答えでしたが、以前申し上げましたように私の予測“10年以上”とはオーダー違いであることがわかりました。

まず、相談された先生方ですが、小児科の先生が多く内科の先生が少ないと思います。しかも小児科の先生の多くは小児科領域では珍しい吸入ステロイド奨励派の先生であると思います。ぶり返しになりますが、もっと内科の先生が多ければ“喘息死=心臓死”との意見は恐らく浜先生のご説明では、納得されない先生が多かったのではないかと思います。少なくとも内科方面ではそういう認識がないからです。ただし、ニフティーでの討論を知らないので、この点は私の推論でありますので、違っていましたら、どうぞ私の認識違いを指摘して下さって結構です。

その中のおひとりのA先生は、以前山形へ講演にいらしたことがあり一緒に酒の席で話をしたことがあるので、私はよく存じていますし、A先生も私のことを覚えていてくれるかもしれません。A先生は、熱心な吸入ステロイド推進派の先生で、私も尊敬している先生の一人です。しかし、ひとつ不幸だったと考えるのは、A先生の話をお聞きして「小児科にもこんなに吸入ステロイドを普及しようしている先生がいるのだ」と勘違いしてしまったことです。F先生とG先生は、私が小児喘息について勉強して行くうちに両先生の著書に巡り会い、その内容を見て感銘を受けしました。(註:実際のメールから一部削除)しかし、両先生も吸入ステロイドには大変ご理解があります。これら先生にご相談されたのであれば、なるほど吸入ステロイド普及は比較的容易であるとお思いになっても不思議ではありません。その意味で先生がどういう経路でこれらの先生を選ばれたのかはよく知りませんが、非常に良い人選であったと思います。

浜先生はK先生のことをご存じでしょうか?(註:実際のメール内容を一部変更)言ってみれば私はK先生のようなお考えの小児科の先生方と戦うためにこの「寄稿集」を公開するようになったと言っても過言ではありません。

その前に一つ弁解させて下さい。前回のメールで「浜先生ら薬害オンブズパースンの方々は恐らく、日本小児アレルギー学会の喘息死調査委員会の報告を受けて動いたのだと思いますが…」の表現が、あたかも「喘息死調査委員会にそそのかされて」と解釈されている点です。これは全くの誤解です。「喘息死調査委員会の報告がきっかけとなって」ということです。私の表現能力が低いことはいくらでもご批判に甘んじますが、正しく伝わってないことで、「物事の動きを類推あるいは仮定にもとづいて判断しないほうがいい」と厳しく指摘されては、私も黙ってはいられません。しかし、これとは別に薬害オンブズパースンがこの度何故ベロテック問題を取り上げたのかの経緯はいつか機会がありましたら是非伺いたい点ではあります。

少しK先生について話をさせて下さい。K先生は、日本小児アレルギー学会では大変権威のある方です。私は以前K先生の講演を聞く機会がありました。普通なら内科医である私が講演を聞きに行くことなどありませんが、折りも折り、例の療養所を逃げ出すように退院して来た喘息児のことがあり、興味を持って聞きに行きました。その時私はA先生が積極的に吸入ステロイドなどを導入されているのを知っていましたから、「K先生も似たようなことを話すに違いない。あの子がいた療養所は特殊なのだろう。そしてそのことを質問して聞いてみよう」くらいの気持ちでした。

しかし、私は「今でもこんな考えの先生がいるのか」と愕然とさせられてしまいました。K先生の“名言集”を上げますと、まずスライドにベコタイドと宮沢りえのヌード写真を並べて出し、
「美しいバラには刺があると申しますが、吸入ステロイドも効果はありますが乱用されるようになると痛い目に会うのではないかと思うのです」
とおっしゃっていました。さらに内科医を批判し、
「我々小児科医が一生懸命治療してきた喘息児を大きくなったからと言って安易に内科医に引き渡しますと、ステロイドの餌食になってしまう恐れがあります。内科の先生はすぐ吸入ステロイドを使ってしまうからです」
と言って、30歳近くになる大人までも未だにK先生が診てらっしゃるというような状況なのです。小児科医とて大人を診察してはいけないとは言えませんが、これは尋常のことではありません。さらに
「大人の場合の喘息は気道炎症がその原因と考えられておりますが、子どもの場合はまだその証明がない訳ですから吸入ステロイドの普及には疑問のあるところです」
ともおっしゃっていました。また、
「小児への吸入ステロイドは欧米では盛んにトライアルが行われているようですが、アメリカではまださほど使用されていません。もう何年かしたら、効果・副作用について結論が出ると思いますので、その動向を見て慎重に使用しなくてはならない。欧米での結論がでた時日本も吸入ステロイドの乱用によって間違いが起きてなければいいのですが」
とも述べていました。

私は、唖然として何も質問する気になれませんでした。私はこの考えを聞いて「日本の小児喘息児の喘息死はここ2、3年は減少しないな」と感じました。また、この話を聞いて「小児科の先生方が吸入ステロイドを使わなくなったら困る」と思った私は、小児科の先生方に集まってもらい「最近の喘息概念の変化」について話をしたのですが、残念なことにK先生に輪をかけたようなステロイド嫌いの年輩の先生がいたのです。この小児科の先生は喘息専門ではないのですが、私の話は根底から批判されてしまいました。(註:実際のメール内容を一部変更)

日本小児アレルギー学会にさえこのような考えの先生がいる。そして喘息を専門としていない先生はもっと吸入ステロイドのことは知らない。看護婦や薬剤師などの医療従事者も然り。さらにもっともっと手ごわいのは、喘息児を持つ母親のステロイドアレルギーです。これらすべての方に吸入ステロイドの必要性・重要性をわかって貰うのはとても大変なことだ。だったら時間をかけてでも「吸入ステロイドは安全ですばらしいよ」という考えを広めて行かなくてはならないと考え、この「寄稿集」を公開するに至ったのです。

そうした私の考えを知る由もなく、浜先生はいとも簡単に「吸入ステロイドは普及させなければならない」とおっしゃる。「粘り強く説得すればベロテックの危険性と吸入ステロイドの必要性をわかってもらえる」とも言う。その粘り強くが「数カ月」なのですか? もし、先生がそれを達成できたとしたら、私の目標も達成されることになるわけですから、それは大変うれしいことです。そうは行かないまでもせめて私はもしK先生が吸入ステロイド推進に廻って頂けたのなら、その時点でこの「寄稿集」を閉じたいと思います。

浜先生が「ベロテックの危険を訴えてそれを中止させるなら、代替薬として、とくにステロイド剤と、サルブタモールなど、本当にβ2選択性の高いβ2作動剤に緊急避難し、その後、これらの薬剤にも頼らなくてもよいように本格的な予防方法を勧めるべきですから、その意味で、ステロイド剤吸入の普及は絶対に欠かせません。このことは、現在の喘息治療の知識から、だれもが帰結する、当然の結論ですから」とおっしゃるほど簡単には行くものではないと思います。「しかし、小児科医でとくにステロイド剤の普及が容易でないというのは、分かるような気がします」ともおっしゃっていますが、“分かるような気がする”では困るので、“現に容易でない”のです。吸入ステロイドの普及という点では先生のお考えには心より賛同しますが、その見通しには大きな開きがあります。この点も含めて浜先生のお考えには納得行かないのです。

一定期間について「特別一定の期間を設けると言っているのではありません。普及の程度とか、ベロテックの危険性を考慮して、十分に使用が減ってきたとかいろいろの判断材料を総合して考える必要があるようには思います。しかし、一応の目安としては、数カ月間の猶予期間があればよいのではないかと考えています」とおっしゃっていますが、ベロテックの使用が減ってきたからと言ってベロテックを中止するのは、なおさら危険であると思います。何故ならベロテックから簡単に他の薬剤に変更できるような方は、喘息死の危険性はもともと少ない方だと思いますし、その時点でもなおベロテックを使用している人は過度のベロテック依存者であるはずですから、その時点で中止したのではその方たちがベロテックを使えなくなり危険極まりないと思います。また、吸入ステロイドが普及したからと言ってそのような方はベロテック依存から抜け出せるとは限らないからです。

最後に私の考えをまとめますと、
<1>「ベロテックが本当に“心臓死”を引き起こしているのか?」は、やはり簡単に解決されない重大な問題であり、これがベロテック販売中止か否かを分ける大きな分岐点になること。
<2>吸入ステロイド普及には“年”単位を要するから、一定期間後のベロテック中止は危険であること。

と言うことになります。また、その他として、
<3>「ベロテック中止によって発作がおきても抑制できず仕事ができなくなるような患者さんへ誰が生活保障をしてくれるのか?」「なぜベロテックを薬害オンブズパースンが扱うことになったのか?」もできれば先生のお考えをお聞きしたいです。

しかし、これらの回答は、先生が大変お忙しいようですからいつでも結構です。先生がその他のお仕事でお忙しいということは、少なくともその間はこのベロテック問題の大きな進展はないと言うことにもなりますので。

平成9年7月4日

山形大学医学部臨床検査
諏訪部章

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(11)ベロテックエロゾルに関するご連絡

1997年(平成9年)7月29日

諏訪部章 先生

薬害オンブズパースン会議

代表 鈴木利廣

拝啓

私達薬害オンブズパースン会議は、以下の通り、ご連絡いたします。

ベロテックエロゾルに関する当会議から厚生省、並びに日本ベーリンガーインゲルハイム社への申入れについてのその後の状況ですが、まず、この申入れに対し、厚生省からの回答は現在までのところございません。

また、日本ベーリンガーインゲルハイム社からは、7月3日付で当会議に宛てて別添の文書が送られて参りましたが、その内容は当会議に対する逆質問に終始するもので、当会議の要望書の質問事項等に対する回答はいただけませんでした。そこで、当会議は日本ベーリンガーインゲルハイム社に対し、当会議の質問事項等にお答えいただけよう、改めて別添の要望書をお送りいたしました。

さらに、この申入後、ベロテックエロゾルを使用されている患者さん、その他のβ2刺激薬を使用されている患者さん、ベロテックエロゾルを使用されていて亡くなられた患者さんの遺族の方々等から、多数の問い合わせが薬害オンブズパースン事務局に寄せられました。

問い合わせの中には、当会議の申入れに賛同する意見のほか、ベロテックエロゾルの使用継続を訴え当会議の申入れに反対する意見も寄せられました。また、当会議の情報伝達が十分でなかったためか患者さんや医療現場において、混乱や動揺が感じられる問い合わせも見受けられました。

ところで、当会議が今回の申し入れに踏み切ったのは、様々な資料を分析検討し、討議した結果、ベロテックエロゾルの安全性について医学的、疫学的に大きな疑問を抱いたからでありました。

また、安全性が確認されるまでの当面の対策として、どのような選択があり得るかについても真剣な議論が行われました。

現にベロテックエロゾルを使用している患者さんに過度の不安を与えてはならないという慎重論もあり、患者さんの自己決定権や医師の裁量幅等をめぐっても様々な意見が交されました。その結果、ベロテックエロゾルには、代替薬が存在すること、今もなお重篤な副作用の危険にさらされている患者さんがおられることなどから、代替薬への変更するための一定の猶予期間をおいた上で、販売停止を求めるべきであるという結論に達したものです。

また、今回の申入れは、販売停止を求めること自体、死に至る喘息患者さんを一人でも少なくしたいという切実な願を込めた当会議の問題提起でありますが、それとともに、これを機会に、β2刺激剤の使用に過度に頼らない適正な喘息治療について患者さんや医師が今一度確認し、これを推進することによって我が国における喘息死を少しでも減少させたいという希望をもった行動でもありました。

そこで、当会議では、この趣旨から、今般、ベロテックエロゾルについての当会議の意見、喘息治療薬の選択、及び喘息治療の在り方についての当会議の提言を別添のドクターレターとしてまとめ、医師会、その他医師団体各位にお送りすることにいたしました。

なお、薬害オンブズパースンに寄せられた、意見などの公開につきましては、プライバシーを守りつつ、公開する方法を模索中です。

今しばらく、お待ちいただきますよう、お願い申しあげます。

敬具

(同封物)
・ベーリンガーインゲルハイム社からの再質問
・ベーリンガーインゲルハイム社への回答、TIP報告書
・ドクターレター

(連絡先)
〒160
東京都新宿区四谷1丁目18番地王蘭ビル4階
薬害オンブズパースン会議事務局
   電話03(3350)0607
   FAX03(5363)7080

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