(00)主治医のひとりごと(その1)

 自分も喘息。もちろん小児喘息など経験したことがない。大学で研究用にラットを扱って10年以上になるのだが、その“怨念”のためかいつの間にかラットを扱うとゼイゼイとなり、ラットに触れた手で目を擦ろうものならまぶたがめくれるくらい腫れて痒くなる。ラットに引っ掻かれると、その筋に沿って皮膚が赤く膨隆する。しかし、発作時にベロテックなどを吸ってごまかしていた。
 しかし、体調の悪かったある夜咳が止まらなくなったことがある。苦しかった。眠れなかった。それでも喘息の定義上はいわゆる“発作”ではないのだ。喘息治療のガイドラインからすれば自分の咳は軽症にすら当てはまらない、言ってみれば治療対象外。こんなガイドライン一体どれだけ役に立つのだろうか?一生懸命ガイドラインを作って下さった先生には申し分けないが、これが果たして患者さんのことを考えた治療方針なのだろうか?と言うのが正直な感想だった。私は、自分でいつも患者さんに処方しているいくつかの内服薬と同じものを自分で処方した。だがどうしてもテオドールや抗アレルギー剤は服用する気にはなれず、結局いろいろな薬の中から吸入ステロイドだけを選んだ。なぜなら、吸入ステロイドが一番強力で副作用がないことを知っていたからだ。自分が飲まない薬を処方するなんてひどいと思わないで欲しい。私はテオドールなどの気管支拡張剤で動悸が起き、抗アレルギー剤は眠くなって仕方がないのだ。自分にとっては死ぬほど苦しい咳発作だったが、一般的には“軽症”のうちに吸入ステロイドを使ったためか、その後このようなエピソードはない。もちろん、原因は明らかにラットなので、実験をするときは防塵用ヘルメットかぶりフィルターを通したエアーを吸うという努力はしている。私は喘息のことを知っている。またどうすれば悪化しないかも知っている。だから忙しい日常診療のなかでもあまり悪くならない。だから患者さんが喘息のことをもっともっと知れば、悪くなる人はずっと減るはずだというのが正直なところだ。

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