『妊娠・出産と喘息との関係について教えて下さい。』(27歳女性・主婦より)

<質問>
 私は20年以上の喘息患者です。といっても軽い方だと思っています。伺いたいのは妊娠、出産のときの喘息との関係です。妊娠中の発作や服用する薬のことが少し心配なのです。妊娠中の影響や注意を教えていただけませんでしょうか?
 私は現在27歳。喘息歴約24年の専業主婦です。現在は年に2、3回 病院に行かなくてはならないほどの発作が起きる程度です。普段はベコタイドを使っています。一昨年までは経口薬を持っていましたが、症状は軽く呼吸が苦しくなった時に使うと副作用の胸のドキドキや頭痛がひどくてやめていただきました。 軽い時はベコタイドを1、2回使えばよいのですが、やはりひどくなってくると何種類かの経口薬を何日か飲まないと治まりません。ひどい発作が起きるときはほとんど風邪とくっついた形で起ります。診ていただいてる先生には、いつも黄色い痰が出るようだったら来院をすすめられています。ちなみに今まで喘息の専門医に診ていただいたことはなく近くの内科の先生に幼い頃からよくしていただいています。
 なにかアドバイスしていただけることがありましたら宜しくお願い致します。

<応答>
 妊娠と喘息に関しては昔から重要な問題です。医学書にもこの点について書かれている物は多いと思います。
 まず、一般的なことから述べますが、喘息の方が妊娠すると、喘息が悪化するという情報と逆に良くなるという情報とがあると思います。従って、妊娠すると喘息がどうなるかは患者さんによって異なりはっきりとは言えないのが実情だと思います。また、仮に妊娠した場合、胎児への薬の副作用を恐れるよりも、母親の喘息の状態を第一に考える傾向があるようです。それは、副作用を気にして母親への薬剤投与が不足し喘息が悪化すると、喘息自体で酸素不足など胎児への影響(発育遅延など)が現れるからです。従って、喘息コントロールが良くない状態で妊娠してしまってどうしても生みたい場合は、喘息治療を優先させるべきでしょう。その意味で、喘息のコントロールがしっかりつくまでは、計画的に避妊することをお勧めします。
 次に、投与薬剤ですが、一般的には喘息治療の薬物は妊娠には悪影響を及ぼさないという原則があります。例えば、流産防止薬はβ刺激剤といってこれは気管支を広げる薬剤と同じです。また、未熟児が誕生しそうな時、少しでも胎児の肺が成熟するようにとステロイド剤を母体に投与することは医学界では有名な事実です。また、テオドールやインタールなどの古くからある薬剤は妊娠中に服用しても胎児に奇形を誘発したりする確率が低いと言われています。ただ、最近出回ってきている「抗喘息薬」と呼ばれる一連の薬剤は、歴史の浅い薬剤であるため臨床データが揃っていないので妊娠初期(2から3カ月)は中止して安全な薬剤のみでコントロールすべきでしょう。
 しかし、何と言っても妊娠初期は薬剤投与なしに経過するのが一番だと思います。従って、もし今あまり喘息の状態が良くないとすれば、これからしばらくは避妊するのがよいでしょう。かといって、手をこまねいて喘息が良くなるのを待っていたのでは、いつ妊娠したらいいかわかりませんので、近い将来妊娠を希望するなら積極的に喘息をコントロールすべきでしょう。実は、現在私が診ている24歳の独身女性の方がいるのですが、彼女もたびたび喘息発作でひどい目にあってきたのです。また吸入ステロイドをはじめたくさんの薬剤を内服してきたのです。しかし、彼女には結婚予定の彼がいて、今年の春に結納が終了し、秋に結婚、その後恐らく妊娠と計画を立てているのです。今年の正月あたりは、生活も不規則なためもあってあまりいい状態ではなく彼女も結婚や妊娠に不安を抱いていました。私は彼女に、「喘息は私がいくらでも治してあげる。ただ、今後は将来の旦那さんや子どものためにも、自分の体のことを一番に考えて治療に専念しなければならないよ。」と言い聞かせました。
 あなたにとってすべてが実行可能かはわかりませんが、私が彼女に勧めたのはまず、ピークフローメーターを毎日つけることした。そしてその値が300から400の間と不十分であったので、仕事が比較的暇な時1週間仕事を休んでもらって、寄稿集にありますように「メドロール」というステロイドを1日6錠、1週間内服してもらいました。一気にはピークフロー値は上昇しませんでしたが、これを期間を置いて2度繰り返し、ピークフロー値が550から600くらいまで上昇する事に成功しました。私が、ピークフロー値を上昇させたかった大きな理由は、もちろんいい状態に導くことが大きな理由でしたが、さらにはその状態に導くことで、ピークフロー値が下がらないことを目安に内服薬を一切中止したかったからです。場合によっては、ピークフロー値が一定値を保てれば吸入ステロイドさえも中止しようと考えています。現在、吸入ステロイドは行っていますが、内服薬が4種類から2種類まで減ってきています。結婚もまだ先で妊娠はもっと先ですから、ゆっくり時間をかけて薬剤を一つづつ減らしてゆく予定です。
 ここで、喘息の薬剤を減量するときに大切な点が2つあると思います。1つめはピークフローメーターをつけること、2つめは一度いい状態に持ってゆくことです。ピークフローメーターをつけず症状のみを目安にした薬剤の減量は非常に危険です。逆にピークフロー値がある一定以上を保っていれば、ある程度のことは保証されます。薬剤減量に関しては、この寄稿集の(9)の方を参考にして下さい。
 彼女の場合は、まだ途中段階ですがこれまでのところはピークフロー値の低下もなく順調です。妊娠想定時期まで、最悪でも吸入ステロイドのみまでに減量できれば良いなと考えています。吸入ステロイドは肺にしか作用しませんから、内服の薬よりは奇形などの危険性はずっと少ないのです。また、彼女は勤めている方ですが、専業主婦であれば、妊娠を理由にある程度体を休めることが可能なのではないでしょうか?その意味で、今後の薬剤減量という点では有利だと思います。
 最後に、私からのアドバイスとしては、まずピークフローメーターをこれから毎日つけることをお勧めします。もしつけているとすれば、最近の平均的な値とこれまでの最高値を次のメールで是非教えて下さい。また、基準値がわかればそれも教えて下さい。わからなければ、使っているピークフローメーターの種類と身長を教えていただければ私が調べます。それでだいたい今の状態がわかります。私の経験では、年に2、3回病院を受診するほどの発作があるとすると、身長にもよりますが300から350、良くて400前後だと思います。もしこれを越えていたら上出来だと思います。次に、現在している薬剤の種類を教えて下さい。定期的か不定期かもです。また吸入ステロイドはスペーサーを使用して吸っていますか?1日何吸入ですか?軽い喘息なら吸入ステロイドだけで十分良くなると思います。
 あまり、「たら・れば」が多くても仕方ないので、もし差し支えなければ、とりあえずピークフローメーターの有無とその値、薬剤の種類、スペーサー使用の有無などの情報を送って下さい。そのうえで何かアドバイスできることがあればまた考えてみます。

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