緊急特集や寄稿集の中で、吸入ステロイドの重要性を随所で強調してきました。ここに、吸入ステロイドはなぜ喘息発作を起こさなくするのか、その理由をもう一度まとめてみました。
吸入ステロイドの普及を語る前にどうしても触れておかなければならない“気管支喘息の概念の変化”があります。これは約10年前から提唱されるようになった概念で、この概念の変化の理解なくしては、医者も患者も吸入ステロイドの本当の作用が理解できず、ただ闇雲に“ステロイド=副作用=恐い”という関係式から抜け出せないのだと思います。
その概念とは、“喘息発作は慢性の気道炎症に由来する”ということです。これは、これまでの概念とどこが違うかと申しますと、従来は喘息発作というのは、「気道粘膜は非発作時には健常人と何ら変わりがないのに、ハウスダストやダニなどの抗原が気道に達するとそこに急性のアレルギー反応が起こり、気管支平滑筋が収縮し空気の通り道である気道を細くしてしまう」ということでした(図E)。発作時の概念はほとんど同じなのですが、“非発作時には健常人と何ら変わりがない”というのがその後の研究で、喘息患者さんは“非発作時でも気道には慢性の炎症が存在している”ことが明らかになってきたのです。
それでは従来の考え方は間違いだったのでしょうか?答えはそうではありません。従来の考え方は単に『発作ヒ非発作』の繰り返しという喘息の初期病変のことを指していると考えて下さい。恐らくどの患者さんも最初に咳や喘鳴を自覚した頃は恐らく、『発作ヒ非発作』の図式であったと思います。しかし、人間の体は慢性の刺激を受けるとそこに慢性の炎症が成立してしまうのです。
例えば、あなたの皮膚を一回思いきり叩いてみて下さい。皮膚は少々赤くなり痛いと感じるでしょうが、放っておけば赤みも消え痛みは自覚しなくなるでしょう。しかし、何度も何度も思いきり皮膚を叩き続けたらどうなるでしょうか?痛みもさることながら皮膚は赤く腫れ上がり傷つきジクジクするようになるでしょう。そうなると今度は叩くのを止めても痛みは引かないでしょう。また、皮膚が正常の時は冷たい水をかけても何ともなかったのがひりひりしてものすごく痛むようになるでしょう(図F)。
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