同じ事が喘息患者さんの気道粘膜にも起こっているのです(図F2)。「一回思いきり叩くと痛むこと」が「ハウスダストやダニに曝されて発作がおきること」です。「何度も何度も思いきり皮膚を叩き続けること」が「慢性にハウスダストやダニに暴露され発作を繰り返すこと」であり、「皮膚は赤く腫れ上がり傷つきジクジクするようになること」が「慢性気道炎症の成立」なのです。また「そうなると今度は叩くのを止めても痛みは引かないこと」は、元々は「ハウスダストやダニが原因でおきた炎症が原因が除去されても気道炎症を持続すること」で、「皮膚が正常の時は冷たい水をかけても何ともなかったのがひりひりしてものすごく痛むこと」は、喘息発作が「風邪、冷気、過労、ストレスなどの非特異的刺激で容易に引き起こされるようになること」と同じなのです(図G)。
これはまさに“コペルニクス的発想の転回”とも言える変化であったのです。そして、このことから2つのことが導き出されるのです。1つは気道炎症を抑えなければまた発作は起こること、もう1つは発作がなくても慢性気道炎症が存在していることです。従来の考え方からすると、喘息治療の重点は「発作を止めること」(図H)、予防の重点は「ハウスダストやダニなどの原因物質を減らすこと」になります。しかし、この新しい概念からすると、「発作を止めるだけの治療は不十分であること」、また「抗原を減らすだけでは十分な予防効果は得られないこと」がおわかりいただけるのではないでしょうか?喘息の新しい概念からすると、喘息の治療は慢性の気道炎症をとらなければ発作は予防できないのです(図I)。
ここで言う気道の炎症とは、正常の気管支粘膜には存在しない好酸球やリンパ球などの炎症細胞が集積し、様々な物質を放出して気道内腔を覆う上皮を剥離してしまうことです(図G)。この状態を続けると、刺激になるものは何でも気道収縮(発作)の原因になってしまうのです。しかし、幸いなことにこの炎症状態にステロイドを投与すると、炎症細胞が死に陥り、その結果気道粘膜が修復され丈夫になるのです。ステロイドは喘息の気道炎症にとって非常に有効ではありますが、全身性ステロイドは長期間使用すると種々の副作用がでてしまうので、マスコミその他で大きく叩かれ、悪名高いレッテルを貼られてしまったのです。そこに登場したのがまさに夢のような吸入ステロイドなのです。
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