吸入ステロイドはなぜ喘息発作を起こさなくするのか?(その3)

 吸入ステロイドは強力な抗炎症作用を有しているのですが、肺という局所に作用する療法であるために必要十分な量を投与することができ、また仮に全身へ吸収されても肝臓で分解・代謝されるので副作用は全くといって良いほどないのです(図J)。また、欠点は気道を経由して作用する薬剤であるため、気道が細くなっていると十分な効き目が得られない点です。もう一つ、これは吸入ステロイドに限ったことではありませんが、吸入ステロイドを十分吸っていてもたびたび発作を繰り返したり、発作時以外でも咳や息切れなどの症状を訴える方が結構いらっしゃるかと思います。これは薬剤が効かないのではありません。確かにステロイドは喘息には有効性の高い薬剤ですが、こと病気を治そうとする時にはやはり薬剤にだけ頼ってはいけないと言うことです。つまり、高血圧の治療をしているのに塩分を過剰に取りすぎたり、糖尿病でインスリン療法をしているさなか甘いものを取りすぎたり、コレステロールを下げる薬を飲んでいるのに脂っこい食事をとったりしては、一向に病気は良くならないのと同じです。喘息のステロイド治療においては、良くなるまでの一定期間は無理をせず極力気道を休めることが何より大切になるのです。吸入ステロイドはきちんとしているのだけれどもしばしば発作を起こして来院する患者さんがいますが、この多くはこの一定期間の安静がなかなか保てない場合がほとんどなのです。ひとつ勘違いしないで欲しいのは、喘息だからずっと大人しくしていろということではありません。気道が丈夫になるまでの一定期間ということです。ある程度丈夫になってしまえば、定期的吸入やピークフローモニターなどきちんとやることさえやっていれば、今度は多少無理をしても大丈夫なものなのです。なんども皮膚を叩いて引き起こされた炎症でも、一旦完全に治って皮膚が丈夫になれば、今度は冷たい水をかけてもヒリヒリとはしないはずです。
 ほとんどの軽症喘息の患者さんは、吸入ステロイドをはじめるだけで気道炎症の続く状態から解放されますが、中には安静を保ちながらいくらきちんと吸入ステロイドを行っても良くならない方がいるのです。これも吸入ステロイドが効かないのではなく気道が細くなっているので薬剤が到達しないだけなのです(図K)。この寄稿集には、そのような患者さんに2週間前後の全身性ステロイド投与を行い、非常に良くなった方からの寄稿がたくさん載っています。ただ、このような一定期間の全身性ステロイド療法はまだ一部の専門家の間でしか用いられていません。もし、このような心当りのある方は是非専門家のいる大きな病院を一度受診し相談してみるべきでしょう。

その2へ 目次へ