この度、岩手医科大学の臨床関係各部門へ向けてこの「検査部だより」を発行することになりました。創刊に当たり皆様に一言ご挨拶を申し上げます。
私は平成13年5月1日より、岩手医科大学医学部付属病院の中央検査部を担当することになりました。20年以上の長きに渡り、伊藤忠一前中央検査部長の大変なご尽力のおかげで大きな発展を遂げたこの検査部を引き継ぐことになりまして、その重責に身の引き締まる思いであります。
日本経済の発展の下、現代医学も著しい発展を遂げてきましたが、検査部門も分析結果の自動化・高度化、新しい検査項目の増加など、著しい変貌を遂げてまいりました。しかし、バブル崩壊後の先行きが見えない日本経済不況の中で、医療経済も打撃を受け、小泉内閣の掲げる「三方一両損」の原則により、平成14
年度からは診療報酬が削減されるという前代未聞の医療改革が進みつつあります。分析機器の高度化・自動化を掲げて発展してきた検査部でもこの改革の波の影響は甚大です。最近では、コスト削減のために、検査部の人員・機器・試薬などすべてを外部業者に委託するブランチラボ構想やFMS(facilitated
management system )などの導入が叫ばれています。臨床検査を巡る最新の動きについてはこの冊子の中で逐次紹介して行きたいと考えています。
現代医学の中で臨床検査がなくなることは決してありえません。しかし、我々はそれにあぐらをかくことなく、 (1)最低限のコストで、(2)
臨床に役立つ高質の信頼できるデータを、(3)できるだけ迅速に提供することを、常に検査部の使命として行きたいと考えています。さらに、ここは大学病院ですので、遺伝子検査や院内感染対策関連検査など、病態解明に繋がる新しい検査法を臨床各科の先生方と協力の下に模索し研究開発して行かなくてはなりません。
「中央臨床検査部」という名称に示されるように、検査部には本院やその他の附属施設からの患者様や臨床検体が集まってきます。共通の検査はなるべく中央化し効率よく行うことが本来の主目的でした。平成14
年度からは当院でもオーダリングシステムが導入され、検査オーダや結果照会などが効率よく行われるようになるでしょう。しかし、医療工学の進歩によって、分析機器は簡略・小型化され、血糖検査や血ガスなどベッドサイドでの迅速検査への要求も医療現場では高まっています。これらはPOCT(pont‐of‐care
testing )とかNPT(near patient testing )などと呼ばれ、今後益々発展するでしょう。これは言ってみれば「検査の脱中央化」とも受け取れます。POCTやNPTは、精度管理が不要で誰でも検査ができるのが利点とされていますが、他方において検体処理や検査の仕組みに精通していない者が行うと時に大きな判断ミスに繋がる恐れが指摘されています。そこにはやはり検査に精通した専門の検査技師が必要です。私は、検査の脱中央化は受け身としてではなく、積極的に取り組んで行きたいと考えています。検体検査だけでなく、心電図・呼吸機能、脳波・筋電図などの生理検査も含めて、検査技師が病棟や外来に深く入り込んで、多忙な臨床の現場に潤滑油としての役割を果たすことができればと願って止みません。
医療費が逼迫する一方で、国民は安心し納得できる良質の医療の供給を願っていることも事実です。いくら最新機器を備えていても、何の説明もなくいきなり検査をされては、当然のことながら患者様は離れてゆきます。そこには、医療従事者側からの十分な説明と患者様の納得・了解が必要で、いつの時代でも医療従事者と患者様の対話がなければ、真の医療は達成されません。検査結果は誰のものか、これは最近よく議論されますが、誰のものかを論じる前に、患者様自身が自分が受ける検査について詳しく知る必要があると思います。本来なら、主治医が詳しく患者様が納得行くまで説明するべきでしょうが、忙しい医療の現場ではなかなかそうも行きません。そこにもし検査専門家である我々検査医や検査技師が主治医になり代わって検査内容やある程度の検査結果について補足説明をすることができれば、より良い患者サービスに繋がるのではないかと考えています。
以上、我々は「中央部門」として臨床各科に貢献するばかりではなく、時には積極的に「脱中央化」を計り、患者サービスに積極的に参画して行きたいと考えています。その意味で、臨床の先生方のご指導を仰ぐ機会が多くなるかと思いますが、何卒宜しくお願い申し上げます。以上を持ちまして私の創刊の挨拶とさせて頂きます。
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