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従来消化管の粘膜下腫瘍のほとんどは平滑筋由来の腫瘍とされてきました。しかし近年それらの多くが、平滑筋由来ではなく、消化管のペースメーカー細胞であるカハールの介在細胞由来であることが明らかになりました。この腫瘍はgastrointestinal
stromal tumor (GIST) と呼称され、消化管の間葉系腫瘍の80〜90%を占めています1-2)。これらGISTの腫瘍細胞はc-kit遺伝子のある部分に変異がある例が多く(エクソン11と9に多い)、免疫組織化学的にもc-kitが細胞質に陽性に染色されることが特徴的です1-2)。加えてCD34が細胞質に陽性に染色され、これらの結果から免疫組織化学的に確定診断が成されます。一方、平滑筋のマーカーである、デスミンや平滑筋アクチンのみが陽性に染色されるいわゆる古典的な平滑筋腫瘍や、S-100のみが陽性に染色される神経鞘腫も稀にみられます。しかし、これらの腫瘍は通常の組織学的観察のみでは鑑別困難であることが多く、GISTの確定診断には上記の免疫組織化学が必須と言えます。このようにGISTは上皮系腫瘍の診断手法とはその手続きが完全に異なり(通常の腫瘍はHEによる組織診断が主体で、免疫組織化学は補助的)、確定診断に免疫組織化学が必須です。このような非上皮性腫瘍の診断には電子顕微鏡的観察も重要とされています。GISTの場合、超微形態の観察が直接診断を左右することは少ないのですが、神経への分化をみる時は有用な情報を提供します(我々の検査室では、GISTが手術された場合、電顕、新鮮生材料を採取しています)。 GISTに限らず腫瘍の良悪性の鑑別は臨床上極めて重要ですが、GISTの場合は大きさと分裂像の数から決定しています1)。しかし、最近の考え方ではGIST は全例potential malignantであることが示されています。即ちGISTは全例悪性の可能性を有しており、腫瘍細胞の悪性度の違いからlow, intermediate, high gradeに大別するというものです2)(いわゆるリスク分類です)。このことからも分かるように良性GISTという考え方はされない傾向にあります。この考え方の是非については長期間の経過観察例の蓄積と分子レベルの病態の解明が必要と思われます。上記のようにGISTの病理診断に関する考え方は近年めまぐるしく変化しており、GISTの診断は未だ発展途上の段階にあると思われます。 GISTのhigh grade malignancyの再発症例や進行症例の治療については従来ほとんどお手上げの状態でしたが、最近CMLの治療薬であるイマチニブ(グリベック)がGISTの治療に極めて有効であることが示され、一躍脚光を浴びています2)。グリベックは初の分子標的治療薬であり、今後症例の投薬基準、投薬方法などの検討課題が残されています。しかし、このような治療薬は副作用の点にも充分な留意が必要で、効果の面ばかりが強調されすぎると、患者さんに重大な悪影響を及ぼす可能性もあります。グリベックの効果はc-kitの遺伝子異常の部位によって規定されることが最近示されました(エクソン11は効果が良好で、エクソン13と17は無効、エクソン9はその中間)2)。診断のみならず、治療の面からもGISTの遺伝子解析はもはや必須なのです。 上記のようにGISTは組織所見、免疫染色、電顕所見、遺伝子解析を総合的に解析して診断します。GIST の病理診断は将来の病理診断の在り方を反映しているのかも知れません。 最後に、GISTは何と発音するのでしょうか? ギスト、ジスト、それともジーアイエスティー、でしょうか? 学会でもちょっとした話題になっています。皆さんは、どう発音しますか? (答えをお知りになりたい方は、いつでも病理検査室にいらしてください) 文献 : 1) 菅井有、中村眞一. 消化管粘膜下腫瘍の病理ム組織分類. 臨消内科 2001; 16: 273-282 2) GIST研究会、ホームページ:http://www.gist.jp/ |
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