岩手医科大学臨床検査医学講座

第6号 〜



トピックス ◇

治療関連白血病(TRL)について

血液検査室・阿保 徹

 

 悪性腫瘍に対する治療は少しずつではあるが確実に進歩しており、疾患によっては治癒と長期生存が得られるものもみられるようになった。一方で、晩期合併症として二次性の造血器悪性腫瘍の発生が問題となっている。これらは治療関連白血病(TRL)と総称されているが、骨髄異形成症候群(MDS)も含まれている。厚生省の「成人の難治性白血病研究班」の全国調査からは、わが国の全白血病に対するTRLの占める割合は2%程度であると報告されており、一次腫瘍からTRL発生までの期間は中央値47.9ヶ月で、多くが一次腫瘍の治療から2〜10年の間に発生している。
TRLの90%以上は急性骨髄性白血病(AML)あるいはMDSであり、急性リンパ性白血病(ALL)の頻度は極端に低い。これは de novo 白血病の約70%がALLである小児においても同様の傾向であり、小児TRLにおけるALLの割合は約4%との報告がある。FAB分類では成人、小児のいずれにおいても単球系の性質をみるM5、M4の割合がde novo白血病に比べて高かった。
TRLを発生させる一次腫瘍の内訳は、成人では造血器悪性腫瘍が多く(39%)、その他には消化器癌(15%)、乳癌(13%)、婦人科癌(9%)などがある。小児でもALL、非ホジキンリンパ腫(NHL)、AMLなどの血液疾患が多く、その他に神経芽腫などが報告されている。
一次腫瘍に対する治療は、化学療法単独がおよそ6割を占め、放射線との併用が3割程度であった。化学療法薬としてアルキル化薬が67%、トポイソメラーゼ阻害薬が48%で使用されていた。アルキル化薬は従来から二次性の造血器悪性腫瘍の発生が指摘されていた薬剤であるが、全国調査の解析からはトポイソメラーゼ阻害薬の使用が早期のTRL発生と関連することが示された(アルキル化薬単独例69.0か月、トポイソメラーゼ阻害薬単独例33.9か月)。
染色体異常の有無およびタイプは急性白血病の予後に大きく影響する因子となる。成人TRLにおいては76%で染色体異常がみられ、7番染色体欠損31%、5番染色体欠損21%、11q23転座11%であった。11q23転座は小児のM4およびM5でも多く、またMDSでもしばしばみられた。小児TRLに関しては11q23転座がある全ての例でトポイソメラーゼ阻害薬が使われており、一方でこれを使用されていない群には11q23転座が含まれていなかったという報告もある。染色体11q23領域にはMLL遺伝子が局在するが、de novo白血病では乳児の白血病(ALL、AMLとも)においてMLL遺伝子の再構成が高頻度でみられ、予後不良因子となっている。成人の全国調査ではTRL発生までの期間はMLL遺伝子の再構成ありが36.5か月、再構成なしが67.4か月で有意差があった。
TRLは治療抵抗性であることが多く、全国調査では完全寛解率は46%であった。寛解を得てもその半数以上(55%)が再発しており、解析時点での死亡は76%と4分の3にも達している。死因は感染症と白血病の悪化が多く、一次腫瘍の悪化は5%未満であった。50%生存期間は9.7か月と不良でAMLとMDSに差はなかったようであるが、成人ではトポイソメラーゼ阻害薬の使用歴と相関して予後は不良となっていた。
TRLの発症および予後が、前治療で用いた化学療法剤や随伴する染色体異常と密接に関連していそうなことは確かである。一つの悪性腫瘍を克服された患者様に晩期障害として予後不良の白血病が発症することは非常に痛ましいことであるが、悪性腫瘍全体の長期生存率が改善していく過程でこのような二次発癌もますます増えていくものと思われる。二次発癌のリスクを減らすような新規治療の開発や、いわゆる「オーダーメイド医療」の発展によって二次発癌発症のリスク評価や発症回避が可能となることが期待されるところである。



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