岩手医科大学臨床検査医学講座

第7号 〜



検査情報 ◇

@ 神経伝導検査について


神経・筋機能検査室 村上 惠子 
    

 神経・筋機能検査室。ちょっといかつい名称ですが俗に言う、脳波検査室です。当検査室で施行している検査は大きく二つに分けることができます。ひとつは脳波計を使用した脳波検査と誘発電位・筋電図検査装置を使用した各種誘発検査です。誘発電位とは一定の刺激によってそれに対応する中枢神経系に誘発される電位反応をいい、ポピュラーなものとしてはABR(聴性脳幹反応)、SEP(体性感覚誘発電位)、VEP(視覚誘発電位)などがあります。この装置はそのほかに筋電図検査、神経伝導検査等も可能です。
 今回はこの中で神経伝導検査について紹介します。神経伝導検査(nerve conduction study, NCS)は以前、神経伝導速度検査と呼ばれ神経インパルスの伝導速度に主眼が置かれていました。しかし、伝導速度の低下は末梢神経障害の客観的指標とはなりますが、脱力や感覚低下といったニューロパチーの症状や徴候には直接関係しないことが明らかとなり、そのため最近は病態により直結した誘発電位振幅あるいは形状の重要性が叫ばれ詳細な解析が行われています。
 運動神経の伝導検査では、神経の走行に沿って遠位部と近位部で電気刺激を加え、誘発された複合筋活動電位(CMAP; compound muscle action potential またはM波)の振幅(amplitude)と潜時(latency)を計測します。刺激部位2点間の距離を潜時差(ms)で除し伝導速度(m/s)を求めます(図)。感覚神経伝導検査は活動電位をSNAP(sensory nerve action potential)と言い、筋肉の活動電位を介して伝導速度を算出するCMAPと違い、直接神経を刺激し誘発された神経電位を測定します。

 末梢神経障害は軸索変性と脱髄に分けられます。軸索変性は神経からの情報が筋に伝達されないためCMAPの振幅は低下しますが最大神経伝導速度は比較的軽度の障害に留まります。軸索変性を特徴とする疾患として、アルコール中毒症、尿毒症、多発性結節性動脈炎、糖尿病、悪性腫瘍などが挙げられます。脱髄の場合は、神経線維ごとに伝達遅延の程度が異なり、高度なものでは伝導遮断が生じます。そのためCMAPは波形が乱れ、振幅は低下し、明らかな伝導遅延が認められ、刺激閾値も上昇します。末梢神経にみられる脱髄疾患の主なものにはGuillan-Barre症候群、慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー、骨髄腫に伴うポリニューロパチー、遺伝性運動感覚性ニューロパチー沍^などが挙げられます。
 神経伝導検査は歴史も古く珍しい検査ではありませんが、測定機器の進歩により伝導速度に留まらず、詳細な解析が可能になりました。私たち検査技師も臨床に信頼されるデータを提供できるよう日々研鑽に励んでいます。どうぞ検査依頼を!お待ちしております。



A リウマチ因子の測定について

 免疫化学検査室・豊巻 和司 

 
 <話題:リウマチ因子と新しい自己抗体>
 リウマチ因子(RF)はIgGのFc部分を対応抗原とする自己抗体の総称であり、関節リウマチ(RA)のバイオマーカーとしてその診断基準に含まれています。RAにおける感度は60〜80%とされていますが、他の疾患や高齢者でも陽性になることがあり、特異性にやや問題があると言えます。通常測定されるIgM-RFにIgG-RFや抗ガラクトース欠損IgG抗体(CARF)の測定を組み合わせることにより、病態の把握や早期RA診断での有用性が若干向上するとの報告があります。
 近年、新たな自己抗体として抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体が注目されています。RFと比較すると感度はほぼ同等で特異度に優れている(80〜90%)との報告が相次いでいます。また早期RAの診断に役立つことが期待されているようです。
抗CCP抗体の対応抗原はシトルリン化されたフィラグリンです。1960年代に抗核周囲因子や抗ケラチン抗体と呼ばれた自己抗体の対応抗原が、上皮細胞に存在するフィラグリンでした。当時、RAに特異的ではあるものの、対応抗原が不明であったり操作が煩雑であったことから注目されなかったようです。合成ペプチドの技術により甦りました。
 現在、ELISA法による測定が可能ですが、操作性や測定時間、および少数検体の測定と言う点では効率的と言えません。早期の自動化が期待されます。

<RF測定の問題点>
 検査室において、RFは問題点の多い項目の一つです。まず、測定法の標準化が遅れていることにより、試薬間や施設間でのデータにばらつきが大きいという問題があります。RFの抗原IgGに対する反応性は、用いるIgG subclassやnative IgGとdenatured IgGの違い、由来動物種などで多様であることが知られています。RFの測定には定性法・半定量法・定量法があり、それぞれ多くの試薬が開発されていますが、試薬間で抗原を統一できる状況にはないからです。また、C型肝炎やSLE患者血清中にはRF活性を持つクリオグロブリンが検出されることがあります。その成分には異なる免疫グロブリンクラスのRFが存在する場合もあり、それぞれ抗原IgGとの親和性が異なると言う報告もあります。
 つぎに、RFには異常反応の原因物質としての問題があります。RF以外の血液化学検査や免疫学的検査項目の反応系において、RF同士の凝集や試薬成分への非特異的な吸着により、その反応を干渉することがあるからです。これらは検査結果の偽陰性・偽陽性あるいは偽低値・偽高値の原因となります。
 RFにはその産生機序や対応抗原などに関して不明な点も多くあります。今後、解析が進展するとともに測定法も改良されることが望まれます。



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