岩手医科大学臨床検査医学講座

第8号 〜



検査情報 ◇

日本臨床化学会・日本臨床検査医学会総会に参加して


自動分析室 斎藤  篤 
    

 今シーズンは冬の訪れが早く、11月にはすでにインフルエンザの発生が報告されました。先日、私も「風邪かな?」と思い近所の病院に行き問診、血液検査など受けて薬を処方してもらいました。しかし、一向に症状が改善しなくて総合病院を紹介してもらい受診すると、「じゃあまず、血液検査をしましょうか」と。「つい数日前に近医で検査しているのに、また?」痛いし、また検査料支払うのか。
ASTは肝機能検査として検診などでも必ず検査する項目ですが、その測定法や報告単位が複数あり、検査室により測定値が異なっていました。その結果、医療機関が変わる毎に重複検査が実施され、無駄な検査が実施されているだけではなく、個人データの長期変動の把握を不可能にしていました。このような状況を改善するために、医師会、各学術団体などが精度管理調査を実施してきましたが、その成果は充分達成されているとは云えません。このような状況を踏まえ平成16年、経済産業省の指導により「臨床検査の標準化プロジェクト」として全国的な活動が始動しました。本学会のシンポジウムではその計画内容、進歩状況などについての報告がなされました。このプロジェクトは「柱1〜3」から構成され、今後5年間の活動計画が示されています。  

・柱1:日本臨床化学会などにより国内標準となる測定法の開発、標準血清の整備を行なう。

・柱2:日本臨床検査標準協議会を責任機関として全国の施設での検査データの統一化を実現する。 

・柱3:日本臨床検査医学会などにより基礎データの蓄積による病態の判断基準値を公表する。

 
 1980年代より日本臨床化学会を中心とし、国内の標準となる測定法の整備が進められてきました。その結果、現在では一般的な生化学検査、血算項目ではすでに標準化がなされ、異なる施設間でも同等の検査結果が得られています。このことは平成16年度に実施された本プロジェクトの調査結果でも確認されています。本年度は更に規模を拡大し、「検査データの統一化」を推進するための全国的な基盤整備を進める為の活動を行い、当検査室も東北地区の基幹施設としてこの事業に参加しています。しかし、感染症での抗体価やホルモンの力価などは標準法(基準)が存在せず、測定器により全く異なる測定値が得られます。このことは従来より指摘されてきたことで、特にHBs抗体の評価標準化の必要性について言及した報告がありました。HBV感染予防という観点からHBs抗体価の測定値を評価した場合、国際基準とされるHBV感染防御最小HBs抗体価と、日本国内で使用されている機器での測定値が必ずしも一致せず、ワクチン接種に際し弊害を招いていて早急な改善が望まれるとの事でした。
 一方、生化学検査項目のように各施設間の測定データが統一されたとしても、その判断基準となる基準値(従来は参考値、正常値と標記していました)が統一されていない為に、その結果の解釈が異なってしまうという現状があります。統一した基準値の確立と、的確な疾病の予防、診断が行なえるデータベースの構築を行なうことを目指して今後、更なる検討が行なわれる予定です。



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