(8)主治医のコメント(その1)
喘息の発作の苦しみは、体験した者にしかわからないといいますが、その苦しみを医師にわかってもらえず適切な処置を受けられないほど辛いことはないのではないのでしょうか?しかも、この数々の訴えは恐らく良くなった今だからこそ書けることばかりではないでしょうか?苦しい最中にこれらの事を訴えたところで、救急外来で味わったのと同じ結果であったでしょう。良くなった今だから、“ほら、やっぱりこんなに良くなったじゃないですか?やはり喘息だったじゃないですか?”と私を含めてこれまで携わった医師に訴えることができるのだと思います。書いてある内容が過激すぎると思ったのか、彼女はこの手記を私に手渡す時、くれぐれも「まずいところは削って下さい。」と、念を押しました。確かに、これを過去の主治医の先生方が読めば気まずい思いをするかもしれません。しかし、私は敢えてすべて修正せず掲載することにしました。彼女の言うところの“ミニブック”を作成するに至るまでは、私も同じような考え方で彼女に接した時期がなかったとは言えず、自分自身に対して深い反省の念を込めたいと考えたからです。
彼女を担当するようになってほぼ5、6年が経ちますが、彼女は私の診ている患者さんの中で難治性の3本の指にはいる患者さんのうちの一人でした。彼女の場合、何よりも悲惨であったであろう事は、これまで重積発作や大発作などの経験がなく、一般的な分類からすれば中等症から軽症の部類と考えられていたことであるかもしれまん。よく喘息発作がひどくなると喘鳴さえ聞こえなくなると言われますが、彼女の場合はこれと少し違うようでした。実は私自身も、発作時には一度もラ音を聞いた覚えはないのですが、気管支拡張剤やステロイドを投与するとピークフロー値は改善し症状がとれるので、やはり喘息としか考えられないのでした。この手紙から、最初はゼイゼイ、ヒューヒューが聞かれたのに、いつしか聞かれなくなったと書かれており、その経緯が初めてわかりました。恐らく色々な“中途半端な治療”がこの方の喘息の病態をマスクしてしまったのでしょう。非常に貴重な報告だと思います。発作で喘鳴が聞かれないとすれば恐らくそれは、気管支痙攣ではなく気道炎症が高度になっている証しなのかもしれません。こんな時は、ネオフィリンなどの気管支拡張剤よりも速効性のステロイドが効果があるようです。
本人の手紙へ | 主治医のコメント→ | 目次へ |
---|