(8)主治医のコメント(その2)
彼女の場合、色々な誘因で喘息が悪化したようです。気道炎症があり過敏な状態では、どんな刺激も増悪因子となりえます。運動、寒冷、臭い、精神的なものすべてです。以前は、精神的なストレスで発作が誘発されたことから、喘息は精神病の一種だと思われていた頃があります。子供の場合は母親が過保護になりすぎることが原因と考えられ、小児喘息は“母原病”などといかにもかっこいい名前をつけられたことがあるのです。実際にまだこのような考え方の医師が存在していることも事実なのです。しかし、これらはすべて発作の増悪因子であって喘息の本態ではないのだと強調しておきます。つまり、喘息の状態が良くないから、ひょんなことで発作が引き起こされるのです。良くなれば、同じ誘因が加わっても発作を起こさない人は何人もいるのです(→(3)50歳、女性)。
私は、何度も彼女に入院を勧めてきたのですが、入院したくない大きな理由は、入院するとそのフロアのエレベーターホールは喫煙所になっていて、たえずたばこの煙が蔓延し、例え誰も吸っていなくても、こびりついた臭いがたまらず息苦しくなってしまうからでした。階段を使えばいいじゃないかと思う人がいるかもしれません。しかし、苦しくて入院しているのに何故階段を使って検査や他科受診に行くことなどできるでしょうか?むろん、他にエレベーターはないし、例えマスクをしたところで完全に遮断されるものではありません。彼女の訴えを聞いて私は婦長さんにお願いし、そのフロアのエレエベーターホールを禁煙にしてもらいましたが、今だにこの大きな病院がそのフロアだけしか禁煙になっていないのにはがっかりさせられます。
以前、余りにもステロイドの点滴に依存しているので、ある入院主治医が、ステロイドを抜いて外見でわからない様に点滴をしたところ、それでも少しばかりピークフロー値が上昇した事があり、それが原因で彼女の病状には精神的要因が大きく作用しているとレッテルを張られてしまった事がありました。喘息の状態が良くなければ、逆に精神的なもので良くなることも有り得るのです。その頃家族の間の人間関係がうまく行っておらずそれも良くならない原因と思われていたのでした。しかし、強調したいことは、本当はベストが600位吹けるはずの人が、コントロール不良で350前後の値しか吹けない状態にあれば、精神的ストレスで300に低下することもあるし、実際は中味がないのにステロイドを点滴したと思い込んだだけで400位に上昇する事は十分有り得ることなのです。しかし600という値から見れば、300も400も大差ないと私は思います。如何に350前後から脱却して倍増に近い600に近づけるかこそ喘息治療の本質であると私は思います。600前後に近づけば、多少の精神的な要因でピークフロー値は下がったとしても、絶対に急激な発作などは起きるはずはないと思います。
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