(00)主治医のひとりごと(その5)
ピークフローメーターは、使ったことのない患者さんや導入に積極的でない医師は、「毎日つけるなんて面倒くさいのでは?」と考えるであろう。事実自分もそうであった。しかし、「発作がなく何ともない。」という患者さんにピークフローを吹かせて、250という値がでたとする。その人の平均値が450であったとすると、ほとんどの患者さんはショックを受けるが、「年だから。」とか「喘息だから。」と必ず言い訳を考える。日本人は特に自分の健康が数値として表わされるとものすごく敏感なものである。その良い例が血圧である。どんなお年寄りでも血圧だけには敏感なものだ。それとまったく同じように、ピークフローが吹けないのは、年のせいでもなく喘息で体力がないせいでもなく、単に気管支が細くなっているためであることを説明してあげると、面白いようにピークフローを毎日つけてくれるようになる。こうなればもうしめたものである。
呼吸器専門の医師は別として、吸入ステロイドが代表的ステロイド剤であるプレドニンの何百倍も強力な抗炎症作用を有するステロイドであることはあまり知られていないのではないだろうか?実は当初はじめてその事実を知ったときは私も大変驚いた。しかし、安心して欲しい。この吸入ステロイドは血液に吸収されても肝臓で分解されるから全身性の副作用がないのである。こんなに強力な吸入ステロイドを使用しても抑えることのできない気道の炎症なんてもうどうにもならないのではないか...?いや、私は吸入ステロイドが効かない喘息などほとんどないのではないかと考えている。吸入ステロイドが効かないのは、作用が不足しているのではなくて炎症を起こしている気道に届かないからなのだ。これが吸入ステロイドの最大の弱点である。しかし、一旦気道が開いてくれれば吸入ステロイドは、十分気道炎症を鎮め続けてくれるのだ。その一旦開いてくれるのが“全身性ステロイド”なのである。全身性ステロイドは血液から吸収されて、炎症で細くなっている気道を開いてくれる。全身性ステロイドの一番の怖さは何ヵ月、何年もにわたって長期間使用されるときである。2週間程度の服用は、胃腸障害などの急性副作用を除けば、糖尿病や骨への影響などのいわゆるステロイドの副作用はほとんどないとされている。ピークフローメーターを記録しながら、全身性ステロイドを一定期間使用しある程度気道を開き、吸入ステロイドを効かせるようにする。これが、発作はないが気道炎症からくる“日常生活制限”のある状態から脱する方法と考えている。
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