(00)主治医のひとりごと(その6)
話は飛ぶが、私が呼吸器科医として専門に研究しているのは、肺線維症や急性呼吸促迫症候群(ARDS)など肺が破壊され、ステロイドが効かない難治性肺疾患である。呼吸器領域の主な疾患には、これらの他に肺癌、喘息、たばこによる肺気腫や慢性気管支炎などがある。肺気腫や慢性気管支炎やほとんどの肺癌は、この世から“たばこ”がなくなれば何十分の1に減るであろう。私がこれまで喘息を専門に研究対象として取り上げなかった大きな理由は2つある。1つは、喘息は基本的にステロイドがよく効く疾患であること。2つは、自分にはB型(あまり好きではないのだが血液型を変える訳には行かないのでどうしようもない)の血が流れており、どうしても人のあまりやらないことを研究したいという性格があったこと。ステロイドが効かない難治性肺疾患を扱っている自分にとって、喘息ほどステロイドが良く効く疾患はないのに、その使用を躊躇し、さまざまな日常生活制限に甘んじているなんて“勿体ない”としか思えない。喘息は決して甘くみてはいけない疾患ではあるが、なぜ喘息で職を失ったり、結婚できなかったり、子供を生めなかったり、高校へ進学できなかったりしなければならないのだろう?!
喘息治療に関しステロイドが悪玉になったのは、吸入ステロイドが普及する以前であり、マスコミがその副作用のみを一方的に取り上げたからではないだろうか?内科領域で吸入ステロイドが十分浸透した今、確かに大きな発作は減少した。しかし“日常生活制限”がなく快適な生活が送れるようになるために、もう一度全身性ステロイドが見直されるべき新しい局面を迎えなければならない気がする。一方、小児科の先生が吸入ステロイドを受け入れてくれない大きな理由のひとつに、吸入ステロイドが普及する以前に副作用に対して抱いた“残影”があるのではないだろうか?テオフィリンのRTC療法やインタールを中心とした現在の治療では、(1)、(5)、(6)、(16)で紹介した患者さんのように喘息児はまだまだ不十分な状態であるという気がしてならない。今一度吸入ステロイドを見直して戴けないだろうか?
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